002 違和感
水を待つ間、ここが何処なのか考えてみた。
まず季節。
記憶にあるのは十二月の初めだった。
この気温であれば、ここは少なくとも南半球に位置すると思われる。
次に岩肌をみる限り石灰岩。しかも琉球石灰岩によく似ている。沖縄に住んでいたときに、よくクライミング していた岩質にそっくりだった。ガビガビとして、場所によっては剣山の様になっている。
目の前の海にはっきり珊瑚礁が見えてるので、石灰岩というのは間違いないだろう。
緯度的には九州より赤道に近いのだろう。
そんなざっくりとした事しか思いつかない。
それから、気になった違和感の正体は、ゴミ。
この海岸は綺麗すぎる。
ペットボトルや漁具等が全く見当たらない。
まぁそれほど歩いたわけではないので、この砂浜に無いだけかもしれないのだが、それでも全く見当たらない。
そんな事を考えながら、先ほど溜め始めたばかりの貝殻を振ると、チャプッと僅かに水の音がした。
飲んでみると貝殻を塩水で洗ったせいだろう、薄い塩味だったが、とりあえず、今はこれで満足するしかない。
貝殻と草紐を持って、別の湧水を探しに行くことにした。
先ほどの湧水ポイントからは五十メートルくらいだろうか、砂浜の端まで来たところで、ニ箇所目の湧水を見つける事ができた。
一見、海水の様に見えたが、海面より僅かに高い場所から滴り落ちている。水量はチョロチョロと流れがあり、先程の箇所よりは大分早く貝殻を満たせそうな量が流れていた。
ただこの低さだと、満潮時は水没してしまい時間が限定される水汲み場であったが、水が確保出来るだけで十分にありがたかった。
早速、草紐で水を貝殻へ誘導し溜め始めるが、喉が渇きすぎているので待ちきれない。
少し溜まっては飲み、少し溜まっては飲み、結局一時間くらいは水を飲んでいたと思う。
ようやく、落ち着いてきた頃には、辺りが段々と薄暗くなってきていた。
日はまだ高いが、崖のせいで日陰になるのが早い様だ。恐らく東向きになるのだろう。気温も涼しくなってきていた。
寒くなる前に急ぎ、寝床を決めることとした。
崖の一部が屋根の様に張り出した所があったので、今日はそこを寝床にする事にして、流木や椰子の葉っぽい枯葉を集める。
水は貝殻ひとつ分を確保できている。
大事に岩の下に置いて、溢れないように周りの砂で固定すると、寝床作りへととりかかった。
と言っても、大して材料もなく、数本の流木を岩に立てかけて、椰子の葉もどきを下から流木に覆い被せただけ。
途中、追加で流木と枯葉を拾いに行ったが、一時間程で完成した。
スペースは人が横になってギリギリ程度。
早速寝てみる。
失敗だった。
砂に寝てみると想像よりだいぶ硬く、平じゃない。しかも石やら貝殻やらが痛い。
裸なので、ちょっとした尖った部分が痛い。
仕方なく、流木を退け作り直す。
砂を平らにして、目立つ石と貝殻を除ける。
全体的に斜めになってるが、もう仕方ない。
これ以上、体力は使いたくない。
再度、流木を立てて、葉っぱも戻してようやく完成。
なんとか風避けくらいにはなったと思う。
辺りはなんとか見えるくらいの明るさしかなかった。水を半分ほど飲みゴソゴソと寝床に入る。
何が何だか分からなかった今日を振り返る。
ここは何処なのか。
なぜ裸なのか。
これから先、生きていけるのか。
混乱しながら何も分からない事しか分からない。
漂着物に人工的な物が何一つない場所なんて一体何処だろう。
ふと、ネットで良く読んでいた異世界物が頭をよぎった。
まさかね。
と思いつつ、口に出してみた。
「ステータスオープン」
何も起きなかった。
凄く恥ずかしくなったが、どうせ此処には俺しかいない。恥ずかしいなら、そもそも素っ裸じゃないか。
そんな事を考えていれば、いつの間にか眠っていた。