領地経営発表会 代官がやって来る
ビートバン、正式名称発表です。お待たせしました。新章開始です。
メリー・クリスマス!
国際連携機構設立の準備で延び延びになっていたタムルク王国戦役の論功行賞が、王宮内だけでささやかに、地味に行われた。
圧倒的な兵力で危なげなく圧勝したから、都合の悪いことから目を逸らすための華々しい英雄は必要なかったんだ。
今回は領主軍が参加してなくて騎士団だけだったから、陞爵や領地の授与は無かった。軍内の昇進と勲章授与と報奨金、それで済んだ。
ちなみに俺がもらったのは勲章一つ。昇進は無し。
もう一つ。軍の内々で済ませられた理由がある。
もうね、娘のミリアがやらかしてくれた大事件でね、タムルク王国との戦争なんて霞んでしまったんだ。完全に過去の出来事あつかい。それだけ神の恩寵のインパクトはでかかった。
何だよ、地形変えてしまうって。
神の御業ですか、そうですか。
正式名称は『神の恩寵による運河』だけど、公式文章でしか見ることは無いだろう。
誰もが海峡、または単純に海と呼ぶ。果てしない広さと塩水、そして潮の香り。神話に出て来る海その物だからだ。
一応、事前に天津箱舟関連で海峡を造ると知らされていたけどさ。いざ実現してみたら、あまりの規模に気が遠くなりかけた。国王陛下に見せられた完成予定図じゃ一本の線だったのに、対岸が見えないほどの幅なんだぞ。
山岳地帯では、海峡の幅ですっぱり山が削られて、断崖絶壁が続いている。
窪地や元々低い土地だった場所は、水があふれて湖みたいになってる。ミリアに言わせると、湾とか遠浅の海岸とかいう地形だそうだ。
とりあえず国内の分だけでも海峡の地形図を作成しなきゃいけないと言うことで、国土保全省が測量を始めた。
当然、人手が足りなくて国軍に協力要請が来た。
それなりの高官で無任所参謀なんて暇してる俺に話が回ってきた。
うん、自然な流れだよな。
海峡に唯一接している領地が俺のランドール伯爵領なのはたまたまだよな。
海峡を有効活用するために神に授けられたウォーターリニア、通称ビートバンが、ランドール伯爵領内のダンジョンからしか産出しないのも、偶然なんだよな。
ハハハハハ。どこまで計算してらしたんですか、国王陛下。
ランドール伯爵領の海峡沿いに、半島に囲まれた天然の良港がある。ミリアが命名したマイヅルというその場所は、港湾都市となる未来が決定付けられていた。
国土保全省もマイヅルに拠点を置いて、せっせと海岸線の測量を続けている。協力している国軍の駐屯地だってマイヅルだ。
港町マイヅルに程近い平野部。そこで造営中のランドール伯爵領の領都は、これまたミリアの命名でキョウトに決まった。馴染みのない語感だけど、神代古語から採ったと言う。ミリアの前世、ニホンと言う国の古都の名称だそうだ。
領都キョウトは、惑星開発プログラムに沿って開発中だと言う。未来都市のインフラのモデル地区になるそうだ。街中に水路を張り巡らせて、水の都にする予定とか。
領民は、トマーニケ帝国とタムルク王国からの移民が多数。将来、海峡を使った両国との貿易の際に活躍する人材を、今から育てて行くとか。
『ダンジョンの入り口に門を設けて、門前町を整備中です。中核施設として探索者ギルドを立ち上げました。内部の探索および採掘する人員に探索者という認定証を発行してます。きっちり組織して管理監督しますので、治安の維持に関してはご安心ください』
「ああ、うん、解った」
スマホモドキ越しにノリノリで説明してくれるグレーン卿。今は騎士爵だけど、スミス公爵家の嫡男様。我がランドール伯爵領の代官だ。
楽しそうで何より。俺は事後承諾しかできなくて申し訳ないけど、宜しく頼むよ。
『では、来週には王都に着きますので、詳しい資料はその時に。王都のランドール伯爵邸でお会いしましょう。では、この辺で』
「うん、……えっ」
最後に予想外のことを言われて、反応が遅れてしまった。
グレーン卿がわざわざ出向く用事って、何かあったっけ。
思い当たることが無くて、俺は通信の切れたスマホモドキをじっと見てしまった。
舞鶴、本当に良港ですよ。京都の北、日本海沿いです。将来的に海軍が組織されるなら、軍港にピッタリの地名です。
サイドストーリーに、マーク君を主人公にした学園物などいかがでしょう。それとも、続編とした方が治まりが良いかな。
お星さまとブックマーク、ありがとうございます。完結まで頑張ります。




