ある伯爵のつぶやき
あまりに影が薄い親戚の方。立場的に話に割り込めないだろうなと思ったので、第三者視点を提供してもらいました。オスカー君の扱い、本人の実態を知らない人から見たらこうなるんでしょう(笑)
本格的な冬型の気象配置です。明日は何センチ積もってるかな。
我が家は、伯爵とは名ばかりの貧乏貴族だ。
初代は街道沿いの宿場町の代官として活躍し、交易都市に育て上げた。その功績により伯爵位を賜り、周辺の土地を含めて領地とした。
中継交易で豊かだったのは昔の話。新しい街道が引かれて、領内を通る街道は私道に格下げ、細々と続く交易だけでは借金がかさむばかり。
そこに手を差し伸べてくださったのがバルトコル伯爵家だった。
木工細工を領の産業として振興し、耕作に向かないとあきらめていた土地に、新しい作物を紹介していただいた。なんとか爵位返上の危機を乗り越えられた恩は、忘れることはできぬ。
以来、バルトコル伯爵家を寄り親とし、代を重ねて来たのだが。
妻を亡くし、後添えとして紹介されたのがバルトコル伯爵令嬢と聞いて、驚いた。
男爵家出身の婿養子の伯爵と子爵家出身の第二夫人が御両親と聞いて、納得したものだ。言葉は悪いが、名ばかり伯爵令嬢と名ばかり伯爵家ならつり合いが取れていると。
輿入れしてきたご令嬢は気立てが良く、前妻の残した子供たちとの仲も良好。良縁であったと感謝しながら平穏に暮らしていたのだが。
まさか、バルトコル伯爵家が爵位返上することになるとは。
目の前で、デアモント公爵閣下とランドール伯爵の話し合いが繰り広げられている。
ランドール伯爵は救国の英雄と謳われる国軍大将。そして聖女様の御父君でいらっしゃる。第三宰相を務められるデイネルス侯爵の実弟でもある。
つい先日まで子爵であられたが、我がデルスパニア王国指折りの実力者。一応、妻同士が姉妹と言う姻戚ではあるものの、私が相婿を名乗るなど烏滸がましい方だ。
「伯爵家が無くなるなら、契約も無効にすることはできないのですか」
「反古にはできる。ただし、契約違反という事実が残る。その罰則として、結婚自体が無効になってしまう」
公爵閣下の言葉に嘘は無い。それだけ契約結婚は重い物だ。法的強制力は伊達ではない。
「その上、先代伯爵は私生児扱いになる。庶子は婚外子として認められるが、私生児は父親不明だから庶子以下よ。王弟殿下の姫君の降嫁も、遡って無効になるな。先代伯爵の血を引く子孫はどこまで行っても正嫡には成れぬ。正嫡でなければ、家督は継げぬ」
「それは……、亡くなられた女伯爵が家督を継いでいなかったと言うことになるのですか」
「その通り。遡って爵位剥奪になる。まあ、あくまで書類上の話でしかないがな。それより問題はだ。テムニー侯爵夫人のご子息も、ランドール伯爵家のマーク卿も、正嫡と認められず家督相続できなくなると言う点だ」
ランドール伯爵が蒼白になった。助けを求めるように貴族院の事務長を見る。
「公爵閣下のお言葉通りでございます」
無情にも宣言された事実に、ランドール伯爵が肩を落とされた。
そこに声を掛けられたのは、デイネルス侯爵。
「あきらめろ。オスカー。マークを差し出すしか道は無い。それこそ書類上だけでもマーク・デアモントを誕生させるんだ。なに、その後でランドール家と養子縁組して、マーク・ランドールに戻せば良いだけの話だ。なんなら、バルトコル家を再興させて、マーク・バルトコルを名乗らせても良い。どうにでもなるぞ」
あまりに軽く言われた言葉に、その場の一同がポカンとした。もちろん、私もだ。
今までの話の重さは何だったんでしょうか。第三宰相デイネルス侯爵、恐るべし。
なーんか重い話になったので、つい、オチを付けてしまいました。正月特番と矛盾しないように辻褄合わせ頑張りました。マーク君、成人後の選択は君次第だよ(笑)
お星さまとブックマーク、ありがとうございます。感想への答、もう一話続けます。




