036 不穏な気配
四十六日目の朝だ。
斧と鍬が出来ている。
引っ越しは水問題が片付けば、可能な状態だ。
左耳浜の方が此処よりも環境が良いので、引っ越ししたいのは山々だが、この浜には水がある。正直、直ぐに移動しなければいけないと言う訳でもない。
しかし、水の不安を無くし、より良い住環境を手に入れるためにも、何とか貯水出来るようにしたい。
貝殻水筒だけではかなり不便で、貯水量にも限界がある。
粘土が有れば水瓶を作れるかもしれない。
あとは皿やコップあたりが作れれば、ぐっと文明に近づくな。
あと水を貯める方法としては、漆喰が有れば、穴を掘って池を作れるかもしれないな。
漆喰はテレビでアイドルが作ってた。
貝殻を焼いて、海藻を混ぜてた気がする。
うーん、よく思い出せない。
貝殻を焼くのは石灰を作ってたんだろうから、多分、その辺に打ち上げられてる珊瑚を焼いても石灰はできると思う。
海藻は何のために入れてたんだろうか。
繋ぎなら、枯れ草でも代用できると思うが、それで漆喰になるのかわからんな。
難易度としてはどちらが上か。
粘土を探して島を歩くか、漆喰作りに挑戦するか。
困った時はカブ太先生だな。
「カブ太、粘土がある場所わからないかな?」
「ピコピコッ、ピコ、ピコピコッ」
何言ってるかわからん。
「粘土探すのと、漆喰作ってみるのどっちが良い?粘土?」
「ピコピコッ」
「漆喰?」
「ピコ」
粘土で決まりだな。
何も、商品を作るわけでは無いのだから、粘土の質はあまり気にしなくて良いのかもしれない。
それこそ、赤土だって粘土のはずだ。
それに粘土探しを兼ねて、水場も探せば良い。
さすがカブ太先輩やな。
「よし、カブ太。早速出発しよう!」
「ピコピコッ」
朝からずっと曇っているが、雨が降る気配はない。大丈夫だろう。
手早く荷物をまとめて、崖上に上がる。
背中には石斧と石鍬をクロスするように背負っている。
なんだろうな、中二なんて遥か昔のことなのに、クロスして背負う必要を感じたんだ。強そうじゃん。
エレベーターで崖上に上がると、左耳浜を目指す。
途中、あちらこちらで土を掘り起こし、粘性がある良さげな土を回収していく。
一日中、左耳浜までの道中を掘ってみたが、使えそうなのは、左眉広場、左耳岬の獣道くらいだろうか。それ以外は、粘性が低すぎるように感じた。
今日は左耳浜に一泊し、明日はさらに足を伸ばしてみよう。
◇◇◇
四十七日目。
昨日にもまして曇天で、太陽が見えず薄暗い。
その分かなり涼しく、雨さえ降らなければ、探索が捗りそうだ。
左耳浜を出発し、島の脳天付近から南下しハゲ広場を目指す。
ハゲ広場から、高台から見えた右眉広場を目指す。
低木と下草を掻き分け進んでいくと、まるで公園かと思う程、綺麗に短い草で敷き詰められた広場へと出た。
西側と南側は二十メートル程の崖となっており、その崖でスッパリと広場が切れている。見晴らしは良いが、ボール遊びは出来そうにない。
転落防護柵も付いてないので管理者の常識を疑うが、此処は自己責任論が強いのだろう。
危険と引き換えに、不粋な物が何も無い素晴らしい景観が広がっている。
とかなんとか、地球での職業病的目線で、つい観察してしまう。
広場の真ん中が、浅いクレーターになっており、そこだけ、焚き火の跡みたいに裸地が目立っていた。
裸地の土を掘ってみようと近づくと、うっすらと凹みに気づいた。
ちょっと信じられないが、二メートル程の足跡のようにも見える。
蹄ではない。こんなデカイ足跡は記憶にあるのは恐竜しかない。
有名スポーツメーカーのマークに似た、三本指の跡がある。少し脇の親指の位置?にもう一本、小さな指があり、合計四本の跡だ。
どんな生き物かはわからないが、足だけ大きい訳では無いだろうから、そのサイズは計り知れない。
この広場は寝床なのだろうか。
急いで、この場を離れる。
逃げながら、色々と頭の中を考えが巡る。
この島で、あんな足を持っている巨大生物を見たことはない。
広場は巨大生物の巣?
だったら、広場が何箇所かあるのは巨大生物が複数いるということか?
いや、何箇所かあった広場は下草の成長度合いが違った。左眉広場は背丈くらいの下草が生えている。
寝床を変えるのだろう。
不思議なのは広場まで巨大生物が通った跡がない。
空から降りてくる?
そもそも、こんな小さな島で巨大生物が生きていけるほど、食糧が取れるはずがない。
という事は、食料は海?
超デカイ渡鳥か?
足跡に水かき無かったな。
とにかくヤバい。急いで、此処を離れよう。
半ば混乱しグルグルと思考が絡みながら、早足でテーブル台地の頂上にきた。
木に登り、辺りを良く観察する。
目立つ広場は前回と同じだが、よく見れば、ジャングルの中にも、ポッカリと低い木が生えている部分が数カ所確認できた。
広場跡の共通点は、どこも崖際等の視界が良い場所という事だろう。
この島に来て、一ヶ月半の間、足跡が二メートルもあるような生物は見ていない。
少なくとも、今現在は足跡の主は島に居ないのだろう。
少し気が落ち着くと、左眉広場へ向けて出発した。
左眉広場は数回キャンプしたし、多少は安全な気がする。周辺を調べてみよう。
ウロウロと広場内や周辺を見ていき、特に気になる物は無いと諦めた時、広場とジャングルの境目が周辺より盛り上がっている事に気づいた。
そこを掘ってみると、炭の欠片が大量に見つかった。
自然災害か、未確認の生物か、はたまた人間の仕業なのか。とにかく、この広場は何かしらの異変があって、出来上がったもののようだ。
右眉広場をもう少し調べておけば良かったが、恐怖心で逃げ帰ってきてしまった。
周辺の安全が確認できれば、いつか調べに行かないとな。
三十分程だろうか、島内を隈無く見ても、大型生物はいそうに無いので、ひとまず安心できた。今日は始まりの浜へ帰ろう。
家路を急ぎ、浜上から一気に懸垂下降する。
浜に着くと早速、集めた土に水を加え平べったい団子状にして干しておく。
何箇所か集めてきたので、どれかが使えればありがたい。明日焼いてみよう。
水汲み、夕食を済ませ就寝。
「おやすみ、カブ太」




