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044 冬支度

 百三十日目だ。

 ドラゴンと出会ってから一週間ほどが経った。

 今でも夢じゃ無いかと思うが、時折、飛んでいるのを見かけるので、現実らしい。

 食われるかもと思ってテンパって、逆に普通に受け入れてたな。

 冷静に考えれば意志が通じる生き物で、しかも、ドラゴンだ。ドラゴンだよ。

 何か「主」に似てるとか言ってたな。俺より小さい種族が北に居ると言っていた。似ているというのは人種的な話か?欧米人とアジア人の違いみたいな。

 それとも、俺、個人が似ている?

 この体の持主は、ドラゴンの主だったのだろうか?

 だったら、すまんね。こんなおっさんが、そんな凄い人の体になってしまって。俺にも訳分からんので、許してね。


 本当に分からん事ばかりだな。これ以上考えても仕方ないか。


 それよりも今日を生き延びねば。


 ここ数日、気温は低く、朝晩は寒いほどだ。

 囲炉裏に火を入れているので、今のところ大丈夫だがさらに寒くなると、今の装備では厳しいかもしれない。


 原木候補は海まで運ぶことを考えると、なかなか良い場所に生えている木が見当たらない。

 今日は高台までやってきて、高い位置から探すことにした。


 いつものように木に登って辺りを見渡すと、ドラゴンさんが島の右コメカミ付近で寛いでいるのが見えた。

 新しい裸地ができている。

 あの火柱は豪快な寝床作りだったようだ。


 こっちを見ているが、すぐに興味を失ったように寝てしまった。


 取り敢えず襲われる事は無さそうなので、原木探しを続ける。


 意外にも、始まりの浜近くに大きな樹影を見つけた。一本だけ高さが飛び抜けているので、近くに行けば見失う事は無いだろう。


 他の候補も探していると、頭上をドラゴンが東方向へ飛んでいった。

 餌でも取りに行くのだろうか?


 他の原木を探していると、北の海上にポツポツとトゲみたいな物が見える。

 恐らく、船のマストじゃなかろうか。

 慌てて木を降り、腰から狼煙セットを外すと火をつけ、生木を被せて煙を上げる。


 木に登り返すと、船らしき物は見えなくなっていたが、ドラゴンの言った事に信憑性が出てきた。

 あれは恐らく船だ。しかも船団だ。

 ドラゴンを追っているのだろう。

 確証は無いが、そうであってほしい。


 船を見失っても気落ちはしない。むしろやる気に満ちる。北だ。北を目指すんだ。


 始まりの浜まで戻り、高台から見つけた木へ向かう。ジャングルへ押し入り、スライムを避け、道なき道を啓開していく。


 ジャングルに入ると直ぐに視界が覆われ、木の方向を見失ってしまった。


 方位磁針が欲しいな。どうやって作るんだっけ。

 針を焼いたりしてなかったかな。

 そもそも磁場がこの星に有れば良いんだけど。

 いや鉄が手に入らないな。


 いかん。また、気が散った。無駄な思考を止め、そこらの木に登って行く。


 木には枝があるので、岩に比べれば遥かに登りやすい。操糸スキルで安全を確保しつつ、スルスルと上まで登ってきた。


 目の前に大木はあった。

 しっかりと方向を覚え、二十メートル程歩くとようやく原木に辿り着いた。


 幹回りは二メートル程だ。


 果たして、切り倒せるだろうか。

 長丁場になるの間違いない。まずは、切る準備だな。


◇◇◇


 百四十日目。

 予想していたが、本当に長丁場になりそうだ。

 最初の五日間で、滞在するためのテントを建て、原木までの道を整備した。

 さらに五日間は原木に斧を入れてみたが、全く切れた気がしない。見た目、樹皮が剥がれただけに見える。

 気長にやって行くしか無い。


◇◇◇


 百五十日目。

 ここ最近はずっと曇っており、日中も気温が上がらない。木を切るには涼しくて良いが、これ以上寒くなる前に、冬が来るものとして、冬支度を始めた方が良いのかもしれない。


 原木伐採は十日を費やしたが、まだ三分の一程しか進んでいない。


 木こりは中途半端だが一旦止め、冬支度を進めることにした。

 左耳浜へ移動し、大量の薪集めと布作りを進めよう。


◇◇◇


 島脱出のためとは言え、単調な作業の日々は辛い。特に布作りは面白くない。


 耐えられなくなると、釣りをしてリフレッシュする日々。


 今日は鮫を狙ったが、初めて当たりが無かった。

 背鰭も見当たらない。

 水温が落ちてきて、魚種も変化してきている。鮫は生息域を変えたのかもしれないな。


 因みに現在まで鮫さんには全敗だ。

 どんだけ糸を固くしても、撚り合わせても、あっさり切られる。

 糸を出せば、リーフに巻かれてしまう。陸っぱりじゃ無理だ。

 船が出来た暁には一回くらいリベンジしたいものだ。


 魚種が変わったと言えば、イカをゲットできた。

 エギを作り、浜の沈み瀬際を狙うとあっさり乗ってきた。

 エンペラの刺身にゲソ焼き、一夜干しと全てが美味い。

 立派な船が入ったイカだった。

 次はアオリイカ系が食べたい。

 イカ釣りブームは一時、冷めそうに無い。


◇◇◇


 布団を作ってみた。

 布を縫い合わせ、中に枯れ草を大量に詰め込んだ。

 枯れ草は虫が怖かったので、海水につけ置きした後、乾燥してさらに煙で燻した。

 おかげで相当に煙臭いが、保温性は思ったより高い布団が出来上がった。

 寝心地が良くなったのは嬉しい。


◇◇◇


 布団に味を占め、ダウンジャケットならぬ枯草マントを作ってみた。ダウンジャケットみたいに小部屋で縫い合わせ、正方形が並ぶモコモコマントだ。

 欠点は重い。そして当然煙臭い。


 まぁ、寒いよりはマシかな。


◇◇◇


 百七十日目。

 冬支度をする日々で、二十日程過ぎた。

 思いの外、時間がかかってしまった。


 イカ釣りブームで釣りの時間が長くなっていたが、ちゃんと作業もやっている。


 左耳浜の雨水枡が空なので、滞在期間が短く中々、作業が捗らなかったせいだ。そうだ。それが一番の原因だ。


 真面目な話、ここ最近で一番の問題は片方の湧水が涸れた事だ。

 まだ湧水が出ている方は、干満に左右されるので、最近は水汲みが一日がかりになっている。

 しかも、一時期に比べれば明らかに水量が減っている。


 水は直ちに死活問題となる。

 まだ水が入手出来るうちに、次の水汲み場を見つけるしか無さそうだ。


 しかし、この島に来てから随分と経つが、この浜以外で湧水を見た事は無い。


 唯一、可能性がありそうなのは「真っ暗穴」しか思いつかない。


 うーん、嫌だなぁ。

 入りたくないなぁ〜。


 嫌だが、やるしか無さそうなので、始まりの浜へ帰るついでに、カブ太の森で燃焼剤を取ってくる。

 ゼンマイが腰くらいまで成長していたが、ベタベタは問題なく採取できた。


「カブ太、明日は真っ暗穴だ。頼りにしてるから頼むよ。ホント」

「ピコピコッ」


「おやすみ、カブ太」

「ピコピコッ」

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