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外交官は驚愕する

 昨日、安部元首相が死亡されました。ご冥福をお祈り申し上げます。


 本当に現代日本で起きた事件なんでしょうか。

 私はトマーニケ帝国にて伯爵位を賜っているグローブーナ家の当主、マニノ・グローブーナだ。

 長年、外交官としてデルスパニア王国との折衝役を務めてきた。その実績を評価していただき、皇帝陛下直々に勅命を受けた。デルスパニア王国からの招待に応じ、派遣されて来たのだ。




 近年のデルスパニア王国との外交環境は最悪だった。国境付近で発見された銀鉱脈に帝国内の有象無象が群がり、そこに皇室内の派閥争いが重なって、戦争に発展してしまった。

 なんという愚かしさ。外交の「が」の字も知らぬ素人どもが。

 王国と共同開発の協定を結び、有利な条件で銀を手に入れれば良かったのだ。戦争のせいで銀鉱脈は棚ざらしのまま、調査の目途さえ立たぬ有様ではないか。


 先帝陛下崩御の知らせを受けた時、私は帝国の滅亡を覚悟したものだ。

 継承戦争待ったなし、内乱で荒れた帝国にデルスパニア王国が総攻撃を仕掛けてきたら、良くて属国、悪ければ属州、トマーニケの地名を残せれば上出来だろうと。

 帝国とうたってはいるが、国力はデルスパニア王国がはるかに上。領土は三倍、人口は十倍の差がある。当時第三皇子であらせられた皇帝陛下が停戦協定を結んで下さらなければ、今頃どうなっていたことか。


 

 当時の軍務卿と、私の上司だった外務卿はともに失脚。皇帝陛下が即位後すぐに指名された現在の外務卿は、悪い方ではないが経験不足は否めず、実務を担当する我々に頼り切りというのが正直なところだ。

 分かっている。爵位不足の我々が自由に動けるよう、壁役の上司を()えて下さったのだと。

 今回の派遣も、デルスパニア王国との関係改善の可能性を(さぐ)るものだ。責任重大、身が引き締まる。


 デルスパニア王国の狙いが何なのかは、はっきりしていない。

 元々、天津箱舟だの天津神の子孫だの、古臭いおとぎ話を国是としている王国だが、そんな建前を真剣に振りかざす国ではなかった。あくまで神話は神話として、現実を見据えた政策を執ってきた国だ。

 それが今回、聖女様のお披露目をすると言う。


 小競り合いを繰り返している周辺諸国から使者を集めて何を企てているのか。それを探るのも任務の内だ。他国の動向にも目を光らせなければならない。

 ついでに名目である聖女様とやらについて事前情報を集めようとしたのだが。


 おかしい。情報が無い。聖女というのだから女性に違いないのだろうが、それ以上は何も分からない。氏名、年齢、身分、経歴、全て不明だ。

 ただの名目ならそれで良い。何か裏があるなら、どうせお披露目するのにここまで秘匿する意味が分からない。


 もやもやしたものを抱えて、私はお披露目当日を迎えることになった。




 違和感は、パーティー会場の入り口で始まった。

 一人の男が公爵家から特別扱いを受けていた。それも一家や二家ではない。すべての公爵家当主とその令夫人から親しげに挨拶されていたのだ。

 これでもトマーニケ帝国を代表する外交官、隣国の王族や重要人物は全て押さえている。なのに心当たりが無い。

 あれはいったい誰だ。


「大使、軍服ではないので確証は持てませんが、彼はオスカー・ランドール中将ではないでしょうか」

 外交武官として同行している護衛役の大佐が進言してきた。誰だそれは。

「先の戦争で帝国に苦渋を飲ませた人物です。軍部で知らぬ者はおりません」

 おかしいだろう、それは。王国軍の指揮官や参謀の名前は重要人物としてしっかり覚えているぞ。ランドール中将など、聞いたことが無い。


「彼は影の立役者です。我が帝国軍の動きをことごとく読み、行く先々に補給物資の山を築いた男です。戦後の調査で、王国騎士団でさえ驚いていたと判明しております」

 何だって。

「補給不足を恐れる必要のない軍など、フリーハンドにも程がある。一軍の指揮官より、彼一人の方が帝国軍に与えた損害は大きいかと」

 大佐の表情は驚くほど真剣だった。


 そんな話は初めて聞いた。何故、それほど重要な情報が政府に上がってこないのだ。上がってきたら、私が知らない筈はない。

「補給の重要性を肌身に染みて知っているのは現場ですから。文官の閣下が御存じなくても無理はないでしょう」

 当てこすりか、それは。





「コンピューター、祝福を。壮大で明るいミュージックをお願いします」


 聖女だと紹介された少女が神に祈りを捧げると、荘厳な楽が鳴り響いた。 

 音の洪水だった。圧倒された。

 まごうことなく神の御業、聖女様が本物であると否応なく理解させられた。






 デルスパニア王国は聖女を得た。トマーニケ帝国はどう対応するのが正解なのだ。

 敵対は論外。すぐにでも関係改善を進めねば。








 他者視点です。マニノ・グローブーナ伯爵、貴族っぽさが表現できていると良いな。ついでに中間管理職っぽさも(笑)

 皇帝の勅命でデルスパニア王国に派遣される人物ですから、基準をクリアする能力は有ります。文官なので、どうしても軍人とは隔意が。何気にフルネーム出たので、これからも出番が有りそうです。



 お星さまとブックマーク、ありがとうございます。今日は短時間の土砂降りの雨音を聞きながら書いてました。お隣の市では道路の冠水も。地球温暖化の影響でしょうか。


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― 新着の感想 ―
[一言] 強引に陞爵ぶっ込んでくるの草 拝領地どうするんやろ 差し替えるのか飛び地で加増するのか それとも年金積み増すのか
[一言] 後方支援の重要性知ってる人達からしたら 垂涎の人材よねえ、もしくは開戦前の暗殺対象
[気になる点] 天津箱舟や天津神が他国では既に忘れられておとぎ話になってるのか。一体、他国はどうやって成立したんだろう。
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