閑話 前デイネルス侯爵
コロナワクチン四回目を受けました。ヘロヘロになって変なテンションで、スピンオフに手を出しちゃいました。シリーズものです。
目次のタイトルの上からシリーズに飛べますので、覗いてみてください。
今日、エリザベス女王陛下の国葬です。NHKの中継でしっかり見ようと思います。推測で40億人が視聴するのではないかと言われています。これも、歴史のひとコマになっていくんでしょうね。
私はタムスカル・デイネルス。デイネルス侯爵家の家督を一人娘に譲り、妻と二人、悠々自適の生活を送る隠居の身だ。中央を引退して久しい。デイネルス侯爵領の保養所に建てた別邸で、静かに暮らしている。
そんな私に王家からの使者が来たのは、五年ぶりだった。
「直ちに登城いただけますよう、要請いたします」
ほう、この老骨を呼び出すか。王は本気のようだ。
あの坊やが成長したものだ。どれ、一肌脱ぐか。
王宮にデイネルス侯爵家の馬車が着いた。最も格の高い公用馬車と呼ばれるものだ。八頭立てで、漆黒の車体に、黄金で装飾された侯爵家の紋章が煌めいている。
降り立ったのは元軍務大臣、先代のデイネルス侯爵。杖をついてはいるが眼光鋭く、出迎えた近衛騎士たちは覚えず一斉に背筋を伸ばした。
国王執務室には、現軍務大臣である王弟殿下と、若手の第三宰相エザール・デイネルスが待ち構えていた。
「前侯爵、タムスカル・デイネルス、御前に参じましてございます」
「楽にせよ。タムスカル卿、よく来てくれた。卿の力を借りたい」
「勿体ないお言葉、陛下の御ために粉骨砕身する所存。いかようにもお使いください」
儀礼的な挨拶を交わした後、一同は休憩室へと席を移した。遠慮なくやり取りするための舞台裏だ。
「それで、私を呼び出すとは戦をするつもりか」
「ええ、そうですよ、タムスカル卿。色々シミュレートしたんですが、それが一番だと結論が出ました」
そろそろ壮年にさしかかる国王だが、一世代上の大御所には、まだまだ頭が上がらない。
それが分かっているから、あえて若手に譲って一線を退いた者が多数居る。いざとなれば口も手も出してくる親戚のオジサンが、どっさり居るのがデルスパニア王国の中枢だ。
「船長閣下のお力を持って、天津箱舟の権能が解放されました。乗員登録方法も判明しました。もう、無理な血統保持の必要は無い。封建社会を維持するために社会の発展を阻害する必要が消えたのです。通信と交通のインフラを整備するだけで、劇的な進歩が起きますよ」
情報伝達に時間がかかるからこそ、地方領主に権限を持たせて対処を任せる。広大な国土を間接統治するのが封建社会だ。通信手段が発達しなければ、中央集権は実現しない。
「目指すは市民社会ですが、流血の惨事は避けます。理想は無血革命ですね。少しずつじわじわと変化を進めて、気が付いたら親の世代とは常識が様変わりしていたというふうに持っていきたい」
それでも変化の最初の一歩は必要だ。平穏な日常に波風立てたい者はそう居ない。変化をやむなしと受け入れるには、非日常の衝撃が要る。たとえば、戦争のような。
「他国にちょっかい出されるのもうっとうしいですしね、トマーニケ帝国との紛争で受け身に回り過ぎたようで、舐められている。ここらで力を見せて周辺国を黙らせたい。それに、船長閣下の父君に戦功を稼がせたい。どれだけ才能が有っても使えなければ意味が無いのが軍才ですから」
タムスカル卿がゆっくり頷いた。
「なるほど。考えておるな。それで良いかな、婿殿」
声を掛けられた現デイネルス侯爵が、苦い顔で頷き返した。
「弟は迷惑がるでしょうけどね。それでも、それが最善と認めます。だらだらと紛争が続くより、短期決戦で結果を出した方が被害は少ない。弟なら、最小の損失で結果を出すでしょう」
「ほう、信頼しておるのだな。では、実務に掛かるとするか。終戦の落し所はどうする」
ご老体の言葉に応えたのは、現軍務大臣。用意した資料を広げて、説明を始めた。専門用語が飛び交い、戦略が練られていく。
オスカー・ランドールが軍務に復帰する一月前の出来事である。
オスカー君が軍務に復帰した途端に開戦したんじゃなくて、復帰するまで開戦を遅らせていました。
タムスカル卿、婿殿のことはまあまあ認めています。まさか船長閣下と親戚になるとは思っていなかったので困惑しましたが、それを表情に出したりはしません。でも、リアーチェ義姉様が出産したら、孫にデレデレになる予定です(笑)
お星さまとブックマーク、ありがとうございます。先週、久々に日間総合ランキングに載ったので、物凄くポイントいただきました。感謝いたします。
ただ、日間ランキングに残っていた間感想を頂けなかったのは何故でしょうか。不思議です。




