047 巨大魚
二百八十七日目。
夜中にまとまった雨が降った。
本当に久しぶりの雨だ。
鍾乳洞の水は枯れる事は無さそうだが、それでも、水を汲む作業は楽じゃ無い。
雨が降ってくれるのはありがたい。
◇◇◇
三百日目。
この島に来て、ついに三百日がたった。
そして船作り四十九日目。
ついに、船が完成する!といっても良いんじゃなかろうか。
まぁ、三百日目がキリが良かったので、今日で終わるくらいのペースで作業しただけなんだけど。
祝うように、朝から雨。
作業はやり難いが、嬉しい。
最後の仕上げで、船底を爪ナイフで削っでいく。
水を切って進むような線形を意識したが、素人が削っただけのカヌーだ。うまく進んでくれるだろうか。
午前中で、カヌー本体は完成した。
まだ色々作るものはあるが、作業はひと段落。
この島で三百日もやってこれたのはカブ太のおかげだ。話し相手がいるだけで、随分救われた。
今日は何か恩返しがしたい。
「カブ太、久しぶりに大物釣りやろうか?負けっぱなしは気に食わないもんね。」
「ピコピコッ」
昼からは雨も止み、久しぶりの大物釣りに出かける。
暖かくなってきてから、浅瀬でも背鰭を見かけるようになった。奴らが戻ってきたのだ。
いつもと作戦を変え、始まりの浜から南へ二百メートル程移動して、リアス式になっている岬の突端にやってきた。
ここはリーフが無く、ドン深になっている。
水面までは七メートル程、高さがあり足場が悪いが、ここなら、多少は糸を出しても問題ない。
さらに秘密兵器として、以前切り出した木を加工して一本持ってきた。
長さ八メートル、太さ十センチの巨大ロッドだ!
岬先端で岩の裂け目に巨大ロッドを固定したら、エレベーター仕掛けの道糸を遠投しておく。
小物を釣り、背掛けにして投入すると、続けてさらに数匹のエラを切って撒き餌として投げ入れる。
三十分程で二匹の鮫が見えた。
今日は上から見てるので、その姿がはっきり見える。鮫で間違いない。
生き餌が逃げる振動が糸に伝わる。
食いつく瞬間が丸見えだ!
親指から出している糸に重みが乗った瞬間、糸を収納しながら、巨大ロッドを全力で煽る。
ズドンという衝撃の後、糸が一気に持っていかれるので、それに合わせ糸を出していく。
大丈夫、焦らない。
崖に予め作っておいたブレーキの位置まで下がり、糸を巻き付ける。
ブレーキと言っても、ただ丸太を立てただけのものだが、ちゃんと役割は果たせたようだ。
ブレーキで糸に抵抗が掛かったため、巨大ロッドが折れんばかりに軋みをあげ、弧を描く。
頼む!折れるなよ。
巨大ロッドが限界まで軋んでいたのは瞬間の筈だが、随分と長い間に感じた。
ギチギチと軋む音を立てながら、ロッドの弧が緩んでいく。
良し!
初めて鮫のファーストランを止めた。
ロッドは折れず、糸も切れていない。
巻きつけていた糸を急いで解き、一気に収納していく。
鮫は向きを変え、こちらに向かって泳いできているようだ。ここで、距離を稼ぐ。
ドンドンと収納していく。
やがて、鮫は向きを変え再度、走り始める。
大丈夫。同じ事の繰り返しだ。
数度のやり取りを終えると、水面に青白い魚体が見えた。
デカイ!三メートルは超えている。
まだ元気そうで、いつ走り始めるかわからない。
慎重に、綱引きのように後退りし、前に走ると同時に糸を収納していく。人間ポンピングだ。
バチャバチャと尻尾で海面を叩き、水面に頭が浮いているものの油断は出来ない。
ほぼ崖下まで引き寄せ、操糸スキルの範囲に入った。
糸を鮫の体内へ侵入させ全力で伸ばすと、勢い余って体外へと突き破ってしまった。
突然、真っ暗な影が水中から迫り、鮫を一飲みにして海中へ翻っていく。
マジか!
まだ鮫と糸が繋がったままだ。
糸を全力で出し続け、ブレーキの丸太に巻きつけた瞬間、巨大ロッドが中程で破裂しながら弾け飛び、しっかり固定していたはずのブレーキも折れて飛んでいってしまった。
糸はもう引っ張られていない。
何処かで切れたようだ。
呆気にとられるとは、こういう状況の事だろう。
「カブ太!見た?ヤバいって。超デカかった。アレ何だよ!丸呑みだよ!丸呑み!」
「ピコピコ!ピコピコ!」
カブ太もダンスするかのようにはしゃいでいる。
いやー、ヤバいヤバい!
三メートルくらいの鮫を丸呑みだよ。
一瞬見えた限りでは長い魚だった。
巨大魚で長いっていうとリュウグウノツカイが思いつくけど、そんな感じじゃ無くて、もっと肉厚なナマズみたいな感じだったな。
サメをひったくられた水面を眺めていると、五十メートル程先に巨大魚がひっくり返って浮いてきた。ドパン、ドパンと水面を尾鰭で一叩きするごとに、爆発したような激しい水飛沫が上がっている。
「カブ太!あれ!」
「ピコピコッ!」
何だか分からないが、糸に掛かった鮫を飲んだまま無理矢理潜ったので、何処か痛めたのか?
「ブォォォーン!」
俄然カブ太がやる気を出し、肩の上で力を溜めるように羽ばたき始めた。
「行くの⁉︎」
「ビコビコッ!」
「死ぬなよ!」
急いで糸を出すと、ブンッという音ともに弾丸となったカブ太が巨大魚に突っ込んでいった。
遠くてよく見えないが、巨大魚にたどり着いたのだろう、モゾモゾとした感触が糸を伝わってくるが、それ以上は何もわからない。
一時間程、水面に浮いてピクついている巨大魚を眺めていたら、ビクッと一震えした後、動かなくなった。
糸が緩み、カブ太がこちらに向かって飛んできた。
「カブ太?色が…というか、デカくなってるよね!」
「ピコピコッ!」
カブ太がメタリックな黄色になった。明るい黄金色とでもいうか、神々しい。
それに明らかにデカくなってる。もう肩の上では狭そうだ。
「魔石食べれた?」
「ピコピコッ」
前足を上げながら、コミカルにピョコピョコと動くカブ太がご機嫌そうで嬉しい。
あの巨大魚は食べてみたかったが、沖へと流されてしまった。取りに行く術は無いので諦めよう。
第一、今日はカブ太へのお礼が目的だ。
カブ太が喜んでくれればそれで良い。
「カブ太、一緒に居てくれてありがとうね。これからもよろしく。」
「ピコピコッ」
三百日目は良い記念になった。
島脱出まで、やる事はあと少しだ。頑張るぞ!




