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033 強風

 三十六日目。

 洞窟に吹き込む風と音で目を覚ます。

 ここにきてから、一番の風だ。

 体の痛みはまだ引いていないが、頑張って起き上がる。


 昨日作った燻肉を取り込むため焚火跡に向かうと、トライポッドや馬は倒れ、肉は砂だらけになっていた。

 拾い集め、シェルターへと運び込む。


 時折突風が吹き荒れ、身体中に砂がビチビチと当たり地味に痛い。

 海は大荒れである。


 水汲みだけは済ませて、急いで投げ下ろした枯木と大きな葉を集める。


 シェルターに戻り、葉を隙間が無いように追加すると、その上から枯木や枝をさらに結びつけ、壁を補強していく。


 もしかしたら、これから雨が降るかもしれないので、シェルターを少し改造する事にした。

 壁の外側に石を積み重ね、小さな竈を作る。

 その上に木を立てかけると、壁と同じ様に葉を固定する。風が強いので、大きめの石を集め糸で繋ぐと、立てかけた木の根元に縛り付けていく。

 今までの壁の外に小さな前室が出来上がった。

 

 お腹が空いているので早速使ってみると、煙がシェルター内に充満してしまい、カブ太が怒ったように、飛び回る。

 カブ太をシェルター外へ出し、少し長めに糸を出してあげた。


 竈の上を覆っている草の形状を見直し、煙突状の隙間を開け作り直す。

 シェルターの壁もさらに葉っぱを密に固定し、出来るだけ煙の流入を防ぐ構造へ修正した。


 これで雨が降っても、シェルターで調理ができる。

 肉から念入りに砂を落とすと、遅めの昼食にした。

 相変わらず美味しくは無い。しかも砂で口当たりが非常に悪い。生きるためには食べる必要があると自分に言い聞かせ、ジャリジャリとした肉を無理矢理飲み込む。

 この肉は、基本的に保存食にしてしまおう。

 普段は魚食べた方が、何倍も美味い。


 雨は降っていないものの、これだけ風が強いと何も出来ない。


 シェルター内で出来ることをやっておこうと、毛皮を取り出す。毛皮は海水で洗ったせいか、ゴワゴワと硬くなり始めていた。


 皮の鞣し方がわからないが、取り敢えず内側の肉や脂をゴリゴリと石器ナイフで取っていく。


 そういえば、原始的な鞣し方というのを思い出した。確か、口で噛めば良かったはずだが、こんな臭くて硬いものを、ずっとモゴモゴ噛み続けるのは遠慮したい。


 砂を擦り付けたり、石で擦ってみたりしたが、効果があるのかはよくわからない。


 糸を出し撚り合わせ、紐と呼べる程度の太さまで、三つ編みで編んでいく。

 出来た紐を毛皮に縫い付けて完成!


