領地経営発表会 流通革命の青写真
オスカー君、ちょっびりナーバスになっています。
「統一規格のコンテナ、積み下ろしのためのフォークリフト、コンテナを連結運搬できるトレーラー、まずはこれらを整備しましょう。地上の流通網で即戦力になりますから。船舶の大量輸送はそれからです。造船所の建設から始める必要がありますし、港湾施設の完成にだって時間が掛かります。準備時間はたっぷり取れますよ」
我がランドール伯爵領の代官、グレーン・スミス。そのエネルギッシュな説明に、俺は圧倒されていた。
俺はランドール伯爵家当主、オスカー・ランドール。当主と言っても、本当に名ばかり。そもそも俺に領地経営の才能は皆無だ。
元々子爵家三男で大した才能も無く、消去法で国軍に入隊するしかなかったんだ。運良く婿入りできたツオーネ男爵家だって、領地の面倒は女男爵に成る筈だった妻のニーナに任せてたのに。
「コンテナは、底面にビートバンを張り、二重底にします。空洞部分に水を出し入れすることで、重力操作が可能。その気になれば、風船みたいにプカプカ浮遊させて紐で引っ張ることも出来ますよ。まあ、制御の関係上、ビートバンの面積と水量調節で、浮き上がらない程度に重量を残しますが」
ビートバンか。不思議だよな。重さが無くなるなんて、本当に魔法の板だよ。
「御覧ください。これが運用予定です」
グレーン卿が指差したのはテーブルの上。随分前に、ミリアがスポーツなるものを説明した時の小人が動き回っている。
確か、3Dアニメーションだったか。
規格の揃った四角い物置小屋みたいなコンテナに、フォークリフトという一人用の運搬機械で詰め込まれていく段ボールの山。その横では、段ボール箱を一つずつ、人力で詰め込んでいる。
扉を閉めて施錠したコンテナを引っ張るのは、トレーラーと言う馬無し馬車だ。
「モータリゼーションは、まず、業務用からです。大衆が自家用車を乗り回すには、道路事情の改善が必要不可欠ですからね。渋滞が常態化する前に、交通秩序を構築しなければ。それについては、デアモント公爵家が主導する予定です。我がスミス公爵家は、あくまで食料の流通が専門ですから」
キラキラした目のまま、グレーン卿は、そのまま港町マイヅルと領都キョウトの整備計画を熱く説明しだした。
こちらは天津箱舟の職責とは関係ないが、ランドール伯爵領の代官としての業務だそうだ。説明前にわざわざそう断るところが、真面目と言うか律儀と言うか。
「閣下は、ランドール伯爵ご本人ですぞ。領地について、把握せずして何とします。細部はお任せいただくとしても、大まかにだけでも理解していただかなくては」
そう言われてもな。正直、頭がパンクしそうだよ。
「ダンジョンについては、テイラム殿が調整中です。天津箱舟の物品と知識、公表の判断は難しいものがありまして、基準作りを専任されております。閣下への帰順は今しばらくお待ちいただきたいと伝言を承りました」
あー。テイラム、早く帰ってこないかなー。
「デルスパニア王国ランドール伯爵領地下ダンジョン。略してデパ地下ダンジョンですが、ビートバンの本格採掘が始まりました。領税の徴収について打ち合わせが有りますので、明日、王城へご同行願います。この際ですので、マイヅルに関しての調整をしましょう。他に何か、ご希望は有りますか」
特に有りません。全部お任せしますから。
何で俺、伯爵になっちゃったんだろ。
なるべく早く引退したいけど、その前に子供たちの後継者教育しなきゃなんだよなぁ。後継者より先に、俺を教育してもらわないとどうしようも無いと言うか。
本当にどうしよう。
テイラム君、早く戻って来ると良いね。
グレーン卿、張り切ってます。テンションうなぎ上り。デパ地下、正式始動。ビートバンが原油並みの戦略物資になる日はそこまで来ています。
お星さまとブックマーク、ありがとうございます。




