046 船作り
固い。とにかく硬すぎる。
硬すぎて、砥石にしている平石が掘れてしまう。
十五センチ程の爪を四日も研ぎ続けて、今日は百七十九日目。
まだ研ぎが甘いが、もうやりたくない。
出来上がったのは、湾曲の両側が研がれた爪ナイフだ。
出来上がった刃に、グリップ部分となるフレームを作り、握り込んだ形で硬くする。グリップ先端には指が通る輪っかを作っておいた。
最後にグリップへ糸を巻きつけ完成。
漆黒のカランビットナイフが出来上がった。
素材が湾曲していたのだから、こんな形になったんだ。仕方ない。決して中二的発想で作ったものじゃ無い。
ちょっと楽しくなって、クルクル持ち替えてみる。
何でカランビットとかバタフライナイフは男心をくすぐるのだろうか?クルクルさせるところに惹かれるのだろうか。
不思議だが、ナイフや銃はクルクルしなければならない。理由は分からないが、水が低きに流れるが如く、そういうもんなんだろう。
ふざけた独り言も程々に真っ暗穴へ向かう。
水汲み場へ戻ると、巨大生物はスライムの中だった。
またやられた。どこかに生き残ったスライムがいたのだろう。
素材を溶かされてしまった。
燃やそうかと思ったが、素材は既にほとんど残っていない。水場の衛生には良かったかもしれない。
「ごめんね、カブ太。魔石取れなかったよ」
「ピコ」
スライムをそのままにして、水だけ汲んで帰ってきた。
スライム避けとか考えないと、全部あいつらに持って行かれてしまう。
気持ちを切り替えて、明日からまた頑張ろう。
◇◇◇
今日で百八十日。
約半年が経った。
気温が落ちてきて、肌寒い日が続く。
生活は安定してきたので、船作りを再開する。
始まりの浜近くまで戻り、草刈りと仮設テントの修復を終えると一日が終わってしまった。
◇◇◇
百九十日目。
風が強く、ここ数日さらに気温が落ちてきた。
十日間切り続けても、ほとんど進展はない。
切り込みが深くなればなるほど、斧が届かないため、斧を打ち込むスペースを作る必要がある。
これは切ってるのではなく、削る作業に近い。
地道に続けるしかない。
◇◇◇
百九十六日目。
久しぶりに雨が降った。午前中だけだったが。
濡れついでに、雨をシャワーにして体を久しぶりに水で流した。
焚火があっても寒いので、二度とやらない。
◇◇◇
二百日目。
キリがいい記念すべき日なのに寒すぎる。
仮設テントや始まりの浜では、寒さに耐えきれず左耳浜の小屋に戻った。
高床にして囲炉裏を作ったのは正解だった。
今日は小屋から出るのは無理だ。寒すぎる。
心なしかカブ太も元気がない。
◇◇◇
二百一日目。
昨日よりはだいぶ暖かい。寒い事は寒いのだが、昨日みたいに凍えるほどではない。
あと少しで伐採が終わる。
作業を続けよう。
◇◇◇
二百六日目。
ようやく、ようやく、原木を切り倒した。
過去の反省を踏まえ、全方向に糸を張りまくり、完全に倒れる方向をコントロールした上で切り倒した。
長かった〜。
先の作業を考えると、ここでようやくスタートライン。
しかし、ここ数日さらに気温が落ちてきている。
作業はここで中断して、左耳浜へと戻った。
◇◇◇
二百三十一日目。
おおよそ一ヶ月程、寒さに耐えて、左耳浜で過ごした。
薪割り、水汲み、魚釣り以外は内職の時間にあてた。
帆を作るため、大量の布がいる。寒い時期は、無理に屋外の活動をやめ、布作りに専念した。
その生活の中で分かったのは、糸を出しすぎると吐き気がして具合が悪くなる事だ。
確かに思い返せば小屋作りや、蜂戦での繭など、糸を大量に出すと吐き気がした。繭の時は蜂の毒で具合悪いと思っていた。
今後は気をつけよう。
あとは船作りに向けた、道具作りを進めておいた。
