034 先越され
四十日目。
「おはよう、カブ太」
やっと晴れた。
強風もなく、久しぶりの青空だ。
早速、朝ご飯を獲に磯へ向かう。
途中、何か打ち上げられていないか探すが、流木と海藻くらいで特段、目新しい物は無かった。
そんな事より、早く魚を釣りたい。
餌を手に入れ、手釣りで手早く一匹釣り上げる。
直ぐに捌いて三枚に下ろす。
カブ太が内臓に飛びつき、久しぶりのご飯を食べ始めた。
良かった。最近食べないから心配していたが、安心した。
下ろした身は、皮を引いて海水に浸し、そのままかぶりつく。
んー美味い。ここ数日、干し肉だったからいつも以上に美味しく感じる。
そのまま、数匹を釣り上げ、焼魚に海藻サラダで栄養補給を済ませる。
食べ終わると、シェルターの前室を手早く修理しておく。前室が潰れてからは火が使えず、かなりしんどかった。一度快適さを手に入れると、色々と不便を感じてしまう。
今日はとりあえず、あの猪を見に行きたい。
仕留めてから数日が過ぎているので、肉はダメになってるかもしれないが、毛皮や骨は出来るだけ入手しておきたい。
手早く準備を済ませる。
先日作ったお尻保護用の毛皮は、板のようにカッチカチに固まっており、折ったり揉んだりしてみたが、あまり効果が無い。
まぁ役割は果たせるだろうと、身につける。
崖をエレベーターで登り、左眉広場へ向かう。
いつもの道を歩き、ニノ浜へ降りようと低木エリアへ入ると、子蜘蛛が数匹、木に居るのを見つける。
思い返してみても、蜘蛛は雨が降ると出てくるようだ。
巣が地面にあるって事か?雨が降ると、巣が水浸しになるから、嫌がって木に上がってくるのかも。
いつもより念入りに警戒しながら、ニノ浜へ降りていく。
涙沢を登り、左目崖もエレベーターで上がり、少し歩けば左眉広場へ着いた。
遠目から直ぐに気づいたが、猪は赤い小山になっていた。
スライムに先を越されてしまった。
十分に警戒しながら近づくと、完全にスライムに覆われており、毛皮は諦めるしか無かった。
せっかくここまで来たので、持ってきていた海水をスライムに少し垂らしてみる。
海水がかかったところから綺麗にスライムが消え、消化途中のピンク色をした肉が姿を表す。
しかし、ウネウネと周囲からスライムが戻ってきて、また直ぐに見えなくなってしまった。
効果はあったので、スライムに襲われたら海に逃げ込むのが一番良いようだ。それに、海水を持ち歩いておけば、全身に纏わり付かれでもしない限り、何とかなりそうだ。
少し安心した。
今日は蜘蛛やスライムの活性が高い。これ以上、うろつくのは危険なようだ。ここまで来たので、左耳岬の様子も見たいが、諦めよう。
元来た道を引き返す。
ただ、石斧に使えそうな石を探したいので、三ノ浜へは寄り道していく。
三ノ浜にもかなりの流木が打ち上げられており、大きい物は引きずって、糸で固定しておいた。
一時間程ウロつくと、三角形で硬度が高そうな石が見つかった。形がイマイチな物も予備として数個ストックしておく。
柄になりそうな流木も探すが、強度がイマイチだ。
結局、夕方まで探し続け、使えそうな物を五本程見つけることが出来た。
遅くなったので、三ノ浜で一泊する事にした。
夕食を済ませ、テントを張り焚火でくつろぐ。
夜空には満月が登り、辺りは十分見渡せるほど明るかった。
二十五日目が新月、そして今日、四十日目が満月。
月齢は地球とほぼ同じと言える。
長期間を比較すれば、ズレは出てくるのかも知れないが。
ここは異世界とすれば、惑星自体が違うはずだ。
地球と同じように太陽があり、月がある。
太陽との位置関係はよく分からないが、同じような衛星を持つ星の可能性はどれくらいあるのだろう。
あまりにも地球と共通する部分が多すぎる。
どんな理由で、こんな事になっているのやら。
やっぱり、サッパリ、わかりませんな。
こんな時はプラス思考。
地球の知識が流用できてラッキー!
よし、気持ちの切り替えはこんなもんで良いだろう。
今は、生活の安定が最優先だ。石斧すら持ってない俺が、先を見るのはやめておこう。
何度目かわからない、いつもの思考に結論を繰り返し、テントに潜り込む。
この浜は波の音に混じり、カラカラと石の転がる音が楽しい。耳を澄ましていると、だんだん眠くなってきた。
「おやすみ、カブ太。明日も頑張ろう」
「プルプルッ」
◇◇◇
四十一日目だ。
久しぶりにカブ太に起こされた。
腹が減ってるらしい。
テントから降りると、直ぐに釣りを始める。
初めての魚が釣れた。
ハリセンボンだ。ただ、ハリが小さくヌメッとしている。うーん、フグっぽくて毒が怖い。
とりあえずハリセンボンはリリースし、いつものハタ系の魚で朝ごはんを済ませる。
少し重くなった荷物を背負い、始まりの浜へと帰る。
到着後、少し休憩すると石斧作りを開始する。
まずは刃を作る。
ナイフと同じように、コツコツやってゴリゴリ研いでいく。
そして、やっぱり途中で飽きる。苦手な作業だ。
気分転換に別の物を作っていく。
コツコツやった時に出た、大きめのカケラを綺麗な二等辺三角形に仕上げていく。鏃のような形に整形し、末端を割った真っ直ぐな枝に挟むと糸巻きし、ガッチリと固定する。
ドリルの完成!
火起こしと同じように、石で上部を抑えると、操糸スキルで電動の如く回転させる。
ガガガッと派手な音を立て、枝に穴が開いてゆく。楽しい。これで工作の幅が広がる。
今回は親指程のドリルだったが、今後、サイズも揃えていきたい。
楽しかったので、石斧の柄を作り始めてしまう。
柄に穴を沢山開けて、一つの大きなテーパー状の穴を作る。
刃の部分が出来上がれば、石の形に合わせて穴を調整し、紐で固定すれば、石斧の完成だ。
穴を開けて遊んでいたので、少し遅くなってしまった。焼魚で夕食をとり、シェルターに潜り込む。
「おやすみ、カブ太」




