懐かしの我が家
遅くなりました。来週も土曜出勤なので週末の更新は一回になりそうです。
コロナが第七波になって猛威を振るっています。基本的な感染対策で自衛するしかないのがもどかしいです。
ランドール子爵領は、王都の南、馬車で一日の距離にある。馬を走らせれば半日だ。一度戻るために、テイラムと二人、王都を出た。
後ろから近衛騎士が数名距離を取って付いて来ているけど、好きにしてもらっている。断るのは、もう諦めた。
バルトコル伯爵絡みのゴタゴタで、家族そろって王都に出て来てもらってからまだ二月しかたってないのが嘘みたいだ。一足先に帰っている両親には何度か手紙を出しておいたけど、多分、信じられないだろうな。
俺だって全部夢じゃないだろうかと、いや、夢であって欲しいと思ってるし。
ウチの領地は、ごく普通の地方貴族領だ。中心になる地方都市一つと、村が三つ。定住している領民はざっと五万人くらいか。
王都と国の南部地方を結ぶ主要街道から枝分かれした街道沿いで、交通の便は良くはないが悪くも無い。
主要産業は農業で、半分は小麦、残りの半分は雑多な作物を作ってる。特産品と呼べるものは無い。周囲の領地も似たようなものだから、近隣との交易は低調で、ほぼ自給自足状態だ。
街道を使う商人は、大規模商隊から個人の行商人まで様々。行きがけに領都の商店と商売してくれるので、店頭の品ぞろえは必要十分。本当に必要なものが有れば、わざわざ王都まで出向かなくても取り寄せられる。
上流貴族になると、自前の商隊を組織して手広く商売したりするんだけど。伯爵に成ったってことは、ランドール家も考えなきゃいけないんだろうなぁ。今から頭が痛い。
普通、陞爵する時は事前に打診があり、事細かに話し合って詳細を詰めるものだそうだ。当然、要望を聞いてもらえるし、条件闘争じみた駆け引きだって有るらしい。
貴族院にはそんな記録が山ほどあると、テイラムが言っていた。いきなり陛下に宣言された俺は、例外中の例外だ。
両親にどう説明しようか。俺の方が説明して欲しいってのに。
「わざわざ帰ってこなくても、呼び出してくれれば王都まで出向いたが」
「いや、俺が帰りたかったんだよ父さん。王都に居ると、見知らぬ貴族の方々が押し掛けて来るんだ。気の休まる暇が無くてさ」
本当に大変だった。王宮の廊下を歩くと十歩ごとに呼び止められるし、兄貴の所へ行くと、デイネルス侯爵邸の門前に、面会希望の使者の行列ができていた。
俺は社交なんてまともにしたことが無い。軍務で手いっぱいで、父さんと兄貴、それにテイラムに丸投げしてきた。そのツケがいっぺんに回って来たらしい。
「それに、伯爵への陞爵について自分の口から説明したかったし」
「その、……やっぱり、本当なんだな」
「本当なんだ。残念なことに」
俺は父さんと二人して、溜息をついた。
「では、改めて説明させていただきますね。手元の資料をご覧ください」
テイラムが真面目な口調で説明を始めた。俺が大佐バージョンと呼んでる、テイラムの仕事モードだ。
「まず、現在のランドール子爵領は、ランドール伯爵家の従属爵位として子爵位がそのまま安堵されます。ただ、伯爵位と差別化するため、名称変更となります。新しい名称については、近日中に貴族院まで申請してください」
言いながら、テイラムがテーブルの上にガサガサと地図を広げた。
「新しいランドール伯爵領は、地図のこの辺り、赤い線で囲ったところです。ちなみに隣接する青い線が、ツオーネ男爵領ですよ。御存じだと思いますが、正直、辺境のど田舎、広さだけは伯爵領に相応しいですが、現状、村が二つあるだけ。人口は、千人は超えているでしょうが五千人には届かないでしょうね」
そうなんだよ。正直、罰ゲームじゃないかと言いたいくらい、不良物件なんだ。一応、街道につながる道は有るけど、そのどん詰まり。領地より先は未開の地しかない。
「ま、これだけ条件が悪いと、どこからも嫉妬される心配は無いでしょう。新規開拓の必要は有りません。あくまで伯爵位に付随する名目ですから。王家がランドール家に求めているのは、聖女ミリア様の祝福と、オスカー卿の軍での活躍です。領地経営の失敗を咎められる心配は無用ですので、ご安心ください」
そうか安心だね、なんて言える訳ないだろう。いったい王家は何考えてるんだ。
王家の無茶振りは今に始まったことではありません。現在の子爵領より圧倒的に劣る伯爵領の意味は。
次回、こじつけと辻褄合わせのお冨の手腕、とくと御覧じろ(笑)
お星さまとブックマーク、ありがとうございます。やっとこ始まった伯爵編、頑張りす。




