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閑話 皇帝陛下と神の恩寵 

 ちょこっと別視点。トマーニケ帝国の皇帝陛下、苦労人かも。

 デルスパニア王宮のバルコニーで神の奇跡を目の当たりにした後、我らは休憩室へと案内された。


 それぞれ国を背負う元首。

 名前や絵姿を初めとして、趣味趣向、重用する家臣、家系図に連なる縁者等々(などなど)、互いに探り合っている仲だ。直接顔合わせする事になるとは思ってもいなかったが、既知の存在ではある。


 先年トマーニケ帝国の皇帝として即位したばかりの余は、この場で一番の若輩者だ。デルスパニア王国と戦争して形ばかりは引き分けたものの、実質敗戦国として侮られてきた。

 それが今回、タムルク王国が名実ともに敗戦国に転落してくれたお陰で、相対的に地位が上がった。礼を言いたいが、嫌味にしかならぬだろうゆえ自重しているところだ。


「ここは、近衛騎士の休憩室でございます。本来であれば皆様方には貴賓室をお使いいただくのが筋ではございますが、いかんせん、広さが足りません。どうか、不調法をお許しください」


 案内役の第三宰相が丁寧に礼をした。

 デイネルス侯爵と名乗っていたが、元は子爵家出身。実力で宰相職まで上り詰めた男だ。油断はできぬ。(くだん)の聖女の伯父だが、それだけの者ではない。


 それにしても騎士の休憩室でこの調度類か。我が帝城とは比べ物にならぬな。王都の賑わいと言い、街道整備の見事さと言い、国力の差を実感させられるのはこれで何度目だろうか。


 王宮では賄いきれぬからと、宿泊場所は王城に隣接する公爵家を供されている。

 他国であれば、充分に王宮と呼んでよい規模の公爵邸。それを維持できるだけの権力と財力を兼ね備えた公爵家が、デルスパニアには十四家もあるのだ。

 追従する侯爵家に至っては、百二十七家。高位貴族だけで、その力は我が国を上回る。


 よくこれで国境紛争など起こせたものだ。我が国が滅亡を免れた事、幸運だったと確信を強くした。




「お待たせしましたな」

 大国の王らしく余裕を見せたデルスパニア国王が、落ち着いた声で入室してきた。

 交わされる社交辞令。先ほどの神の奇跡の動揺は、全員が押し隠している。

 タムルク国王はいささか表情に余裕が無いが、それでも笑顔を取り繕っている。とりあえず合格だな。


「非公式ではあるが、皆様に提供させていただく。神より下賜された、運河の詳細図だ。此度の運河は公のもの、(わたくし)することは個人、組織、国家に関わらず厳禁。広く民に公開するのが我らの務めとの御神託である。我がデルスパニア王国は御神託に従うが、他国に強要する権限を持たぬ。この詳細図の扱いは、皆様に一任する」


 一人一人に配られた薄い板。両手で抱えるほど大きく二つ折りになっていて、広げると地図だった。

 地図の下部に端から端まで太く描かれた筋が神の運河だろう。実際はどこまで続いているのかはっきりせぬ。

 上部四分の三に、細い線で各国の国境が描かれている。運河に接するのは、東に我が国。デルスパニア王国を間に挟んで西がタムルク王国。本当に接しているだけで、国内を流れてはいない。


「これは……」

 誰がこぼした言葉か、確認する気になれなかった。それほど衝撃的だった。

 地図に書き込まれていたのは、国境線だけではない。都市の位置、街道、河川、湖沼に湿地帯。その全てが詳細で、見た限りでは正確だと思える。

 地図は戦略物資だ。それが丸裸にされている。こんなものが一般に流布したら。そもそもどうすればこんな物を作り出せるのだ。


「では、これを見ていただこう。これこそ神の恩寵。運河に浮かべよとの御神託だ」

 デルスパニア国王が手を叩くと、数人の侍従が様々な物を運び込んできた。


 そうして見せられたのが、青い板。素材は見当もつかない。軽くて丈夫らしいが、それだけだった。ところが。

 用意されたのは、水を張った桶。その中に放り込まれた板が……浮いた。


「皆様、磁石はご存じであろう。鉄にくっつく石だ。磁石どうしは張り付くか反発するか。この青い板は水に反発するのだよ」


 浮いた板は、つつくだけで滑るように移動する。

「不思議な事に、おもりを乗せれば乗せるほど、反発が強くなって水面高く浮上する。ただし、不安定にもなるから、おもりが滑り落ちると水面近くに降りてくる。そして」


 言いながら、国王が板を強くはじいた。板は水面上空を滑り、桶の外に飛び出した。そして床に落ちた。


「御覧の通り。水面から外れれば、ただの板でしかない。これを船の底に張り付ければ、水面に浮く船が造れる。少なくとも、軽量化は図れよう。いかがか」


 



 この日。大航海時代の幕開けに同席出来た余は、歴史の目撃者となった。

 果たしてそれが幸運だったのか。水運関連の業務に忙殺されながら、余は自問自答することになる。


 



 青い板、水専門の反重力装置です。泥やぬれた路面の上ではどうなるんでしょうかね。国を挙げての検証が始まることでしょう。

 ミリアちゃんも知らない未来の技術ですが、恒星間宇宙船が有るんだからこれくらいは実用化されてますよね(笑)


 青い板の供給を一手に握るランドール伯爵領の地下ダンジョン、一気に国際的に周知されることでしょう。


 ここで募集します。青い板の正式名称と商品名、かっこよくネーミングして下さいませ。応募は感想欄で。お待ちしております。



 お星さまとブックマーク、ありがとうございます。そろそろ公爵編に行こうかな(笑)

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― 新着の感想 ―
[一言]  決して水に触れない板、ということで「不濡板」(ふじゅばん、あるいは、ぬれずいた)なんてどうでしょう?
[良い点] 水面を跳ねる水切り石とか
[一言] ウォーターリニアで。
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