030 地名
三十三日目の朝が来た。
「おはよう、カブ太」
「ピコピコッ」
昨夜は特に何事も無く、ぐっすりと眠る事が出来た。朝食は保存食節約のため、現地調達で済ませる。
貝と魚しか食べてないので、さすがに飽きがくるが、食べられるだけでありがたい。焼き魚に感動した事が随分昔に感じる。贅沢なものだ。
食事を済ませると、リーフが顔を出し始めた。
干潮に向かっているようだが、昨夜の月は半月に近かったので、もし地球と同じであれば小潮のはず。そんなに潮は引かないと思う。
生活が落ち着いたら調べてみようかな。月齢周期くらいなら記録しておけばいい。
前回の探検が新月だったから、何日前だっけな。
七、いや八日前かな。約一週間で半月くらいなら、おおよそ、地球と一緒だな。
今度からはちゃんと記録しておかないと。
サバイバルでは記録が不便だ。島の外観もまだ覚えてるうちに何かに書き残しておきたい。何か良さそうな物があれば、試していこう。
さて、せっかくリーフが顔を出したので、少しだけ歩いてみる。切間から海中を覗くと、カラフルな魚が多い。一メートルには満たないが、大型の魚も結構泳いでいる。あとはウミヘビがチラホラ見える。
地球では好戦的では無いから、ちょっかいかけなければ大丈夫と言われていたが、どうもヘビは苦手だ。毒の有無もわからないし。
蜘蛛があれだけデカくて強毒だったのだから、ヘビなんか絶対近寄りたく無い。今後も泳ぐのはやめておこう。
視線を何気なく沖へ移すと、潜望鏡が見えた。一瞬、人工的な物かと期待したが、多分ウミガメだろう。しかし、頭のサイズから大きさを推測すると、ちょっとデカすぎる気がする。
まぁ地球にもデカいウミガメはいたので、そう不思議な事でも無いかもしれない。と納得しておく。
ウミガメは美味いらしいのでいつか捕まえてみたい。
リーフで大きなサザエを数個見つけたので、浜に戻るとおやつにした。焼いた身からハラワタをカブ太にあげたがお気に召さなかったらしい。焼いたからなのか、貝だからかはわからないが、なかなかグルメだ。
あまりゆっくりも出来ない。
本当に綺麗すぎて現実感が無いものだから、サバイバルだというのに、ついヴァカンスのような気分になっていた。
手早く準備をすませると、周辺の探索に出発した。
昨日通っていない、島の北側、猫で言うなら頭の方へ向かってみようと思う。
釣りをした岩場を通り過ぎて、崖沿いを進む。
一時間程歩けば、昨日通った森の切れ目に出た。
さらに島の北縁を進んでいく。
崖は無く、小さな浜と磯で交互に構成されている。
水を探しながら歩き続けるが、全く見当たらない。
猫の頭を通り過ぎ、右耳岬の中ほどまで来た頃にちょうどお昼になった。
ここから先はまた崖になっており、樹勢が強く崖沿いを進むにも、かなり苦労しそうだった。
帰る時間を考えると、この辺りが限界かもしれない。テーブル台地から以前見た記憶が朧げで、右耳岬の辺りがどうなっていたのか、はっきりとしない事も不安要因だ。
あまり無理をせず、水が無かった事がわかっただけでも良しとして引き返すことにした。
来た道を戻り島の北縁の中央部、猫の脳天付近まで戻ったところで、思い切って島の中央部に向け進路を変えた。
ジャングルほどでは無いが、下草も樹木それなりに生えており、なんとか藪漕ぎして進んでいく。
二百メートル程進んだだろうか、突然下草が無くなり、大きな広場となった。陸上競技場のトラックは優に超える広さだ。
猫の頭付近にあるので「ハゲ広場」と適当に名づけ、そのまま樹勢が弱い箇所を狙い南進する。
高い位置をひたすら目指し、テーブル台地の斜面を登っていく。
二時間程は歩いたであろう頃に、以前、島の全体を確認した高い位置に出た。
前回と同じように木に登り、島を見渡す。
左耳は磯が広がっているだけで、浜はない。
また、前回ジャングルは右頬あたりから南側が濃いと思っていたが、西側は全体的に濃く、特に濃いのが右頬辺りから右顎にかけてだった。
また、来る途中で見つけたハゲ広場も確認できた。それから面白いことに左右対称に右眉と左眉の位置に広場を見つけた。
新月の時に一泊した広場は、「左眉広場」だった。
後はニノ浜から上がってくる沢は、ちょうど登り切った位置が左目部分なので、涙を流しているようにも見える。よし、「涙沢」に決定。
位置関係からするに、左眉広場から南進し、左目部分の崖を降れば、かなりのショートカットが可能だ。今日は前回と同じく、左眉広場で一泊し、明日「左目崖」を登り降り出来るルートを整備しよう。
これが成功すれば、始まりの浜から左耳岬まで四時間程度で行けるかもしれない。
登っていた木に糸を結びつけると、そのまま左眉広場へ向かった。
今日、新ルートを開拓した時の反省で、これからは通った事があるルートは糸を張っておくことにした。今まで、崖沿いとかを通る事が多かったので、あまり道に迷うという心配をしていなかったが、本来、最初からやっておくべきだった。
出来るだけ歩きやすいルートを通り、左眉広場へと向かう。
広場へ到着すると、陽が落ちそうだっとので、急いで担架を作り木に吊るしておく。
食事は乾燥した魚なのだが、カブ太があまり食べない。
「ごめんなカブ太。次から魚の内臓も持ってこようか?腐りそうだけど大丈夫かな。」
「ピコ、ピコピコ」
カブ太が何言ってるかわからないが、元気が無い。
今日は早めに寝ることにして、テントに入るとピラミッド巻きにして、結界糸を垂らしておく。糸先は釣り針にしておいた。
前回は一晩中、嫌な訪問者があったので、今回は勘弁願いますと祈りながら眠りについた。
「カブ太、おやすみ」
「プルルッ」