 腰皮?尻当て?ちゃんとした名前があったはずだが忘れてしまった。猟師が使う、腰に巻きお尻を保護するミニエプロンみたいな物だ。

 これで何処に座っても痛く無いはず。


 今までは休憩の度に、座っても痛くなさそうなところを探したり、お尻を付けずにしゃがんだりしていたが、これからは問題ないだろう。


 早速、腰に巻いて洞窟の岩肌に直接座ってみる。


 半乾きでヌメっとしておりちょっと気持ち悪いが、お尻は痛く無い。


 毛皮の匂いさえ取れれば、非常に有用なアイテムだ。晴れた日に、もう一度洗ってみよう。


 ちょっと思いつき、カブ太の巣をもう一つ作り、毛皮の切れ端を詰めてみた。いつもの草が入った巣と並べる。


「カブ太、どっちが良い?」


 ツノでひっくり返す様に、毛皮入りの巣を突くと、いつもの巣の上に乗り、何か言いたげにこっちを向いている。


「気に入らなかった?」

「ピコピコッ」


 どうもカブ太は猪が気に食わないらしい。確かに猪に対してはやけに好戦的で、それが原因で酷い目にあった。因縁の相手とかそんな感じなんだろうか。


 次に保存食作りと塩作りの準備を進める。


 薪を大量にシェルターに持ち込む。

 ただでさえ狭いシェルターがさらに狭くなるが、仕方がない。

 シェルター近くにも、薪を積み上げ、上に葉を固定し濡れない様にしておく。


 前室の竈の周りに肉や毛皮を可能な限りぶら下げる。竈へ火を入れると、塩水が入った貝殻を寄せておき、夕食となる肉を炙っていく。


 延々と保存食作りを進め、沸騰した海水を継ぎたす作業に嫌気が差したころで陽が落ちた。


 まるで唸り声のような不気味な風の音を聞きながら、肉と煙の匂いが充満した洞窟に、幾分不満を覚えながら眠りについた。


「おやすみ、カブ太」


◇◇◇


 三十七日目だ。

 今日も強風が吹き荒れ、壁がバサバサと急かすような音をしきりに立てている。


「おはよう、カブ太」

「ピコ」


 やっぱり元気がない。

 カブ太は魔石を食べてから、ほとんどご飯を食べていない。ちょっと心配だ。


 外に出ると昨日よりも天気が悪く、夜のうちには雨も降ったらしい。

 壁は濡れていたが、ひっくり返した貝殻には水は溜まっていなかった。

 糸を崖に張り巡らせ、根元を束ね貝殻に突っ込んでおく。これで少しは集まるだろう。


 タイミングよく雨が降り始める。


 慌てて前室の肉を取り込み、洞窟へ移動させる。


 雨は降り続いているので、久しぶりに体を洗う事にした。竃へ火を入れておき、雨の中へ飛び出す。蓑を着たまま、体と一緒に洗ってしまう。

 ひと通り洗い終わると、全室に戻り、蓑を絞って竈の上に干しておく。

 朝食の肉を炙りながら、体も乾かしていく。


 まだ半乾きの肉から怪しげな臭いが漂い始めている。急いで、乾燥させてしまわないと。


 雨は二時間程降ると止んだが、風がさらに強くなってきた。


 洞窟の中では大して出来る事もないが、今日も作業を進める。


 狼煙に使う火口やフェザースティックを作ると、毛皮の端切れに脂を塗って、一纏めに包んでおく。

 これを腰蓑に括り付けておく。


 あとは、保存食にすべく肉を炙ったり、ナイフを研いだりして時間を潰し、そろそろ夕食にしようかという頃、激しく雨が降り出した。


 前室程度の防水性では、横殴りに叩きつけるような雨に耐え切れるはずもなく、中までビショビショに濡れている。

 飲み終わった貝殻をひっくり返して置いておく。


 シェルターは壁の補強と、全室を作ったこともあって、これだけの強風と雨でも水は入ってこない。


 一時間程で雨は止んだが、窯が使えないので燻肉をガチガチと齧り、今日は寝る事にした。


「おやすみ、カブ太」


◇◇◇


 三十八日目。

 雨が降り続き、風は昨日にも増して強い。


 夕方頃には、前室からメシメシ、バリバリと嫌な音が聞こえ、第二形態へと変身したようだ。

 そんな機能をつけた覚えはないので、勝手に追加しないで欲しい。

 今日は修理もできないので、寝る。


「おやすみ、カブ太」


◇◇◇


 三十九日目。

 昨日程の強風ではなないが、風は強く、雨も降り続いている。


 肉からは危険な匂いが漂ってきており、一部は捨てるしかなさそうだ。

 どうせ捨てるなら、思い切って大物釣の餌にしようと思い立ち、忘れていた大物用ロッドを作っていく。

 構造は前回作った小物用と変わらないが、全体に縦糸を通し、それをグルグルと糸巻きし補強していく。

 大きめのガイドを作り、竿へ固定すると、ガチガチに補強する。


 時間があったので、少し凝ったトリガー部分を木で作りロッドへつける。


 近いうちに、腐った肉で大物を狙おう。

 サメしか釣れない気がするけどね。


「おやすみ、カブ太」

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