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お引越し

 大きな邸宅、観賞用には大きければ大きいほど良いけれど、実際に住むとなると持て余しますよね。

 分相応というのは、良い言葉だと思います。

 物件内覧会の結果、候補は二つに絞られた。


 一つは貴族街の端っこで、徒歩で平民街へ出かけられる。斡旋された邸宅の中で一番新しくて、間取りも便利。

「すぐそばに市場が有ってね、買い物にとっても便利なの。平民街の方が安くて新鮮な野菜手に入るのよ。貴族街のお店はそりゃ高級品がそろってるけど、輸入物だったりしてちっとも新鮮じゃないもの。買い物するなら平民街よ」

 納得の理由だけど、ニーナ、普通の伯爵夫人は自分で買い物に出かけたりしないよ。使用人任せだから、買い物の便はそう考えなくても良いんじゃないかな。


「じゃあ、裏庭の隅っこに家庭菜園作って良い? 趣味の範囲にしておくから。朝採り野菜が一番新鮮だし」

 ここは王都だから、実利より見栄優先にしないと不味いんじゃないかな。どうだろ、キャサリン義姉さん。


「温室を(あつら)えたらいかがかしら。目隠しになるし、花を育てることは貴婦人の趣味として有りですわ。ただ、本人は指示を出すだけで、作業は庭師の職分になりますけれど。作るのが花か野菜かは、わざわざ言わなければ分かりませんから」


 庭師が作る家庭菜園。ちょっとどころでなく違和感有りまくりです。



 もう一つの候補。これは侯爵家と伯爵家の区画の境目にある。道一つ隔てた先が、広大な敷地を囲む高い塀だ。王城の正門に続く大通りにも近い。

 年季の入った建物で、重厚で歴史を感じさせるし、広さもなかなかのもの。そのくせ内装はリフォームずみで、明るくて新築同然。侯爵家には及ばなくても、伯爵家の邸宅としては最高ランクだ。


「望んで手に入るものではありませんわ。これだけの邸宅が手に入るなんて、千載一遇の機会(チャンス)ですわよ。それに、伯爵家の区画の端ですから、王城への出入りが目立たないという利点があります。出仕の度に貴族街を横断すれば、嫌でも目立ちますもの」


「こっちはいかにもな貴族のお屋敷ね。これだけ広いと掃除も大変だし、使用人を大勢雇わなきゃ手が回らないわ。維持費、どれぐらい掛かるかしら」



 メリットとデメリットが見事に正反対な二軒。ニーナは平民街寄りが良いかと思ったんだけど、自分で買い物できないなら(こだわ)る必要はないそうで。


「あなたと子供たちに都合の良い方を選べば良いわよ。王家やデイネルス侯爵家と距離を取りたくても無理なんでしょう。だったら、こっちで良いんじゃない。大は小を兼ねるわ。維持費を節約したいなら、使わない部屋は閉めちゃえば良いんだし」


 現実的な意見をありがとう、ニーナ。俺は維持費を稼げるよう、頑張るよ。本当に維持費っていくら掛かるんだか。


 王家に申し出て、正式に我が家名義になったのは半月後だった。いざ引っ越しとなったら、家具は全て備え付けられていた。王家が先頭になって調整したとか。


 ありがたいけど、統制力を無駄に使ってませんかね。

 




 私はミリア・ランドール。王国公認の聖女です。この度、王家から王都の邸宅を下賜していただくことになりました。

 で、祝いの品をどう調整すればいいかと、国王陛下から下問いただいたんだよね。


「近衛騎士を輩出できなかった家の者が、船長閣下に寄進する機会を逃してなるものかと張り切ってしまってな。無駄に財力の有る家ばかりで、収拾がつかなくなりそうなのだ。ダブりまくって使ってもらえない家具を送っても仕方なかろうと宥めたのだが、それなら王家で調整してくれと下駄を預けられてしまった」


 備品リストを一覧表にして先着順で立候補してもらう方法は、前世で檀家のお寺の新築の時に経験してた。

 お寺用の巨大な木魚とか、お釜のようなサイズのおりんとか、そりゃもう家庭用の仏壇の仏具とは桁が二つ違うほど高かった。

 (うち)は分相応に座布団を何枚か寄進したけど、それでも痛い臨時出費だったと覚えてる。


 いくら高級家具でも、統一感無視したらちぐはぐになってしまう。なので、部屋ごとにインテリアを任せた。あとは、厨房の調理器具一式とか、前庭の庭木全部とか、廊下の絨毯を階ごとにとか。

 なんとか申し出て来た家全てに割り振れたけど、本当に大変だった。


 行政府高官とか伯爵家とか、出遅れながらも祝いの品を送りたいと言ってきた家には、資金を出し合ってもらって馬と馬車を用意してもらった。ついでに厩舎の新築も。

 不足分は王家が出したことになっているけど、実際はおつりが出ちゃったんだよね。


「誰が幾ら出したかは公表しない。余剰金は聖女活動の資金にするから無駄にはならん。誰も損をしないから、丸く治まって重畳、重畳」






 陛下、悪い笑顔になってますよ。これが清濁併せ呑むってやつですか。なんか違うような気がするんですけど。





 備品リスト、新築祝いに活用するのがメジャーな国も有るんだそうです。お値段も合わせて表示するけど、誰が何を送ったかはシークレット(笑)なかなかに合理的です。


 お星さまとブックマーク、ありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
[一言] そういや馬車にサスペンションとかの振動軽減装置の類い憑いてるんだろうか? 無かったら『船』に聞けばいいだけのような気もするが
[一言] 恩を受け取ってあげるキャパシティの限界! 期待値高いですね。
[良い点] 更新お疲れ様です。 [一言] アメリカやドイツなら民族的にリストとか作りそう(偏見ありまくり)。
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