048 アウトリガーカヌー
三百十一日目。
十日ほどでメインのパーツは作り終えた。
以前切った木の皮を剥ぎ、その前後を水を切るように流線型に削ってアマを作りあげた。
カヌーとアマを繋ぐヤクも作った。
記憶ではヤクは湾曲した木で、船とのバランスで長さが変わると思うのだが、よく分からないので適当に三メートル程の物を二本用意した。
上手くいかなかったら、作り直せば良いや。
石器での木工スキルがあがったのだろう。作業は捗り、十日間で出来上がったのは、上出来だ。
後はパドルを作れば、最低限のパーツは揃うので先に船を組み立てたい。
◇◇◇
三百二十一日目。
船の完成を目前に足踏みが続いている。
組み立てのために、船を海岸まで運ぶことにしたが、運搬路の整備に時間がかかっているのだ。
全長が十メートルあるので、小回りが利かず、どうしても海岸まで持っていく間の木を切る必要がある。
一日三本から四本の木を切り倒し、ようやく、直線的に通れるルートを確保した。
ただし地面の切株は撤去できなかった。
これではコロが使えない。
何とかしなければ。
何とかするんだ。
絶対に船を海岸まで持って行く!
◇◇◇
三百二十二日目。
船が何キロくらいあるのかさっぱりわからないが、とにかく重い。
地面も切株が突き出ている。
悩んだ末、レールを作って運ぶことにした。
運搬路の伐採で出た木の皮を剥ぐと、梯子の様に二本を並行に並べて固定する。
完全に見た目は梯子だ。
並べた二本は出来るだけ滑りやすいように、枝を切った跡も綺麗に削り取り、糸で巻いてしまうと最後に高度を上げておく。これで表面の摩擦をかなり軽減できると思う。
◇◇◇
三百二十四日目。
昨日も梯子を作り、二セットを準備した。
今日は移動を開始する。
船の片側を複数のリングを用いて、滑車の要領で持ち上げると、下に梯子ならぬレールを差し込む。
反対側も持ち上げ、もう一つのレールに乗せる。
かなり船が不安定なので、レールから落ちないように硬い糸でトンネルを作っておいた。
その見た目から、公園にあるローラー滑台を思い出してしまう。
今度はレールの上を、横向きにセットしている牽引用の糸で無理矢理に引き摺れば、ギックリ腰のおっさんのように少しずつ動き、ようやく船が一つのレールの上に移動した。
ここまでで、ようやく四メートル程移動できた。
今度は切株等を避ける為、次のレールを傾斜をつけてセットする。
糸を出して固定して、船を引っ張り、糸で固定して……と、遅々として作業は進まないが、やるしか無い。
遅くとも進んでいるのだ。
◇◇◇
三百三十九日目。
船を二週間も毎日、引っ張り続け、ようやく浜へ下ろせる位置まで持って来た。
後は三十メートルの崖を下ろせば終わりだ。
九本の糸を船へ結合すると、その辺りの木々を縫うように歩き、糸を摩擦で固定しておく。
崖ギリギリに置いた船をテコを使って全力で押すと、船はバランスを崩し、垂直方向へ重心を移した。
後は、上手くブレーキがかかるように糸を出せば良い。
先程縫うように歩いた木々の間を、慎重に逆に歩く。
糸が解けるうちに、体が引きずられる位置にきたので、木に巻きつくように動き、糸にブレーキをかけて船を止める。
釣り合いの取れる位置を探して、緩やかに糸をリリースできるポイントを見つけると、慎重に船を崖下へ下ろした。
「ふぅ〜、カブ太。何とかなったよ。」
「ピコピコッ」
黄金色に輝くカブ太は、いつ見てもカッコいい。
さぁ組み立てだ!
本体にヤクを結びつけ、ヤクにアマを固定する。
ヤクが湾曲していないので、本体が傾いてしまった。バランスが悪い。
喫水線を意識して、ヤクとアマの間に補助パーツを入れ、高さを調整。
早く海に浮かべて見たいが、ちょうど干潮で波打ち際は遥か先だ。
満潮時にギリギリ水に浸かるくらいのところまで、レールを使ってさらに移動させる。
周りに木がないので、リーフにアンカーをとって引っ張ったりと、森の中より数倍大変だ。
どうにか予定の位置まで移動させると、満潮時に流されないようのしっかりと固定する。
明日が楽しみだ。
◇◇◇
三百四十日目。
ついに船が水に浮かぶ日だ。
ワクワクしながら朝からパドル作りを頑張るが、完成する前に、船の周りが水に浸かり始めた。
待ちきれず、船に乗り込む。
そのまま、船の中でパドル作りをしていると、三十分程でグラグラしてきて、ついに船が海面に浮いた!
「やった!カブ太、浮いたよ!」
「ピコピコッ」
感動である。
長かった。船を作り始めて、八十九日目でようやく船が浮かんだ。伐採から考えればもっと掛かっている。
まだ帆や舵を付けたり、操船を練習したりと、やる事は山積みだが今は感動に浸りたい。
船の中で寝転んでみる。
狭くて真っ直ぐ仰向けには慣れず、斜めになってしまうが、構うものか。
ユラユラと揺籠に揺られるように気持ちがいい。
マントを船縁に渡し日陰を作ると、気持ち良くなり、そのまま寝てしまった。
ゾゾゾと船底が海底を擦る音で目が覚めた。
いつの間にか干潮になったようだ。
結局、その日はグダグダと過ごしてしまった。
船が浮かんだ嬉しさで気が緩んでしまった。
いかん。完成まであと少し。
明日は頑張ろう。
◇◇◇
三百四十一日目。
ここの一年が何日かは分からないが、元の世界で言えばもうすぐ一年が過ぎる。
特に期限がある訳じゃ無いが、キリよく一年以内には船作りを終わらせたい。
今日はパドル作りの続きだ。
このパドル作りが簡単そうに見えて、なかなか難しい。
そもそも、幅が広い板が無い。
昨日から作っているのは、丸太を薄く削り、平面を作ろうとしているのだが、完成したところで、水を掻く面積が小さすぎる。
もっと、大きな平面が欲しい。
悩んだ末、作り直すことにした。
船を作った原木を斧で切り、一枚の板を作りたい。
あの木ならば十分な大きさだ。
時間はかかるだろうが、やるしか無いだろう。
◇◇◇
原木を一メートル程の長さで切り出し、それを縦に半分に割った。さらにそれを薄く割りたかったのだが、歪に割れてしまい、半分は無駄にしてしまった。
残るは半分しかない。
船を作った時のように、斧で形を整えて行く。
パドル型の木を削り出すまでに十日間を要した。
さらに五日間を費やし、舵になる板も削り出した。
材料の準備とか地道な作業はやっぱり好きになれない。ただ辛い日々だったが、それも今日まで。
明日からは組み立てだ。
◇◇◇
三百五十七日目。
船にマストを建てた。
嫌になる程、補強しておいた。
もう大丈夫ってところから、さらに追加で補強した。ここまでやれば大丈夫だろう。
冬の間に準備しておいた帆をマストに吊るす。
帆の張り方なんて分からないので、横棒を帆の上下に付け、それをマストに取り付ける。
風を受け、帆がパンパンに膨らむと、砂浜に乗り上げた状態でも船が動こうとする。
凄い!こんなに力が強いのか。これなら、スピードも期待できそうだ。
糸で帆の向き、張り加減をコントロールして見たが、特に問題ないようだ。
待ってろ。文明!
脱出までもう少しだ。




