王都への帰還
前話の後書きで、閑章はここまでと書きました。
嘘です。もう一話続きました。ごめんなさい。
バルトコル伯爵領へ来た地上車、ミリア曰くのキャンピングカーもどきは全部で四台。
デアモント公爵、テムニー侯爵、デイネルス侯爵、それぞれの紋章の付いた車が一台ずつ。ハズレの一台は紋章無しで、各家の従者の皆さんが合同で使用して来た。
普通の旅なら、各家ごとに従者用の馬車を何台も連ねるところだけど、今回は速度優先だったからな。
で、だ。往路でばっさり切り捨てた社交を、復路ではしっかりこなさなきゃならない、らしい。
そもそも実家のランドール子爵家は王都から馬車で一日。途中で宿泊する必要が無かった。
俺の婿入り先のツオーネ男爵家までは半日だし、寄らなきゃいけない社交相手の家だって無い。
バルトコル伯爵家と親戚づきあいがあったら大変だったろうけど、絶縁状態だったしな。
今さら社交だなんて、面倒だったらありゃしない。家だけ一足先に帰っちゃ駄目かな。
「駄目に決まっているだろう。いや、ランドール伯爵家単独で社交をこなして行くなら止めないが。そうすると、デアモント公爵が行く先々でマークを引き取ることになったと喧伝して歩くだろうな」
冗談だろ。どっちも御免だ。
「それに、宿泊先の負担も考えろ。公爵家と侯爵家が二家、それに今一番の注目株の伯爵家だぞ。別々に接待することになったら、身代が傾きかねん。ここは大人しく同行しておけ」
兄貴の言い分も尤もだけどさ。
何でも格上の家への接待は、貴族の見栄の張りどころだそうで。応接室と客室、それに玄関だけは豪華に設えるし、晩餐会だって可能な限りの高級料理を用意するそうだ。
「一度に泊めてもらったら、客室が足りなくなっちゃうんじゃないか」
「それは大丈夫。今回、極端に人数を絞ってあるからな。最上級の部屋は公爵閣下に譲るとして、俺たちは家族用の部屋を借りればいい。従者用の部屋は余るはずだし、トータルで見れば余裕さ」
公爵家ともなると、主だった従者は貴族が当たり前。平民ならまとめて大部屋か街の宿で良いが、上級使用人は一人一部屋。それも貴族基準の部屋だから、俺やマークが使うには必要十分だとか。
「ランドール家は伯爵に陞爵したんだ。これからは社交だって伯爵レベルだ。しっかり経験しておけよ」
うう、俺は兄貴ほど優秀じゃないんだよ。何でテイラムに同行してもらわなかったんだろう。兄貴が居るからって油断してたらこれだよ。
天津箱舟謹製の地上車はさすがの性能で、移動時間を大幅に短縮できた。本来なら宿泊を申し込むところを、挨拶だけで済ませられたのが大きい。
通常の手順なら、予め手紙のやり取りで宿泊を申し込んでおく。その上で、前日か遅くても当日に早馬で先触れを出して、到着予定時刻を知らせるものらしい。
ところが地上車だと、早馬が間に合わない。
奇怪な馬無し馬車にいきなり乗り付けられた貴族家は、高位貴族の一行にパニック気味だった。俺だって立場が同じならパニック起こす自信がある。
それでも、急遽お茶の席を用意できるのはさすがだった。
宿泊先だけは準備が必要だから、紋章無しの一台を先行させた。半日ちょっとで用意させて申し訳なかったけど、経費節減の口実になるから、それほど迷惑じゃないそうだ。本当かな。
習うより慣れよとは良く言ったもんだ。なんとか王都に到着した時には、付け焼刃だけど伯爵らしい振る舞いを身に着けられた。
同行したテムニー侯爵やご子息とゆっくり話す時間も持てたし、キャサリン義姉さんやマークと今後の相談も出来た。
マークに関してはちょっと反省してる。ランドール家の跡継ぎって決めつけてたけど、それで良いんだろうかって。
それにキャサリン義姉さん。
上の兄貴が亡くなって十年以上経ったし、俺は名ばかりの夫で義弟でしかない。このままランドール家に縛り付けて都合良く使ってるだけじゃ、申し訳なくて。
マークはいずれ大人になる。子育てが終わったら、キャサリン義姉さんの幸せはどこにある?
バルトコル伯爵家との因縁もほどけたんだ。キャサリン義姉さんさえ良ければ、俺じゃなくて、第二の人生を共にできる方と再婚するのもアリだと思う。
我が家は、しがない地方貴族の子爵家上がり。成り上がりの伯爵家で、柵は……侯爵家とか、公爵家とか、王家とか、おまけに天津神とかあるけれど。
それでも家族がみんな幸せなら、それだけで良いと思うんだ。
クリスマス寒波が凄いことになってます。停電、高知や九州、北関東での積雪。
冬はまだまだこれからが本番。皆様、しっかり備えをしましょう。
お星さまとブックマーク、ありがとうございます。




