038 森の中へ
八十一日目のスタートだ。
焼物作りで始まりの浜と左耳浜を何往復もした。
慣れてきたとはいえ片道四時間程かかっている。
今後も往復する必要があるだろうから、時間短縮を図りたい。
始まりの浜から一ノ浜へ海岸沿いを移動しているので、かなり大回りだ。
それに崖上から一度、一ノ浜へ降りて、涙沢を登り返すという無駄もある。
直線的に左目崖へ行く事が出来れば、相当の時間短縮だ。
下見も兼ねて、始まりの浜へ水汲みに向かう事にした。
水瓶用に作り直した背負子に、割れないようにしっかりと水瓶を固定していく。
各々が干渉しないように固定していくと、全部で十五個が限界だった。
今のところ重さは気にならないが、水を入れると十五キロは増えるのでちょっと不安だ。
通い慣れた道を進み、左目崖の上まで到着した。
上から見る限り、始まりの浜から左目崖は恐らく直線距離で一キロメートルも無いだろう。
樹勢が強いものの、島西部のような濃さは無い。
蜘蛛やスライムに気をつければ、何とかなりそうだ。
今日のところは、いつものルートを通り始まりの浜へ到着する。
水汲みを済ませ、明日からのルート整備に備えて、ドリルを三本追加で作ったところで、日が暮れてしまった。
「カブ太、明日はジャングルだ。頼りにしてるからな。おやすみ」
◇◇◇
八十二日目。
斧と鍬を背負子に括り付け、タップリと水を持って崖上に上がる。
百メートル程崖沿いを歩くと、しっかりと北を確認して、ジャングルへ向き合う。
「よし、カブ太!周辺警戒頼むよ!」
「プルプルッ!」
気合を入れると、操糸スキルで下草を左右に分け、ガンガンと縛っていく。
髪の分け目に見える地肌みたいに、地面が一直線に露わになる。
入口の目印に、木を切ることにした。
三十センチ程の木にドリルを当てがい、ゴリゴリと穴を開けていく。等間隔に十個ほど穴を開けると
斧を打ち付けていく。
直ぐに斧が入らなくなってしまったので、切口を広げるように上から斧を入れていく。
三十分程続けるが、作業が捗らない。
反対側から同じように斧を入れ、操糸スキルで糸を幹の上部へ結び、テンションをかけ引っ張った。
僅かに幹が傾き、斧が楽に入るようになった。
しかし、木は中心部が残っているだけなのに、なかなか倒れない。
思い切って、斧を入れるとミキミキと音がし、こちらへ倒れてくる。
這うように逃げ出すと、ズーンと迫力ある音と共に木が倒れた。
危なかった。
三十センチ程度の木と舐めていた。
糸で固定していたのに、予定とは全然違う方向へ倒れてきてしまった。
切り倒したい方向に切口を作っておけば、そちらへ倒れる筈なんだが。
次は気をつけよう。
練習がてら木を切ってみたが、労力に見合わない。一本切るだけで、相当に体力と時間を持っていかれる。わかってはいた事だが、想像以上だ。
とりあえず切った木は勿体ないので、枝を落として真ん中でまた切っていく。
上から振り下ろすので、さっきよりは楽だが、すぐに石斧が木に食い込み、なかなか上手くいかない。
切口の両脇を糸で吊り上げ、下に枝を積み重ねて入れると、どうにか切り進めた。
ようやく半分になったので、崖側まで丸太を運ぶ。
恐らくここまでの作業で三時間程経ったのだろうか。
邪魔な木は切って、出来るだけ直線的に進みたかったが効率が悪すぎる。無謀と知り、下草や枝を取り除くだけにする。
ジャングルに入り、枝を落として、立って進める空間を作っていく。
時折、道を戻って北を確認するが、ジャングルの中へ入ってしまうと、木を避けるせいで、方向を見失ってしまう。
一度整備をやめ、目印の糸を出しながら、左目崖を目指してみることにした。
自分が何とか通れるだけの枝を切り落とし、どんどん進んでいく。
「ブンッ」
不意にカブ太が羽音を立てる。
一旦止まり、辺りを伺うと何かが首の辺りに落ちてきた。身体に触れる前に纏わせていた結界糸で反応できたので、慌てて糸を絡み付かせると、小蜘蛛が糸に絡んでいた。
「カブ太、ありがとう。助かったよ。」
「ピコピコッ」
殺すと親蜘蛛が出てきそうなので、とりあえず糸でグルグル巻きにして放置する。
続けて、ドンドンと北に向け進んでいく。
一時間程進むと、四メートル程の崖があった。
崖を登ると、木の隙間から一ノ浜が見えた。
おおよそ道は合っている。
位置関係から推測するに、もう少し進めば涙沢に出るはず。
二百メートル程進むと、下草が強く茂ってきたので、糸で縛りながら道を作る。
下草を抜ければ、予想通り見覚えのある涙沢へ出た。多分、涙沢を登り切る直前付近だと思う。
少し歩くと、見慣れた広場に着き、奥には左目崖も見えている。
少し休憩し、たった今抜けてきた道を引き返す。
今度は目印にしていた糸を辿り、ショートカット出来そうな位置は、糸を張り直しながら始まりの浜へ戻ってきた。
あー疲れた。
始まりの浜の崖上で懸垂下降の準備をすると、その場に腰掛け、しばし海を眺める。
海亀が時折、首を出すのが見えるだけで、船は見当たらない。
浜へ降りると、水汲みと夕食を済ませ、寝床に入る。
「おやすみ、カブ太。明日も頼むね。」
「コトコトッ」
◇◇◇
八十三日目の朝は最悪だ。
昨日、ジャングルから虫を持ち帰ったらしく、痒くて仕方がない。
特に背中が痒く、脇腹辺りを見れば、ポツポツと赤い斑点になっている。背中は見えないが、もっと刺されているのだろう。
カブ太は特に問題なさそうだ。良かった。
今日はルート整備をやめ、大掃除にした。
とりあえず海に入り、体と一緒に蓑や背負子もよく洗う。
家の壁も、葉は取り外し、ベッドの糸も外してしまう。
洞窟内で焚火を起こし、煙で燻しておいた。
しかし、痒くてたまらない。
もう一度、海に入り良く洗っておく。
ベッドに糸を巻き直すと、新しい葉で壁を作り直して一日が終わってしまった。
最後にカブ太の家も作り直す。
「おやすみカブ太」
「コトコトッ」




