軍需は産業革命の夢を見るか
タイトルの元ネタ、解りますか。ヒントは古典的名作SFの邦題です。
いよいよ社会変革が始まります。君主とそれを取り巻く高位貴族、その両者がタッグを組んで平民の地位の底上げするなんて、普通は有り得ない事態です。
フランス革命は、王家の権威失墜を狙った貴族の離反が直接の切っ掛けだったとか。
ミリアちゃん、頑張って(笑)
「これより改革を開始する」
デルスパニア王国国王の宣言は、静かになされた。
王宮に集まったのは、王族、公爵家と侯爵家の当主、王国政府の高官、そして国軍の首脳部。
「タムルク王国からの宣戦布告の使者は、すでに王都を出立している。近日中に我が国との国境検問所に到着予定だ。その場で宣戦書を受け取り次第、直ちに戦闘態勢に入ってくれ。戦闘の推移に関しては、軍部に一任する。損害を抑えながら格の違いを見せつけること、改革のための時間的余裕が作れる程度に長引かせること、その二つだけ守ってくれれば、後は好きにして良い」
「御意」
国軍の制服組がそろって頭を下げた。
「軍需物資の確保の名目で、大量生産の枠組みを作る。産業リストは告知した通りだ。各家に得手不得手が有るだろうし、複数の家がかぶっても構わない。ただし、抜けが無いよう調整してくれ。従業員募集については、雇用条件を公表の上厳守すること。間違っても奴隷労働にはするなよ。ここでの働き方がこれからの基準になるのだからな」
「御意」
今度は当主がそろって腰を折った。
「軌道に乗れば、伯爵家や中位貴族が真似を始めるだろう。必ず常軌を逸した行いが出てくる。そこを咎めて、労働基準法の制定に道筋をつける。それと、貧富の格差に注視してくれ。頭を抑えるのではなく、底辺の底上げで均衡を図る。特に兵士の遺族には金銭授与より職業斡旋を優先するように。忙しくなるのはまだ先だが、心構えはしておいてくれ」
「御意」
政府の高官が厳しい顔で頭を下げた。
「最後に。船長閣下からご提案があった。民の意識改革と改革の周知徹底のための広報活動についてだ」
国王が船長閣下と口にした瞬間、ザワリと謁見の間が揺れた。
「定期的に発行物を流布する。安価である程度の強度を持った紙が必要となる。製紙業を任せられた家は、船長閣下の要望にお応えできるよう、最善を尽くせ。必要となるインクの生産についても同じく。高速印刷については、船長閣下が印刷機を神器として召喚される手はずだ。実際の印刷、流通経路の確保、その他の調整は、カース公爵、その方に任せる」
カース公爵家は、かつて天津箱舟で広報と情報統制を担当していた家柄だ。船長閣下のご要望を直接受けるに相応しいと認めざるを得ない。
周囲の羨望を浴びながら、カース公爵は頬を紅潮させた。
「御意。微力を尽くします」
「よろしい。各家で調整の上、行動を開始せよ。我らは歴史の転換点に立っている。その自覚を持ち、船長閣下に我らの働きをお見せするのだ。見苦しい足の引っ張り合いは無用、解散!」
謁見の間に、貴族らしからぬ雄叫びが響き渡った。
こんにちは、ミリア・ランドールです。只今絶賛修羅場中。
別に暴力沙汰じゃないよ。愁嘆場でもないし。じゃあ何かって。
原稿の締め切り前なんですよ。
人間、知らないことは想像できない。考え付かないとも言う。平民が社会の上層部に切り込むなんて、そんな異常行動、起こそうと思う筈がない。
それじゃあ、封建社会を改革できない。どうにかできないかと国王陛下から御下問いただきました。
そこで提案したのが、日本の誇るサブカルチャー。漫画、コミック、同人誌の世界。
どんな荒唐無稽なストーリーでも、創作物としてなら受け入れられるはず。小説よりも、コミックの方が理解しやすいはず。ベストセラーになれば、共通認識だって作れちゃう。
某世界的ベストセラーの主人公の生い立ちや得意技、下手な現実の有名人より知名度高かったんじゃないかな。
初めは一コマの風刺漫画から初めて、壁新聞みたいに神殿に張り出した。神殿はコンビニ並みに普及してるし、国の出先機関だからね。
次に四コマ漫画でストーリー性を理解してもらった。
満を持して送るのが、ストーリー漫画。昭和に登場した劇画ってやつです。
内容は孤児の立身出世物語。受け入れやすいように貴種流離譚にしてあるけど、平民を取り巻く状況や利用できる社会制度なんかは思いっきりリアルに描いてる。
特に社会制度。その気になれば誰でも利用できますよと広報しているわけ。
まあ、ご都合主義で、的確にアドバイス受けられたり、パトロンが現れたりするよ。そうでないとストーリー進まないし。
孤児の主人公、教育を受けられなくて卒業試験落第。借金背負いながら教育機関に放り込まれてそこで覚醒。将来の借金を物ともせず、卒業試験全問正解するまで勉強を続け、貴族学園への特待生入学を決めたとさ。
現実だったら、突っ込みどころだらけだよ。
まず、孤児院は国か領主が管理しているから、きちんと読み書き教えてて、十二歳の卒業試験くらい楽勝のはず。落第するのは家庭教育をおろそかにしてた一般家庭の子だ。
落第して教育機関に放り込まれたら、授業料を減らすために最短期間で卒業を目指すのが常識。全問正解まで粘るなんて、奇人変人の類。
大学卒業したのに、別の大学の別の学部に入りなおして勉強続けるって、そんな人いるのかって話。
まあ、文学部卒業してから医学部に入りなおした人覚えてるし、いなくは無いんだけど、全部の学部を制覇するまで続けるなんてあり得ないでしょ。
その不自然さを、創作物という免罪符で誤魔化してるんだけど。
貴族学園での学園物、卒業してからの立身出世、どこまで読者様を引っ張って行けるか。
プロにはなれなかったけど、これでも同人サークルでコミケに一回だけ参加したこと有るんだ。原稿に妥協はない。
天津箱舟のコンピューターのデータの切り貼りだらけって批判は甘んじて受ける。私は私の最善を尽くすだけ。
貴族学園への平民の進学率、ちゃんと上がると良いな。
おーい、オスカー君、どこ行ったー(;^_^A
ここから始まる斜め上ストーリー、お楽しみいただければ幸いです。
昨日、ブックマークが4999でした。おお、5000の大台目前です。
お星さまとブックマーク、ありがとうございます。




