049 出航準備
三百五十八日目。
パドルと舵をナイフで仕上げた。
まずは、舵を船に取り付けて行く。
しかし、舵は引き上げることが出来ないと、海底に擦ってしまう。
どうすればいいんだろう。
試行錯誤の末、完全に引き上げる事は諦め、五十センチ程は上下動が出来るようにして固定した。
何が正解かわからない時は、トライアンドエラーしかない。
舵を取り付け終え準備完了。
これでようやく船が動かせる。
ちょうど満潮で船が浮かび始めたので、早速、船を動かしてみる。
怖いので陸側に糸は繋いでおこう。
帆はたたみ、まずはパドルで漕いでみる。
全長十メートルでしかも丸太素材。わかってはいた事だが、船が重すぎる。
進まない事は無いが、鈍重だ。
パドルで進むのは現実的じゃ無い。
これはマストが折れれば、漂流するしか無いな。
舵を下ろし、帆を張ってみる。
風を受け帆が膨らむと、一気にスピードを上げ船が進み出した。
あっという間に陸と繋いでいる糸の限界を超え、陸側の杭が抜けてしまった。
慌てて、帆を畳むと既に始まりの浜は遠く、ドンドン流されて行く。
嫌な汗が流れる。
「カブ太、ヤバイ。でも落ち着いて、まだ島は近くだ。」
「ブン、ブゥン」
カブ太が羽を出し、飛びたそうにしている。
最悪、カブ太は糸を離せば飛べるから助かるか。
いや、カブ太の心配もだけど、マジで俺がヤバい。島へ戻らなきゃ。水すら積んで無いよ。
目と鼻の先に島があるとはいえ、かなり焦る。
帆を半分程張って舵を島へ向けて切ると、船はあっさりと島の方向へ戻ってくれた。
しかし、始まりの浜へは戻れそうに無い。
既に南に流され、目の前には先日鮫釣りをした磯が見えている。
島伝いに船を進めると、始まりの浜から南にある岬を越えた。
風裏になったので、帆を畳み、パドルで島に向かって全力で漕ぐ。
なかなか進まないが、なんとか島にたどり着くことが出来た。
船を波に合わせ浜へ引き上げ、近くの木に糸で繋いだ。
「カブ太、ヤバかったなー。ちょとした油断で死ぬとこだったよ。帆があんなに進むとは思わなかった」
「ピコピコッ」
初めて来た浜は、始まりの浜と同じように崖に囲まれた浜だった。
長さは倍くらいだが、砂浜は殆どなく、崖下にも樹木が生えている。
岬に挟まれた小さな湾になっており、ちょっと狭いが船の練習には良さそうだ。
此処は島の最南部付近なので「南浜」としよう。
とりあえず、始まりの浜へ帰らないと。
崖に囲まれているが、南浜の西側は傾斜が緩い上、樹木に覆われている。
木を伝って、崖上に上がれそうだ。
しっかりと船を固定すると、崖を登って行く。
途中、カブ太の警告も数度あり子蜘蛛に襲われたが、何も問題はない。糸で包んで放置しておいた。あとはスライムを見かけた程度だった。
ジャングルを一時間程、崖に沿って歩くと、「鮫釣磯」が見えてきた。
良かった。此処からは知っている道だ。
始まりの浜へ辿り着くと、久しぶりに大雨となった。間に合って良かった。雨が降ると、蜘蛛等の活性が上がるので、流石にそんな時にジャングルは通りたくない。
急いでシェルターに潜り込む。
さて、船も出来上がった。
なんとか目標としていた一年を前に完成することが出来た。
本格的に島を出る準備を進めよう。
雨がシェルターの前室に当たる音を聞きながら、これからの行動計画を立てる。
出発時期は涼しくなり、南風が吹き始めた頃。
しかし、去年は台風みたいな嵐もあった。
少し余裕を見て、寒くなり始めた頃がいいかもしれない。
ドラゴンが飛んできた頃がちょうど寒くなり初めだったと思う。百二十日目あたりだったはずだ。
一年の日数が違うと思うが、ざっと四、五ヶ月後くらいには、南風が吹いており、北へ向かえるはずだ。
それまでが準備期間か。
操船技術の向上に、保存食の確保、船用の水瓶に後は日除けを張りたい。
細かい物だと、船から水を掻き出す桶も必要だな。
目指す場所すら分からず、航海期間も不明だ。
出来る限りの食糧と水を積むしか無い。
最悪、食糧は釣りでどうにかなるかも知れないが、水は無理だ。
蒸留で水が作れるだろうか?
万が一を想定して、蒸留装置を焼物で作ってみる価値はあるかも知れないな。
◇◇◇
三百六十五日目。
島で生き延びて今日でついに一年が過ぎた。
何とか生き延びてはいるが、ただそれだけだ。生きるために獲物を獲り、食べて寝て、不便を解消するための物作り。一年経っても風呂なし生活だ。トイレも無いか。
文明のある生活が恋しい。
ビール、ビール、冷たいビールが飲みたい。
タバコが有れば言うことない。
あと冷房。
甘いものが食べたい。チョコレートとか最高すぎる。
いかん。意識が何処かへ行ってしまっていた。
しかし、何とか生き延びている現状を捨て、地図もコンパスも無く大海原へ飛び出すのは余りにも無謀ではないか。
水が尽きれば、死ぬしかない。
しかし、この島で原始的な生活をこれからも続けるのか。
答えは決まっているのに、いつも悩んでしまう。
死ぬのが怖い。
命を賭けるのか。賭ける価値があるのか。
もう何度も繰り返した自問自答だ。
何も無いこの島でずっと生きて行くのは無理だ。
生命活動としては生きていけるかもしれないが、それは望む人生では無い。
やるしか無い。それで死んだら、運が無かったと諦めよう。
だから今は、生き残る確率を上げるために、出来ることを全力でやっていこう。
優先順位とおさらいだ。
海水から真水を入手する方法を探す。
保存食を作る。
星を観察して、方角を知る術が無いか調べる。