丸太をくり抜くための、鍬みたいな形の斧も作ってみた。
あと、大きめのドリル多数。
寒さも緩んできたので、船作りを進めていこう。
◇◇◇
二百五十日目
単調な日々が続いている。
船の長さを約十メートルと決め。その位置で原木を切断したいのだが、前回と同じく、なかなか捗っていない。
延々とドリルで穴を開け、斧を叩き込む日々を過ごし、やっと、長さ十メートルの丸太を準備する事が出来た。
何とかこれを海岸まで運びたい。
出来れば、始まりの浜に下ろして、船を作りたいのと思うのだが、重すぎてとてもじゃ無いが、普通には運べそうに無い。
浜までは緩やかな下り坂。直線距離で百五十メートル程だ。コロを作って押せば何とかなるだろうか。
十センチ程の木を切って、コロを数本作ってみた。
丸太を糸で固定し、長めの木を使いテコの原理で持ち上げようとするが、ピクリともしない。
どうしよう。コロの上にすら上がらない。
色々試すうちに、あっという間に一日が終わってしまった。
◇◇◇
二百五十一日目。
いつもより冷え込んだため、夜中の焚火番で寝不足だ。洞窟は冷え込みがきつい。
眠いのを我慢して、今日も丸太と格闘。
頑丈なトライポッド作って、何重にも滑車替わりのリングを使い、チェーンブロックもどきを作った。
全力で糸を引き、ギチギチとトライポッドが軋むと、丸太の片方が十センチ程浮いた。
すかさず、糸を固定するとコロを一本押し込む。
半日使って、ようやく押し込めたのが、たった一本。
同じ要領で、二本目を入れようと、さらに丸太を持ち上げると、トライポッドが倒壊してしまった。
どうしよう。この丸太。
重すぎる。
◇◇◇
二百五十二日目。
運搬できないという不都合には目を瞑り、船作りを進める事にした。
船にするには、丸太の殆どを削ってしまうのだから、運べる重量になるんじゃ無いかと期待しての事だ。
というわけで、船作り一日目。
早速、樹皮を剥いでいく。
口で言うと一言だが、たった一本の樹皮を剥ぐだけで、今日が終わってしまった。
ベリベリと剥がせるイメージだったが、この木は樹皮が一体化しており、削る作業に近かった。
爪ナイフを作っといてよかった。
これが無かったら、絶対に終わってない作業だった。
◇◇◇
二百五十三日目。
道具が無いからいけないのか。船作りのスキルが無いからなのか。
こんなんで、終わるのか?
一日かけて、削れたのは本当に僅か。
心が折れそうだが、やるしか無い。
◇◇◇
二百七十四日目。
船作り二十三日目だ。
風が北風に変わった。明らかに寒さが緩んだ。
どうやら冬が終わったらしい。
冬を過ごそうと、左耳浜に小屋を作り、命懸けで水場を確保したというのに、冬の殆どを寒い洞窟で過ごしてしまった。
船作りのため仕方なかったとはいえ、何とも行き当たりばったりで、無駄な労力を使っている。
船作りは、始めた時は先が見えなかったが、毎日斧を入れ続けた結果、ちょっと船っぽくなってきた。
まだ浅い窪みに座ってみると、気分は大海原だ。
丸太を五区画に分け、隔壁を残して、その間を削っている。いや削るというよりは、斧で掘ると言った方が良いか。
内側はもう少し深く掘れば完成かな。
後は外側を削ってカヌー本体を作る。アウトリガーの浮にあたるアマを作って、それを本体とヤクで繋げばカヌーの基本形は完成かな。
あとマストをつけて。えーっと、舵をつけたいかな。それとパドルを準備かな。
若い頃、興味本位で遊んでいた知識が、こんなところで役に立つとは。
それにしても先は長い。
風も変わってしまったし、北に向かうのは夏が終わるのを待つしか無い。
ドラゴンの恐怖から、何となく焦って作業を頑張ってきたが、飛び立ったドラゴンはあれから見てないし、少しのんびりしようかな。




