村に着きました
やっと村に着きました。タイトルそのままです(笑)
次話と整合性を取るために書き足ししました。
印刷したらそれまでの同人誌と違って、後から推敲できる投稿小説は便利ですね(笑)
村へ続く道は、山の中腹辺りで向きを変えた。平野を左側に見ながら山沿いに進んで行く。そのうち、木々に目隠しされるように平野が見えなくなった。
石ころだらけの道の両脇は雑草に侵略され気味で、かろうじて荷馬車のわだちが続いている。
「平野に降りる道は無いんだな」
「うーん、どうだろ。人が通れる獣道くらいなら有ると思うけど。荷車通せる道はこれだけかもね」
だろうな。
王家から示された資料によると、この先に岩塩の露出した崖がある。露天掘りで産出する岩塩は、申し訳程度の量を馬の背に乗せて、獣道を細々と運ばれていたそうだ。
今歩いている私道が出来たのは、なんと、俺が関係していた。
俺はデイネルス侯爵家からのお声掛かりでツオーネ男爵家に婿入りしたわけだが、婚姻の祝儀として王家が作ってくれたんだとか。全然知らなかった。
「だろうねぇ。この道できたの、オスカーがランドール子爵になった後だから。知らなくて当たり前でしょ」
へ。それって遅すぎないか。既に結婚祝いじゃないよな。
「予算だけは付いてたけど、ずっと後回しにされてる内に忘れられちゃってたんだよねぇ。お役所仕事だし。塩って戦略物資だから、戦争になって慌てて道造ったんだよ。予算付いてて幸運だったよね」
荷車を通せるようになって岩塩の産出量が増え、仮設の宿営地に定住する者が現れて、開拓村に発展したそうな。
そうなると零細な行商人が開拓村まで足を運ぶようになり、ツオーネ村を訪れる商人の数も三倍に増えたとか。
でもなぁ。道を作るのは大変だって解るし、たかが男爵家の婚姻だからそんなに豪華にならないのも当然だろうけどさ。王家の作った道としてはショボ過ぎないか。
「そりゃ、非公式の祝儀だからね。デイネルス侯爵家に第三王子が婿入りできなくなったお詫びの余禄だから。オスカーの婿入り先がデイネルス侯爵家の寄り子だったら、侯爵家の手回しでもっと豪勢になってたよ」
「いや無理だって。遠すぎるから。もう一つの候補だった家はデイネルス侯爵領の向こう側、ずっと北の端だったし」
ツオーネ家を選んだのは、ぶっちゃけ、ランドール子爵領と道が繋がっていたからだ。お見合いしてみたら、ニーナは可愛いし義父上と義母上は温厚で頼りになりそうだし、即決だったけどさ。
テイラムと突っ込んだ雑談をしながら馬を進めて二時間余り。ようやく村が見えてきた。
「先触れをして参ります」
先導していたグレーン卿が、一言言い置いて駆けだした。さすが近衛騎士、ほれぼれするような騎乗姿だ。
家は全て木造。山の中だし、木材が一番手に入り易いんだろう。丸太を使ったログハウスが並んでる。簡素な造りだけど、古びた家は無い。
出来たばかりの開拓村だし、新しくて当たり前か。
出迎えてくれた村人は、男ばかり百人ほどだった。子供と老人は居ない。明らかにこちらを警戒しているのが見て取れた。
一人の男が前に出てきた。見るからに肉体労働者だ。がっしりしているが、戦闘職の軍人とは筋肉の付き方が違う。
「お初にお目に掛かりやす。新しい領主様とお聞きしやしたが、あっしがここのまとめ役をしとります。ジャンと呼んで下せえ」
ペコリと頭を下げられて、話が通じそうで安心した。
「こちらこそ初めまして。新米伯爵のオスカー・ランドールと言います。元は子爵家三男で、隣のツオーネ男爵家に婿養子に入りました。色々あって実家のランドール子爵家を継いでいたんですが、伯爵に陞爵することになりました。この山と麓の平野がランドール伯爵領に成ります。一から開発することになるので、色々とご協力願います」
始めが肝心。しっかり頭を下げて、開拓の先輩方に挨拶した。
後で、ジャンに愚痴られた。ちっとも高位貴族らしくないし、腰が低すぎてどう相手して良いか分からなかったと。
グレーン卿には呆れられたし、テイラムには俺らしいと爆笑されたけど、まあ、良いじゃないか。
今まで領主不在だった村人の皆さん。どんな領主が来るのか、戦々恐々としてました。
近衛騎士の方々は、始めが肝心、舐められないように威厳を見せつけるべきと考えていました。
オスカー君、始めが肝心と行動して……。まあ、オスカー君ですから(笑)
お星さまとブックマーク、ありがとうございます。開拓村の現状と要望は次の機会に。




