終戦交渉
感想ありがとうございます。デルスパニア王国軍をデパ軍と約していただいて、笑ってしまいました。良いですね、デパ国。使わせていただきます。
軍事に関しては素人なので、そうなのかーと感心してました。
ちなみに、貨幣経済が普及していないのは地方の寒村地帯。さすがに都市部では物々交換はしていません(笑)
タムルク王国宰相デーレン侯爵は、頭を抱えていた。いったい自分は何を見せられているのかと。
「お願い申し上げます。どうか、どうか我が領をデルスパニア王国に編入していただきたい。領地も爵位も献上いたします。王領にしていただければ幸い。騎士団のどなたかへの褒奨にしていただいても一向に構いませぬ。なにとぞ、なにとぞ」
終戦協議のためタムルク王城を訪れたデルスパニア王国の使者に縋り付いているのは、つい先日まで主戦派だった貴族たちだ。
兵士や領民に反乱を起こされ、領地を見捨てて逃げ出してきた者ばかり。献上するも何も、すでに領地は失って有名無実だろうに。さらに言えば、爵位はタムルク王家が下賜したもの。他国に献上など無理だろうが。
「見苦しい。使者殿の前で何たる醜態か。これ以上、国の恥を晒すでない」
叱責すれば、今度はこちらに矛先が向いて来た。
「何をおっしゃる。ラークス州はデルスパニア王国の下、すでに復興の途上とか。我が領にも同等の恩恵を請願することの何が不都合か。そもそも不甲斐なく占領を許した州が優遇されるなど間違っておる」
そうだそうだと同調する輩の思惑は透けている。反乱の平定をデルスパニア側に押し付け、何食わぬ顔で元の地位を回復したいのだ。
現地の実情に詳しい自分が統治のお手伝いをとでも申し出て、代官職を狙うぐらいはする筈だ。協力するからデルスパニアの貴族に叙爵しろと言いたいのが本音だろう。
あまりにも無作法な貴族たちを衛兵に命じて追い出し、デーレン宰相は改めて頭を下げた。
「申し訳なく存じます。これが我が国の実態。取り繕うことすらできませぬ。無条件降伏を申し入れます。どのような処遇にも一切異議を唱えませぬ」
最悪は、降伏すら認められず殲滅されること。もはや敗戦が確定している以上、損害を少なくするためには出来るだけ早く終戦に持ち込まねばならない。
そのためなら、戦犯として処刑されるもやむなし。
敗戦国の宰相などと言う貧乏くじを引き受けるような馬鹿は、自分ぐらいだろう。今更逃げられないなら、役職を全うするしか道は無い。せめて、王家の存続は叶うだろうか。
タムルク王国の宰相が、悲壮な覚悟で目の前に座っている。
どうやらまともに話の出来る人物らしい。あの非常識な貴族たちを見た後だと、同情心すら湧いてくる。それを狙ってこの場に呼んだのなら、かなりの策士だろう。
でなければ、宰相にとっても予想外の事態のはず。わざわざこちらを不快にする意味は無いからな。
ここで話を纏めたら、今度はタムルク王自身に出向かせて、ラークス州都オラークスで正式に調印することになる。相手は遠征軍の総司令官を務められる王太子殿下だ。
タムルク王とデルスパニア王太子が同格であると公式に発表するパフォーマンスの前に、しっかり実務を詰めとくのが俺の仕事。
「無条件降伏、二言は有りませんね」
しっかり念押ししておく。あとは、本国から指示された要求を突き付けて、微調節して終わり。まあ、その微調節が大変なんだけどな。交渉は優秀な専門家がいるから任せておけば大丈夫。
大した条件じゃないぞ。相互不可侵条約と通商条約を結ぶこと。デルスパニアへの移民希望者に許可を与えること。
領地は要らない。もらっても負担になるだけだ。内政干渉するつもりもない。まあ、邪魔な貴族を潰す口実や平民の地位向上の切っ掛けは残すけど、どう活かすかはタムルク次第だ。
さて、元占領地をデルスパニアの経済圏にうまく組み込めるよう、通商条約の中身を吟味しないとな。
移住希望の未亡人の皆様、ランドール伯爵領に来てくれるかな。辺境の開拓地だけど、男ばっかりで再婚相手には困らないから。
どうか第二の人生の場所に選んでください。お願いします。
いつもありがとうございます。今回はこれぞご都合主義でございます。現実にこんな交渉があったら引きますよね。影の薄いタムルクの王家。無能なのか貴族の専横に雁字搦めなのか、どうなんでしょう。
お星さまとブックマーク、ありがとうございます。もうすぐ皆既月食が有るとか。晴れると良いな。




