024 猫島
島じゃ無ければ良いなと思っていた。
崖の向こうには人里が有れば良いな、と。
しばし放心する。しかし、呆けた心でもわかるのは、サバイバルの難易度が上がった事だ。
陸地はあるのか。
目を凝らすが、どの方向にも陸地は見当たらない。
船も見えない。
飛行機も何も見えない。
脱出はどうする?
頭の中に纏まらない考えが洪水のように氾濫し、軽くパニック気味になる。
細い枝の上に立ち続け、どれくらいの時間が経ったのだろう。ただ陸地を探して、フラフラと視線を彷徨わせ続けた。
「ダメだ。無い。」
そう独り言を呟いた時、そろそろ陽が落ちるまで時間がない事に気づいた。
先の事よりも、今日を生き抜く必要がある。
急いでここを離れ、安全を確保しなければ。
しかし、情報も欲しい。とにかく、周囲を観察し記憶していく。
どうやらここは三キロ程しかない島のようだ。
眼下に一ノ浜に繋がる岬が見える。
そこから推測するに、始まりの浜は島の南東側、三ノ浜が東側に当たるようだ。
北東と北西に大きめの岬が突き出している。
耳のように見え、島全体ではネコの顔みたいな形をしている。
全体的にニ段構成となっており、海をゼロとして一段上がった平場、二段目が現在いる大きなテーブル状の台地だ。
一段目は植生が繁茂しておりジャングルを形成している。特に島の南から南西、猫に例えるなら右頬辺りは緑が濃い。
島の北側つまり両耳と額付近は比較的、樹木が低そうだ。
ざっと地形を把握すると急いで、戻ることにした。
出来れば、森を抜け一ノ浜辺りまで戻りたい。
出発し、低木エリアを進み一段目に降りていく斜面についた時には、あと三十分もすれば暗くなりそうだった。
斜面を降りれば、ジャングルが待っている。このまま進めばジャングルの中で陽が落ちる。
それは避けたい。
行くか迷ったが、今日は島の最上段で過ごす事に決めた。下草はあるものの、ジャングルよりはまだ安全に思える。
出来るだけ高い木に登り、過ごしやすそうな所を探すと、北側に進めば樹勢が弱くなっているのが見えた。
急いで進路を変え、北へ進むと低木も消え腰ほどの低い草が生える広場へと出た。
もう陽は今にも落ちそうで、急いで寝床を決める。
草地に背が高い木が三本程ポツンと生えており、その下を今日の寝床と決め、背丈程の長さの枯木を手早く数本集め、トライポッドを作り、残る枝を立てかける。
今日はどうやら新月らしく空に月は無い。本当に真っ暗闇になってしまった。
探検に出るなら満月を選ぶべきだった。そこまで気が回らなかった自分に腹が立つ。
暗い中、トライポッドの中に入ると糸を出し、外側をグルグル、グルグル、嫌というほど巻いていく。外側の糸と各支柱もガッチリ固定し、相当に頑丈なティピーが出来た。
葉っぱか草を外側に巻きたかったが、そこまでの時間は無かったので風を遮る事は出来ない。
全然安心出来ないが、少なくとも親蜘蛛のようなサイズの生物は入ってこれないだろう。
まだ不安なので、片手から五本の糸を出し、自分を中心にして放射状に糸を出すと、魔方陣のように地面へ這わせておいた。そしてこの糸は感知できるように繋ぎっぱなしにしておく。
ここまでして、ようやく一息つけた。
手探りで水分補給と食事を済ませ、貝殻ナイフを首にかけておく。
地面に横たわると、疲れていたのだろう、早い時間にも関わらず、寝てしまった。
何時間程、寝たのだろうか、グッと糸が圧迫されるような感触がして目を覚ます。
フッフッという息遣いが間近に聞こえ、一気に目が覚める。糸から伝わる感触では、大型の生物っぽい。獣臭く、目の前に気配を感じる。
近い。近すぎる。
息を殺して、考えを巡らせる。
魔方陣のように敷いている糸を一気に巻き付ければ捕獲できるかもしれないが、どれくらいの大きさでどんな生物かも見当がつかない。
どこかへ行ってくれと祈るが、得体の知れない生物は余程こちらが気になるらしく、ウロウロと近づいたり離れたり、なかなか遠くへ行ってくれない。
ナイフを握りしめて、反対の手には縫針を作りウェイトがわりの糸を針に巻き付けていく。
嫌な汗がツゥと脇辺りを伝い背中へ流れていく。やけに体が冷たく感じた頃、ようやく離れていってくれた。
緊張から解放され、静かに長く息を吐き出した。
地面に寝床を作ったのは失敗だった。こんなに怖い思いをするとは思わなかった。
そういえば昔、動画サイトで見たサバイバルの達人は、野生動物から身を守るために、木の根元で焚火をしたり棘を置いたりして、自分は木の上で寝ていた事を思い出した。
俺の脳味噌は、そういう事は事前に思い出したりは出来ないらしい。肝心な時に役に立たない。
目が冴えてしまった。
体を起こし座って朝を待つ。
耳をすませば、あちこちから、木の枝が折れる音や、鳴き声が聞こえる。
不意に遠くで女性の悲鳴に似た声が聞こえた。しかし、明らかに人の声ではない。
何か不気味な鳴き声だ。
早くシェルターに帰りたいと思いながら、ただじっと時間が経つのを待つしかなかった。




