自薦か他薦か立候補
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「東のバルトコル伯爵の娘婿はいかがでしょう。デイネルス侯爵の実弟でもありますゆえ、インパクトはあるかと。名前はオスカー・ランドール、王都警備隊中隊長でございます」
わわわわわ、やっぱり俺の事だった。
何で宰相閣下が俺の事知ってるの。ま、まあ、兄貴がらみなんだろうけどさ。
「その者を選んだ理由は」
「まず、バルトコル伯爵領は、此度の侵攻で戦場になる可能性が高こうございます。娘婿であれば援助を申し出ること、不自然はございませぬ。さらに、この者が動けば、相婿三人も動くことになりましょう」
ああ、キャサリン義姉さん、バルトコル伯爵の四女だから。でも、義姉さん伯爵家とは絶縁状態で、親戚付き合い無いんだよな。相婿って、どこなんだろ。
うわあ、仮にも妻の姉の嫁ぎ先だぞ。名前も知らないのは我ながらマズい。
「今現在、王都に居る娘婿はこの者一人のみ。急ぎ話を通す必要がございます。デイネルス侯爵をこの場に召喚してよろしゅうございますか」
「よかろう」
パン、パン。
宰相閣下が手を叩くと、小柄な身体には不釣り合いなほど大きな音がした。あれだ、高貴な人が召使を呼びつける時のやつだ。劇なんかでよく見るやつ。実物見るのは初めてだけど。
呼応するように控えの間で動きがあって、兄貴が入室してきた。俺と同じ様に両脇を近衛騎士に挟まれている。
一瞬、目が合った。しっかりアイコンタクトがとれて一安心。
「侯爵、エザール・デイネルス、御前に参じましてございます」
「楽にせよ」
陛下のお言葉で、兄貴を挟んでいた近衛騎士がすっと身を引いた。流れるように控えの間に戻っていく。そうか、俺はお言葉を頂けてないから、近衛騎士と一緒に壁の花なんだ。
「ほう、お前がマクミランのお気に入りか。お前の弟やらを推挙したのはお前だろうが、ちゃんと身贔屓する理由があるんだろうな」
「もちろんです。王弟殿下」
ああ、そうだった。軍務大臣は王弟殿下だった。そりゃ、陛下にずけずけ話しかけられるわ。
「我が弟オスカー・ランドールは子爵家三男、相婿は伯爵家当主二人と侯爵家嫡男。子爵家より多く援助せねば、面目が立ちますまい」
「ほう、その者が呼び水になる訳か。しかし、子爵ではたいした援助は出来ぬのではないか。最低基準が低すぎては、必要量が集まらんぞ」
国軍総司令官の言葉に応えたのは、宰相閣下だった。
「なに、デイネルス侯爵家より助力を得れば、それなりの物を出せましょう。となれば、相婿の家でも伝手をたどるはず。つまりは、より多くの家が動きまする。そこで陛下にお褒めの言葉をかけていただければ、後は私どもがほかの貴族をたきつけてごらんにいれましょう」
宰相閣下、リアーチェ義姉様と同類なんですね。あんまりお近付きになりたくないんですけど、逃げられないんだろうなぁ。
「よろしい。人選を承認する。マクミランよ、すぐに本人の了解を得よ。直訴は難しかろう故、デイネルスを通じて立候補させるが良い」
陛下の承認が下りた。
「御意。デイネルス、聞いての通りだ。すぐオスカー・ランドールと連絡を取るように。あくまで自主的に立候補するよう、うまく言いくるめてくれ。できるな」
「は? 弟はそこに居ますが。宰相閣下が呼び出したのではないのですか」
「なに?」
あー、気まずい、気まずいけど!
「発言お許しいただきます。本官は、東城門警備中隊、中隊長、オスカー・ランドール大尉であります」
うん、皆様方、気まずいのはお互い様なので、そんなに注視しないで下さい。
次兄の名前、でました。エザール・デイネルス君です。
さて、ようやく壁の花から解放されたオスカー君。退室許可が下りるまで、もう一波乱残ってます(笑)
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