029 天国の浜
三十一日目となった。
朝から手早く釣りを堪能し、保存食を作りながら、背負子のベルトを作っていく。
単調で同じ事を繰り返す作業はどうにも好きになれないが、必需品なので我慢して作っていく。
カブ太の足場と同じように、硬い素材を糸で巻き、ショルダーパットを作って編んだ紐に固定する。
快適とは言えないが、何とか実用に耐えるものができた。
これで概ね準備は完了した。
明日の出発に向け、荷物を背負子に入れて準備を済ませる。
時間が余ったので、夜間のテントを試作してみることにした。前回の反省を踏まえ吊り下げ式を基本に考える。
一番良いのは、持ち運びせずに短時間かつ、現地調達出来る素材で作れるものが良い。
流木二本を一メートルくらいの間隔をあけフレームを作ると、糸でグルグル巻きにしてい担架を作り、それを吊り下げてみた。
寝てみると問題は無いが、身体が剥き出しでこのままでは防御力は皆無だ。
吊り下げている糸を支点に、フレームごとさらに糸で巻いていく。
空中に浮いたピラミッドのような見た目になってしまったが、これは使えるんじゃ無いか。
制作には三十分程かかった。許容範囲だろう。
多めに夜ご飯を食べ、早めに就寝することにする
月はまだ三日月だが、新月よりはマシだ。
明日出発しよう。
「カブ太おやすみ。」
◇◇◇
三十二日目となった。
風が真東から浜に向かって吹き付けている。
いつもと違う風向きが少し気になるが、予定どおり第三回探検へ出発することにした。
崖を上がり、ニノ浜、沢、広場、ジャングルを通り、前回一晩を過ごしたテーブル台地の広場へ特に問題無く到着。
途中のジャングルでカブ太がソワソワしてたのは、やはり住み慣れたところが良いのかな?
もう日が高いので、ここまで四時間程かかったのだろうか。寄り道無してないので、前回よりは早いはず。
広場を抜け、出来るだけ歩きやすく、木が生えていないところを狙って、進んでいく。
なんとなくこっちだろうと当たりはつけているものの、木の切間を歩いていると、どっちを向いてるのか分からなくなる。一時間程で、海が見えてきた。
岬は見えないが、恐らく左耳の付け根、頭側付近にいるようだ。海まで出ればはっきりするだろう。
三百メートル程進むと海へ出た。
予想通りに左耳の付け根だ。
岬に向かってはサスペンスドラマっぽい険しい崖が続いているのが見える。
その先は見えないが、岬先端には大きな浜があるはずだ。
岬に向け崖沿いを進もうとした時、獣道があるのに気づいた。
この島に来てから初めて見つけた獣道だ。
獣道も行先は同じ岬方向のようだが、樹勢の強いジャングルの中へと続いている。
野生動物がいるならば、水が必要なはず。
獣道は水に繋がっているかもしれない。
こんな時はカブ太先輩に聞いてみる。
「カブ太、森の中大丈夫そう?」
「ピコピコッ」
「なんかヤバイのいそうじゃない?」
「ピコ」
カブ太は大丈夫との事なので、意を決して、獣道に進む。腰を屈めば、十分通れそうな空間だ。
足元は固く踏みしめられており、蹄の跡が見てとれた。四本足の生物だろう。前回、夜中に訪問してきた生物かもしれない。
注意深く見ていけば、茶色い毛や傷付けられた木等、ハッキリとした痕跡がいくつもある。
しばらく進むと突然視界が左右に開ける。
森が一メートル程の幅でスッパリと切れており、その切れ目からは両端に海が見えた。
岬を横断する形で、一直線に木がない。
そして地面は削り取られ土が剥き出しとなっている。何をどうやれば、こんな地形になるのかさっぱり分からないが、この切れ目を境に獣道を見失ってしまった。
仕方なく、切れ目に沿って歩いていく。
足元はガタガタしているが、木が無い分まるで道路のように歩きやすい。
真っ直ぐ五百メートル程歩いた所に、突然、ぽっかりと真っ暗な丸い穴があった。直径は二メートルくらいだろうか。
