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バルトコル伯爵家の終焉

予定調和のはずが、それでは終わりません。


 寒くなってきました。いよいよ冬本番。皆様、体調を崩さぬよう、ご自愛ください。

 三日後。俺たちはバルトコル伯爵領に到着した。

 ……いや、可笑しいだろ。乗合馬車を乗り継げば二月、早馬をリレーする黒旗の軍使だって十日は掛かるんだぞ。それがたったの三日って。


 そもそも公爵家や侯爵家の馬車の旅程なら、三月はかかるらしい。行く先々でその地の領主館に泊まって、社交をこなしながら進むんだそうだ。

 伯爵家は外せない。中位貴族の子爵や男爵だって、地縁血縁その他諸々を考慮すれば、省くわけにいかない家が多々有る。

 特に今回はデアモント公爵、デイネルス侯爵、テムニー侯爵の三家が同行しているから、寄らなきゃいけない土地も三家分だ。


 出来たばかりの我がランドール伯爵家は、おまけでくっついているだけだけどな。それでもデイネルス侯爵家とバルトコル伯爵家が姻戚ってのは、かなりのインパクトだそうだ。

 どこか他人事なのは、実感に乏しいから。軍務で無茶振りされたりしたけど、それだけだし。ほとんどメリット感じたことないし。

 というか、ミリア関連が衝撃的すぎてそれどころじゃ無かったし。


 とにかく先を急ぐ旅なので、今回は社交を全部スルー。都市や宿場にさえ寄らず、全泊野宿で過ごした。そこまでしないと、後から不公平だなんだと面倒くさくなるそうな。


 野宿と言っても、ミリア曰くのキャンピングカーもどきでの車内泊。トイレはもちろん、簡易のシャワー室まであるし、座席を変形させたソファベッドの寝心地は、軍の野営とは比較にならなかった。下手したら貴族向けの高級宿より上かも知れない。


 ちなみに。

 街道を驀進した馬無しの新型の乗り物は多くの旅人の目に留まり、後々、地上車の普及の一助になったそうだ。





 就寝時間以外は食事中でも移動を続けると言う、強行軍の甲斐が有って、バルトコル女伯爵の臨終に間に合うことができた。


 広い病室の中央にポツンと置かれたベッドの上で、老女が横になっていた。

 ベッドの周りを囲む王都からの一団。そのすぐ外側にその他の親族の方々。少し離れて医師と看護人が待機。その全員を視界に収めて、俺は壁際に立っていた。

 伯爵家四女であるキャサリン義姉さんと息子のマークは最前列に居るけど、バルトコル伯爵位を拒否した俺が割り込むのは違うだろう。そう思えた。


 女伯爵は穏やかだった。薬が効いているとのことで、キャサリン義姉さんやマークと言葉を交わし、夫のカレスン卿に手を握られながら感謝と愛を伝え、微笑みながら眠りについた。

 その場の全員の立会いの下で延命処置の投薬終了が宣言された。


 二日後、女伯爵は眠ったまま穏やかに生涯を閉じた。




 バルトコル伯爵家の相続手続きは、王都から同行してきた貴族院の役人が取り仕切った。

 何年も前から準備されて来たそうで、どこからも異議は出ず、ほとんど最終確認だった。


 まず、伯爵家は後継者不在により爵位返上。領地はそのまま王領となり、代官が置かれた。代官はカレスン卿の実家であるランデス男爵家の当主が務めることになった。

 元々バルトコル伯爵家の分家で従属爵位だったが、代官就任に合わせ、王家直参の子爵位を叙爵。カレスン卿の兄の孫にあたる新ランデス子爵は、張り切って代官業に邁進して行く意欲を見せた。


 伯爵家の第二夫人の実家であるもう一つの従属子爵家は、爵位返上の上、平民となった。ぱっとしない領地経営に見切りをつけ、家業の商会に注力したいとのことで、円満解決だった。

 商会の利益で領地経営の赤字を埋めている状態だったとかで、子爵位に掛かる国への納税義務がなくなるだけでもメリットが大きいそうだ。

 第二夫人はカレスン卿と正式に離婚し、長年連れ添った専属執事と再婚、実家から援助を受けて静かに余生を送るとのこと。カレスン卿は自己資産からいくばくかを、離縁に伴う財産分与に充てるそうだ。


 第二夫人の御息女二人は、実家のバルトコル伯爵家が消滅するものの、テムニー侯爵夫人の妹であり次期侯爵の叔母と言う立場が有るので、特に変化は無し。嫁ぎ先の伯爵家で平穏に暮らせるだろう。


 元バルトコル伯爵であるカレスン卿は、実家のランデス男爵家次男の身分に戻り、新ランデス子爵家に籍を置くことになった。領地も役職も無い名ばかり貴族だが、実の娘であるテムニー侯爵夫人が身柄を引き取った。王都のテムニー侯爵邸の離れで暮らすそうだ。

 

 カレスン卿、バルトコル伯爵家の四姉妹の父親だけど、血の繋がった実子はテムニー侯爵夫人お一人なんだよな。色々苦労されて来たんだから、余生は幸せに暮らしていただきたいものだ。


 最後に伯爵家四女のキャサリン義姉さん。

 実家に戻って女伯爵になると言う話はきっぱり断ってあるし、ランドール伯爵家の第一夫人と言う立場がある。長男のマーク共々、俺の大事な家族だ。現状維持で何の問題も無い。

 その筈だったんだけど。




 


「異議あり。キャサリン夫人とご子息マーク卿について、協議を要請する」


 いきなり何を言い出すんですか、デアモント公爵閣下。

 そもそも、閣下はどういった親戚でしたっけ。

 

 




 王都から同行した公爵。ちゃんと情報収集しておかないから、テイラム君に呆れられるんですよ。


 女伯爵、穏やかに逝きました。ご冥福をお祈りします。


 お星さまとブックマーク、ありがとうございます。これから公爵家とのやり取りが始まります。オスカー君、また胃を痛くしそう。

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