ラークス州都にて
はっはっは。占領地でオスカー君が兵たちにどう思われているか書くはずだったのに、なぜこうなった。
話が斜め上に転がって行くのはいつもの事ですが、想定していたエピソードまで繋げられるんだろうか。ちょっぴり不安です。
唸れ、お冨のこじつけと辻褄合わせ(笑)
誤字報告と感想、ありがとうございます。反映させていただいてます。少しずつですが良くなっていると良いな。
タムルク王国の国内に侵攻して三週間。俺はカワルト騎士団が包囲している城塞都市に来ている。
都市の名称はオラークス。ここラークス州の州都で、ラークス伯爵家の本拠地だ。デルスパニア王国風に言えば、ラークス伯爵領の領都というところか。
ちょっとややこしいが、タムルク王国の州は、国が定めた行政区分だ。いくつもの貴族領をひとまとめにして、その代表格の貴族の名を州に付けている。なので、ラークス州全てがラークス伯爵領という訳ではない。
それでも、ラークス伯爵家は州の代表だ。州都を陥とせば州全体を陥としたことになる。
すでに我が国と国境を接する州は、四つ全て攻略済み。占領地として管理する段階に入っている。
ラークス州は国境から王都へ向かう街道に位置する州だ。州都オラークスを包囲したまま、別の騎士団に王都を急襲させれば一気に勝利できるんだが、本国から待ったがかかっている。
何でもそれをすると王家滅亡からタムルク王国併合に繋がりかねないんだそうだ。滅亡した国家なんて不良債権、抱え込んでも手間暇ばかりかかって旨みが無いんだとか。
それよりは敗戦国として存続させて、王家に責任持って後始末をさせる方が絶対お得。
何でそんなことまで知ってるのかって。
これでも前線司令部の総参謀長ですから。大将の階級は伊達じゃ無いんですよ。ハハハハハ。
城塞都市オラークスの城壁には、今日も弓兵が待機している。籠城戦が始まってから十日、まだまだ士気は衰えていない。
弓矢の届かない距離に布陣しているのは、デルスパニア王国の誇る騎士団。翻る旗は剣を咥えたドラゴン。カワルト騎士団の徽章だ。
そんな睨み合いの続く無人地帯を、交渉旗を掲げて陣地から城門へと歩を進めた。
包囲しただけで、まだ戦端は開いていない。流血が起きる前なら理性的に交渉可能なはず。問答無用で使者の首を刈ったりしないと踏んで、降伏勧告に踏み切った。
同行するのはカワルト騎士団の副団長と、護衛役の小隊長三人。剣の腕は確かだ。少なくとも俺よりずっと強い。
州都オラークスの中央、行政府の応接室。
席についているのは、ラークス伯爵本人。後ろに立っているのは側近達だろう。護衛の騎士は壁際に控えているが、臨戦態勢でピリピリしている。
ラークス伯爵は、白髪交じりで痩せ気味の男性だった。どう見ても文官。緊張しているが、うろたえてはいない。
向かい側に座るのは俺一人。副団長と小隊長三人は俺の後ろで立っている。
いやちょっと待って。交渉するのは副団長じゃなかったっけ。俺は箔付けでしょ。階級が一番上だし前線司令部所属だから名目上の代表になっただけの。
この場でオタつくわけにはいかない。焦るな俺。
頼りのテイラムは居ないし、責任重大だけど、話だけして帰れば良いんだ。今回は顔合わせだけなんだから。
会談は二時間を超えた。そのほとんどは、伯爵の愚痴だった。中央への憤懣をぶちまけたと言った方が正しいか。
まず、今回の宣戦布告は寝耳に水だった。王都で軍備に関する派閥争いが起きていたのは知っていたが、いつもの事なので、まさか本当に開戦するとは思っていなかったらしい。
戦時だからと、強制的に兵と物資を供出させられた。州都が無防備になるからと拒否したのに、根こそぎ持っていかれてしまった。
「デルスパニアが国境を超えることは無い。安全な国内に居るのだからつべこべ言うなと抑えつけておいて、貴国が進軍してきた途端に姿を消したのですぞ。何が栄えあるタムルク王国軍か。その上、籠城して時間を稼げとの命令一つで、援助も補給も何もない。我らに死ねと言うのか」
実は城壁の弓兵は志願した義勇兵で、州都の住民だと言う。州都さえ無事なら無駄な抗戦をする気は無いし、出来もしないとか。
そこまでぶっちゃけて良いのかと敵ながら心配になった。利敵行為として後でお咎めが来るんじゃなかろうか。見せしめになりかねないだろうに。
「我が都市に備蓄は残っておりませぬ。籠城したとて、餓死を待つのみ。助かるためには降伏も止む無し。貴国の騎士団の規律が高尚であるは、布陣の有様を見ているだけで良く解り申した。城門を開いたとて、略奪は起きますまい。元より反撃する力も無し。降伏条件の交渉材料さえないなら、無条件降伏に行きつくしかない。ならば、無駄な抵抗をするだけ損というもの」
うわあ。合理的と言えば合理的だけど、そこまで割り切れるものだろうか。
貴族の意地とか、栄光とか、色々柵が有るもんじゃないのか。貴族ははっきり損なんて口にしないと思うんだが。
「我が伯爵家は、長年にわたり王家にないがしろにされており申す。詳しくは言いませぬが、私自身、二人の子を国に殺されたようなもの。もう、タムルク王家に義理はございませぬ。この度の事で愛想が尽き果て申した。貴殿らが少数で交渉の場に出向いてこられたは、我らを信頼してのこと。ならば、我らも信頼をお返しするまで。出来る事ならば、占領したまま、デルスパニア王国に編入していただきたい」
伯爵の後ろに立つ側近たちが、うんうんと頷いている。壁際の護衛たちの中には、涙ぐんでる者までいる始末だ。
タムルク王家、どれだけ人望無いんだ。国境沿いの四州があっさり陥ちたのも納得か。
交渉の糸口を探るための会談だったけど、その日の内に無血開城まで進んでしまった。
これ、政略的にはどうなんだろう。
過ぎたるは及ばざるが如しって言葉が、頭をよぎった。
マウスが壊れました。いくら動かしても矢印が表示されない。お冨のパソコン、タッチパネルになる寸前の製品なので、キーボードでどうにかするしかない。シャットダウン一つにも四苦八苦しました。
新しいマウス、消音でタッチもソフト。あまりに手ごたえが無さすぎて、ついついダブルクリックを多用してしまいます。慣れるまでしばらくかかりそうです。
お星さまとブックマーク、ありがとうございます。終戦式典のネタに向けて、頑張ります。
 




