パーティーは続く
遠い未来から見たら、ディスコダンスやブレイクダンスだって、格式高い伝統のダンスになるかも。
ミリアちゃん、ようやくピアノが神器扱いされるレア物と理解したようです(笑)
荘厳な楽の音が途絶えると、咳き一つ無い静寂が訪れた。耳元で鳴り続ける怒涛の楽の音の余韻が、居並ぶ参加者たちを圧倒して身動き一つ許さない。
分かる。分かるよ。予行演習で初めて聞いた時は、陛下も近衛騎士の皆様も硬直なさってたから。俺だって我に返るまで随分時間かかったし。ミリア曰く、とても人気のあった誰もが知っていた曲らしいけど。
そんな沈黙の中、ミリアが入り口に向き直って声を上げた。
「お願いします」
カラコロと聞き慣れない音がして、入り口から黒い物体が近衛騎士の皆様に運ばれてきた。直線と曲線が合体した特徴的なフォルムのテーブルみたいな物。
ミリアが近衛騎士団の休憩室に召喚した神器だ。確かグランドピアノだったか。
人垣が割れて部屋の中央にできたスペースに、神器が滑り込んだ。
歩み寄ったミリアが、ばかりと神器の黒い天板を持ち上げた。その内部からつっかえ棒を取り出して、天板を支える。
ミリアの予想のつかない動きに、観衆は無言で見つめることしかできない。
一人の騎士がシンプルな一人用の椅子を抱えて来た。神器の直線部分の前に置くと、ミリアに一礼して下がった。
ミリアが椅子に座り、宝石箱の蓋を開けるように手元を持ち上げて……。
久々のコンサート、頑張っちゃった。
ふふふ、大好きで良く弾いていた私の十八番。ベートーヴェン作曲、『エリーゼのために』
難しいは難しいけど、初心者を卒業したら練習次第で弾けるようになるメジャーな曲だし、間違えたって、誰にもバレないから大丈夫。指が思うように動くまで練習大変だったけど、甲斐は有りました。
王宮のお披露目パーティーと聞いて、私が初めにイメージしたのは舞踏会。優雅にワルツとか社交ダンスを踊るのが乙女ゲームのテンプレじゃない。
用意してもらったドレスだっていかにもなキラキラフリフリで、ベルサイユ宮殿にバラが咲いてた昭和の漫画をイメージしてたんだけど。
そもそも、音楽事情がショボ過ぎて、社交ダンスが存在していませんでした。そりゃ舞踏会だって存在しませんよね。
政治的な思惑は国王陛下にお任せです。成り行き船長の十二歳に期待されても困るから。
そう思っていたら、国王陛下から他国に聖女を印象付けたいとリクエスト受けたので、音楽で勝負することにしました。
御神託は神代古語だし、何言っているか理解できないでしょ。音楽なら感覚的に理解できるし、録音技術が無いと、その場限りの生演奏。
その場限りって良いよね。神秘性を高められるし、後腐れが無くて好都合。ついでにピアノのお披露目も出来て一石二鳥。
ピアノは鍵盤を押しさえすればちゃんと音が出るから、初心者向け。そのくせ芸術性を追求したらキリがない奥深さ。私一押しの楽器です。
中世の技術でも作れるはずだし、職人さんを育成すれば普及できるよね。天津箱舟に保存された人類の叡智を伝えるテストケースにぴったりじゃん。
ミリアの演奏が終わった。拍手喝采の中で、立ち上がったミリアが一礼する。
すごいぞミリア。父さん、鼻が高いよ。俺の自慢の娘だ。
この上なく幸せな気分だったのに。
国王陛下、何故ぶち壊して下さったんですか。
「オスカー・ランドール子爵。我が国に聖女をもたらした功により、その方を伯爵に陞爵する」
不意打ちが過ぎます。俺は何も聞かされてませんよ!
オスカー君、バルトコル伯爵にならずに済んだと思ってたら、ランドール伯爵になる羽目に。
コンサート用のグランドピアノ、成人男性数人で押して移動させます。体を鍛えている近衛騎士なら楽勝でしょう。
お星さまとブックマーク、ありがとうございます。今日は参院選開票特番見ながら書いてました。




