近衛兵の活用法
読んでいただきありがとうございます。今回は薀蓄たっぷり。半分ほど読み飛ばしていただいてもOKです。
ここは王宮、国王陛下の執務室。
壁の花している俺の目の前で、マジ物の軍議が開かれております。いくら空気になっても、お偉いさんたちの怒鳴り合いは聞こえてしまいます。俺にできるのは、現実逃避のために今更な情報を思い返すことだけです。
はぁ、退室したい。
我がデルスパニア王国と東の隣国トマーニケ帝国の間で小競り合いが起きたのは、二年ほど前だ。発端は、国境地帯に広がる山地で、銀の鉱脈が見つかったことだった。
山脈というほど高くはなく、行楽気分で気軽に登れるほど低くもない。そんな山がいくつも連なっている場所は、街道が一本通っているだけで、はっきりした国境が決まっていなかった。
山の麓は未開の平原で、町も村も無く地名さえ決まっていない。領主がいない辺境ということで、行政区分上、王領になっている。
丁度良い演習場として有効活用しているのがカロテタリア騎士団。無人の地だから、騒音を出そうが派手な演習で地形を変えようが、どこからも苦情は来ない。野営だって強弓の遠射だって、やり放題だ。
その騎士団に、行商人が山から助けを求めて降りてきたらしい。聞けば盗賊に襲われたとかで、山の中の小さな集落が襲撃場所として国に報告された。
その集落が、山で銀を採掘していたことが発覚。あれよあれよという間に王領の一部に組み込まれ、集落の住民はデルスパニア国民として認められた。
そこに難癖をつけたのが隣国だ。集落のある山ごとトマーニケ帝国領だと主張し、デルスパニア王国が自国民を誘拐したと騒ぎ立てた。
いくら銀が採れるといっても、今は村未満の集落規模でしかない。大々的に採掘するには莫大な投資が必要だし、下手したらあっという間に鉱脈が枯渇する可能性すらある。そんな不確かな利益のために戦争を始めるほど、両国の首脳陣は馬鹿ではなかった。
まずは交渉で国境を策定しようと、両国の外交官が行き交った。
そのうち、小規模な戦闘が起きた。相手は隣国の辺境伯だそうで、隣国政府は動いていないという。
伯爵に辺境と付けば、国境を守るための独自の軍事行動を認められる存在だ。こちらから辺境伯領を攻めることはできても、隣国を攻める大義名分にはできない。
互いに損害を抑えながら様子見する威力偵察が常態化し、だんだん規模が拡大した。黒旗の軍使が東門に駆け込んでくるようになった訳だ。
カロテタリア騎士団から要請があった援軍派遣は、すぐ了承されていた。向こうが正規軍出してくるなら、こちらも騎士団を出すまでだ。問題は後方支援。
戦乱の時代だったら、一声掛けるだけですぐ貴族の領地軍が動き出したんだけど。
近衛兵が貴族に限られているのは、一人一人が自領軍の指揮官だからだ。いち早く王命を受けて戦功を得る機会を逃さないために、国王の傍に伺候している。貴族街を警備するのは平時の片手間仕事。
だから、あくまで近衛兵。近衛隊とか近衛兵団という組織には絶対ならない。建前と伝統は大切なんだ。
「はん、今の近衛兵に自領軍を指揮できる奴なんぞいるか。少しでも武で身を立てようと思う奴なら、騎士団に入っているさ。そもそも今時の領地軍は、自領の防衛で精一杯だろう。籠城戦ならともかく、野戦には向かん」
「兵力は期待できませぬ。ごもっとも。されど、補給物資の提供と運搬は頼めるのではありませぬかな。今、最も必要な要素でありましょう。いかが」
「どこの貴族がすんなり出すんだ」
「従軍か物資か。人か金かと問えば、案外素直に出しましょうぞ」
「それは上手くありませんな。自主的に提供したいと言わせなければ。貴族に借りを作ると後が面倒」
「ほう、策は有るのか、マクミラン」
陛下の下命を受けたのは、小柄な老人。マクミランて呼ばれてたから、第一宰相マクミラン侯爵閣下だ。
「ございますとも。まずは一人、立候補させます。その者を大いに褒めたたえ栄誉を与えれば、横並びを好む貴族、我も我もと後につづきましょう」
「誰を立候補させる。もう目星は付けているのであろう」
陛下に向き直り、老宰相は軽く会釈した。俺からは後姿しか見えない。
「東のバルトコル伯爵の娘婿はいかがでしょう。デイネルス侯爵の実弟でもありますゆえ、インパクトはあるかと。名前は……」
ちょっと待って。それって俺の事!?
近衛隊ではなく近衛兵だった理由、しっかりこじつけられました(笑)
こじつけと辻褄合わせのお冨と呼んでください。うん、この二つ名(笑)使うのも二十年ぶりです(大笑)
お星さまとブックマーク、ありがとうございます。頑張ります。