タムルク王国の誤算
ちょっと軍事より。書きたいシーンまでつなげるために、いっぱい説明入れました。
オスカー君、総司令部で全体眺めてます。総参謀長としては正しい姿?
「どういうことだ」
タムルク王国宰相、デーレン侯爵は報告書を持った手に力を込めた。くしゃりと皺がよる。
「デルスパニア王国軍は、国境を固めているだけではなかったのか。なぜ進軍してくる」
「は、国境を越えて来たのは、リタシンテ騎士団のみでございます。他の騎士団は国境より動く気配、ございませぬ。変わらず、国境を固めております」
軍服を着用した男は、タムルク王国軍の高官だった。細かい階級や役職は、文官であるデーレン宰相の知るところではない。
「ほう、一騎士団のみか。無論、撃退したのだろうな」
「い、いえ、迎撃を試みましたが、残念ながら、失敗いたしました」
見るからに冷や汗まみれの男を、デーレン宰相は冷ややかに見上げた。黙って先を促す。
「一騎士団と申しましても、デルスパニア王国の騎士団は一万人の兵力。我が国の三個師団に相当します。全軍をもってすれば撃破出来ましょうが、それでは、国境がガラ空きとなり、敗北は必至。そもそも兵力が違い過ぎます」
泣き言をわめくなと怒鳴りつける事が出来たら、どんなに良かっただろう。
デーレン宰相自身は、今回の出兵に反対だった。
そもそも国力が違う。デルスパニア王国は最も長い歴史と伝統を誇っている。王家は、天津箱舟の船長の末裔を公然と表明しているくらいだ。
自らを神の子孫と謳うのは彼の国のみだ。それを指して古臭い因習に凝り固まった国と侮った者たちは、現実が見えていない。
デルスパニア王国とトマーニケ帝国との紛争は、トマーニケ帝国の一方的優位に見えた。
攻め続けた帝国と、それを何とか凌いだ王国。帝国が国内事情により矛を収めなければ、今頃王国は敗北していただろうと。
実際は違う。キャンキャンと足元に絡みつく子犬を、王国が軽くあしらっただけのこと。王国軍はその気になれば、いつでも国境地帯の山地を超えて帝国に雪崩れ込むことが出来たのだ。
王国は他国に侵攻しないのではなく、侵攻できない。恐れるに足らず。疲弊して国力を落とした今が攻め時などと妄言を吐く輩のガス抜きをしたのが先年のこと。
威力偵察に送り出した部隊は、あっさり撃退されてすごすごと戻ってきた。
それで懲りておけば良かったものを、王国からの追撃が無かったことを言い立てて、今回の宣戦布告につなげたのだ。
デーレン宰相は、主戦派の重鎮と尻馬に乗って騒ぎ立てた馬鹿どもの顔を忌々し気に思い浮かべた。
政治情勢など無視して、辞職覚悟で宣戦布告を止めるべきだった。今となっては勝利は不可能、いかに少ない損害で上手く負けるかが問題だ。
「これは負けたな。速やかに停戦、いや、降伏の使者を送るべきか」
「お、お待ちください。まだまだ緒戦、わが軍は戦えます」
「戦って、勝てるのか」
軍の高官は、ぐっと押し黙った。
トマーニケ帝国でさえ、デルスパニア王国の三個騎士団相手に攻めきれなかったのだ。帝国より国力の劣るタムルク王国が、十個以上の騎士団を動員して来たデルスパニア王国に勝てる道理が無い。
それ以上に衝撃だったのは、デルスパニア王国軍は決して国境を越えず、守りに徹するはずだと言う前提が崩れたこと。
今は戦時中、国土防衛のための戦略を練り直す暇など与えてもらえる筈が無い。無いない尽くしだ。
重苦しい宰相執務室に、喧騒が近付いてきた。扉を護る警備兵が緊張を見せる。
「伝令、伝令、デルスパニア王国軍が大挙して侵攻してまいりました。昨日の時点で、国境沿いの三州が陥落しております。現在も進軍中」
デーレン宰相が、大きく目を見開いた。
『作戦完了。これよりカワルト騎士団は現地の慰撫に入る』
俺の腕に装着したスマホモドキから戦果報告が流れた。もう一々感動したりはしないけど、すごいよな、これ。
離れた場所と直接音声のやり取りができるなんて、軍事上のメリットは計り知れない。離れた部隊と連携が取れるし、各地の状況を瞬時に把握して、齟齬の無い命令を下せる。
スマホモドキを持っているのは、天津箱舟の関係者のみ。当然、侯爵以上の貴族の子弟で、各騎士団に一人はいる。それも高官だ。機密保持のため大っぴらには使えないけど、送信スイッチを入れたまま大声で怒鳴ればそれで伝わる。
受信時は、振動で合図がある。髪を掻き揚げるしぐさでもして、スマホモドキを耳元に寄せればそれで良い。
現状我が軍は、騎士団ごとに軍事の要衝や城塞都市を包囲して降伏を促している。
その周囲に広がる農村地帯が物資の供出で疲弊してたので、占領し次第物資を配っている。
本当にタムルク王国は自国民のことをどう考えているのか。焦土作戦は有りだが、それなら現地の民を避難させるのが当たり前だろう。
餓えた子供たちを見た時は、こんな惨状を放置した奴らに殺意を覚えた。
普通なら、我が軍は未曽有の危機に陥っている筈だ。そもそも大軍過ぎて補給が覚束ないのに、敵国の民から略奪しないどころか、逆に援助しているんだから。
実際は、本国から続々と段ボール箱の山が届いて途切れる気配が無い。各騎士団の工兵が協力して、タムルク国内に運搬用の街道を整備しないと間に合わないほどだ。
これが物量作戦ってやつなんだな。
早いとこ決着がついて欲しいけど、終戦の気配はまだ無い。
娘が久しぶりに帰省してきました。コロナで、お盆も年末年始も見送りだったからなぁ。今夜はご馳走です。
スーパーの鮮魚売り場のお寿司、下手な回転寿司よりずっとネタが大きくて新鮮なんだ。おいしくない筈がないっしょ(笑)
もともと地元は魚所なので、「スーパーの」と条件付けると、日本一おいしいお刺身が食べられます。異論は認めます(笑)
お星さまとブックマーク、ありがとうございます。今朝、総合評価が24000でした。わーい、キリバンだ。皆様のお陰です。