地面を切り取ったみたいに、出来の悪いCGのような違和感を感じる真っ暗な穴だ。
近づくと、ほぼ垂直な穴で、かなり深いらしく底は見えない。
お約束的に石を落としてみるが、落ちた音も水の音も聞こえなかった。
この島が石灰岩主体なら、鍾乳洞があっても何ら不思議ではなく、地下に潜ればそこには水が溜まっている可能性はかなり高い。
しかも左耳岬は引っ越しの第一候補であり、近くに水を発見できれば、間違いなく今後の拠点と出来るだろう。
荷物から空になった貝殻を出し、糸で結ぶ。
ソロソロと穴の中へ落としていく。
三十メートル程落としたところで、止まった感触がある。上下させてみると、あまり硬い感触ではなく、土の上を小突いているような感じだった。
しつこく、穴の上下左右を小突いて、貝殻を引き上げると、貝殻は湿っていたが、水は入っていなかった。
「カブ太、下に水あるかな?」
「ピコ、ピコ」
カブ太も分からないと言っているようだ。
「降りてみるしか無いかな〜、絶対降りたく無いよね。」
「ピコピコッ」
だよね。カブ太も降りたくは無いらしい。
時間もあまり無いので、これ以上の調査は諦め、海岸沿いの崖に突き当たるまで歩くと左耳の南側付け根へと出た。そのまま崖沿いを先端に向かう。途中、急に岩質が変わり、風化した岩が主体のガレ場となった。木が無いので足元さえ気をつけていれば、ペースは上がる。
ガレ場を抜けると、砂浜に着いた。
今まで見た事がない、真っ白な砂浜が広がっている。始まりの浜も白いと思っていたが、ここは漂白でもしたかのような、本当に真っ白の砂浜だった。
浜は長いところで百メートル程の幅があり、耳の先端を巻くように広がっている。
砂浜の先にはリーフが広がっており、天国を想像すれば、こんな所じゃないかと思うほど美しい浜だった。
「カブ太、めちゃくちゃ綺麗だな」
「ピコピコッ」
「今日はここでキャンプしよう」
「ピコピコッ」
こんなにも綺麗なのに「綺麗」以外に言い表せない事が悔しいが、カブ太はこの感動をわかってくれている事だろう。
早速作業を開始し、まずは担架を完成させる。
絵に描いたように、この場所に似合う、なんなら出来すぎてベタとも感じる椰子の木が生えている。そこに吊り下がる担架。
椰子の実が有れば満点だったが、黄色い花だけで実はついていなかった。
流木を集めて、夕食の確保に向かう。
浜西端には岩場があったので、そこからリーフの切れ目で魚を探す。ここでも簡単にハタ系の魚が手に入った。
夕食後に、穏やかな波の音を聞きながら、まったりと過ごす。
始まりの浜よりもリーフが発達している分、波が穏やかで過ごしやすい。
浜から山側、つまり耳の付け根方向に向かっては、緩やかな傾斜で森が広がっており、ここでは燃料の心配もない。
これだけ資材が手に入れば、小さな小屋程度なら作れそうだ。となれば、問題は水だけだ。
あの穴を潜った先にもし水があるのであれば、ここは理想的な拠点になる。
どうにか調べたいが、あの深さと暗さをどう克服すればいいのか。何がいるかもわからないので、本当に入りたくはない。
しかし、水は欲しい。明日、周辺の水は探すつもりだが、期待は薄い。
何か考えねば。
だんだん眠くなってきたので、空中の担架に横になると、組み合わせ滑車と同じ原理で、糸を数度担架と木を往復させ、腕力と収納の力で引き上げる。
仕上げに、包むように糸を出し、さらに上からくらげの触手のように垂れ下げておく。
念のため、糸先は針にしておいた。
今日はテントとはいえ、前回に比べれば安全性は
かなり向上している。
持ってきたカブ太のベッドをお腹の上に乗せると、カブ太もゴソゴソと入って行った。
「おやすみカブ太」
プルプルっと、巣の中でカブ太が返事をしたのが手に伝わった。




