004 なんか食べよう
考えても仕方がない事と、何度も同じ答えを自分に言い聞かせている気がするが、とにかく、動きやすい体っていうのは、今の状況では悪いことなんか一つも無い。
切り替えていこう。
とにかく、今はシェルター作りと食べ物だな。
腹が減った。
昨日の寝床から、流木と葉っぱを運び込む。
さらにそこら辺から追加の流木と、椰子の葉もどきを集める。
椰子の葉もどきは、何がとは分からないが記憶にある椰子の葉とはなんか違う。姿形は似ているんだが。
途中の段差が面倒だが、集めた資材は下から投げる事で、何とかシェルターまで運び終えた。
昨日と同じく、洞窟の入り口に壁を作るように流木を立てかけて、葉っぱで塞ぐだけ。
今日は事前に地面は慣らしておいた。
奥の方に溜まっていた砂を使って寝るスペースだけは、平らにした上に、枯草を多めに敷いておいた。ただ、この枯草が硬くて、素肌にはチクチクと地味に痛い。集めるのが面倒だった上に、運び上げる際は、わざわざ何個も束にして、投げてまで運んだのに、寝るのに適さないのはイラッとするが、他には良さそうな物がなかったで、とりあえず今日のところはこれで我慢する。
資材集めに時間がかかったせいで、恐らくお昼は過ぎてると思う。
とりあえず、水分補給した後に、食料確保の為にも海岸を探索してみる。
ひと通り狭い砂浜を歩いてみるが、波打ち際に海藻が打ち上げられているくらいだった。
ほんの少し齧ってみる。
不味い。
不味いが、毒がないようであれば、後で食べるために確保しておく。
砂浜の終わりから先は崖だが、その下部は磯のようになっており、傘貝と巻貝を大量に見つける。傘貝は取るのに苦労したが、拾った貝殻を使って、隙間を抉ることで何とかなった。
まぁ失敗して採れない物も多数あったが、絶対数が多く、次の貝にチャレンジすれば良いだけだ。
日本では見た事が無いサイズの傘貝なので、長い期間、誰も採っていない場所なんだと思う。それとも、単にデカい種なんだろうか。
何も入れる物が無いので、両手に持てるだけ持って、砂浜に戻ってくる。
シェルター付近は小さな雑木林程度に樹木が生えており、芭蕉の葉が生えていたので入れ物にしようと取ろうとしたが、ナイフが無いので、無理矢理、葉の途中で引きちぎる。
繊維質でなかなか手強い。
波打ち際に置いておいた貝を葉っぱで包み、シェルター下の日影へ移動する。
陽が崖向こうに落ちて涼しくなってきていた。
本格的に腹が減ってきたので、貝をそこらの石で割って、中身を取り出す。
割った時に砂だらけになってしまったため、面倒だが中身を葉っぱに包み、再度波打ち際まで戻り、きれいに洗う。
火もなく生食しかないので、なんとなく、肝の部分は全部捨てておいた。
早速、少量を食べてみる。
グミより硬い食感で、味は正直、物凄く美味しい。
しかし、毒が怖いので、食べたいのをグッと我慢して、三十分程度様子を見てみたが、特に何ともないので、全て食べてしまった。
お腹いっぱいとはいかないが、久しぶりの食べ物に無意識に笑顔になっていた。
暗くなる前にシェルターに戻ろうと思ったが、一つ問題が発生。
水を持つと崖が登れない。
体が軽くなったとは言え、片手クライミング は流石に無理だ。仕方なく、崖下に置いておく事にした。
暗くなるまでの時間も無駄にしたく無いので、シャコガイの割れた破片を拾って投げ上げておく。
何とか研いでナイフがわりにしたい。
確保していた不味い海藻も食べ、崖を登るとシェルター前で、貝殻ナイフ作りを始めた。
辺りは薄暗くなってきており、いくらも進まないうちに強制終了となってしまった。
空を見上げれば月が二つ……
となれば、「あぁ異世界だ」とかなるんだろうが、そういった事もなく、見慣れた月があった。と言っても月の模様まで覚えているわけでは無いが。
そう思った時に目が良くなっている事にも今更ながら気づいた。
眼鏡が無いとボヤけて全然見えなかったのに、やけにハッキリと月が見えていた。
本当に、どうなってるんだ。
混乱は続くが、ゴソゴソと狭い入口を抜け、シェルターで眠りについた。