ミリアちゃんの船長権限
ちょこっと長くなりました。ミリアちゃん視点の薀蓄話です。
私はミリア・ランドール。子爵令嬢にして、国家が認めた初代聖女。元日本人の転生者で、成り行きで天津箱舟の船長に納まっています。
神話に出て来る天津箱舟、その正体は恒星間移民用宇宙船です。
乗組員は天津神で、王家と侯爵以上の高位貴族は天津神の子孫。まさかそれが子供向けのおとぎ話じゃなくて史実だったなんて、びっくりです。
天津箱舟の船長権限はすごかった。船内の全ての施設が利用可能で、根拠のない自爆命令以外、何をしてもかまわない。それって、根拠があったら自爆させられるって事ですよね。
ついでに人事権も握ってます。制限は一切無し、なんと赤ん坊を責任者に任命できちゃいます。
取り巻き集めて独裁政権樹立しようとした船長は居なかったんでしょうか。なんでそんな危険な可能性を残してるんでしょう。
あ、そんな面倒なことしなくても充分独裁者か。自重しなくちゃ。
王宮の聖女執務室(笑)で資料を読破して、とりあえず権限を把握したんだけど、そこにライブラリー閲覧権限がありました。船長はオールフリー。人類の叡智が見放題です。ライブラリーに何が有るかは、とても把握しきれません。
そこにデータが有れば、実物を再生可能なんだとか。
仕組みは、3Dプリンタが原型みたいです。何でも素粒子から原子、分子、化合物って作っていくんだとか。金や銀は単一元素だから超手軽に作れるそうで、試しに聞いてみたら、何万トン製造しますかと聞かれてしまいました。
それって単位が可笑しいから。
原料の素粒子は、星系内なら恒星風で充分賄えるそうです。宇宙線の密度ってそんなに高くないと思うけど、太陽の至近距離なら濃厚なんだって。濃厚って言葉の使用方法を間違ってる気がするけど、気にしたら負けって言われそうです。誰にだろ。
データを物質化するには、かなり限定してオーダーする必要があります。グランドピアノの時、メーカー指定が必要だったようにね。
ライブラリーで調べれば良いんだけど、ネット検索みたいにキーワードを絞り込む手間が大変です。そもそも何がキーワードか理解する基礎知識が必要。
想像してみてください。恒星間宇宙船が普通に存在する超科学文明の基礎知識。そんなもの、十二歳の女の子が持ってると思いますか。
なので、今現在私が実用化できているのは、前世日本に実在していた物品がメインです。
近衛騎士の皆さんに言わせると、そちらの方が希少で凄いんだそうです。何しろ神代古語の時代のデータを自在に活用してるんですからね。
あ、神代古語は日本語の事です。念のため。
近衛騎士の皆さんは口伝として天津箱舟の伝承を保存してきたので、私よりよっぽど有効利用できる知識が有るはずなんですけど、行動に移そうとしません。船員が船長の指示無く天津箱舟を利用するなど、僭越で、無礼千万で、えーと、言語道断なんだそうです。
五千年間、無人のまま放っておかれた天津箱舟がどうなっているのか心配です。
基本的なメンテナンスは全自動で行われているそうで、いつでもフル稼働できるとコンピューターから自己申告受けたけど、五千年ですよ。どこまで信用して良いのか。
搭載艇を近衛騎士の方に操縦してもらって現地調査に向かいました。誰が操縦するかでパイロット席の争奪戦があったそうですが、詳細は教えてもらえませんでした。全員が気にしないで下さいと良い笑顔だったので、スルーすることにします。
ええ、国の超エリートの皆さんが大人げない口喧嘩してたなんて、私は全く知りません。
搭載艇は、葉巻型のUFOによく似た外観でした。ステルス光彩付きだとかで、背後の映像を船体に映し出して疑似的透明化をしてました。理屈が理解できて良かったです。
サイズは前世の飛行船くらいでしょうか。ジャンボジェットより大きいかも。これで小型だそうです。
お約束の人工重力装置が働いて、大気圏離脱のGや宇宙空間の無重力を経験することなく、ずっと地上と同じです。加速度を体感しないから、自動車や列車より移動しているとう言う実感がわきません。
窓から見える(直接外を見るのではなくスクリーン映像ですが)景色は、テレビや映画で見覚えのある超高高度画像でした。
眼下の惑星には固有名が無いそうで、便宜的にテラと呼んでいます。地球より少しだけ薄い青色をしていてとても奇麗なのですが。
海が無い。正確には大洋が無い。
水玉模様のように、ほぼ円形の水面が点在しています。ちなみに、水玉一つが地球規模の大きさだとか。どれだけ大きいんですか、この惑星。
自転速度が地球並みだったら、昼間が月単位続いて灼熱地獄、夜は極寒になってたはずです。自転速度が速くて本当に良かったです。
基準になる一秒は、銀河標準時だそうです。六十秒で一分、六十分で一時間。これは人類社会共通だそうで、どこの星系でも通用するとか。長さと体積の度量衡も共通。ただし、惑星により重力が違うので、重さに関してはローカルルールなんだそうです。
私たちが暮らすテラはほぼ地球と同じ重力なので、一リットルの水の体積を一キログラムに定義して使っています。厳密には地球の一キログラムと誤差があるそうですが、不便は有りません。
ちなみに一日は二十五時間。誤差は真夜中の日付が変わる直前に付け足して調整しています。
一年は三百五十日。誤差の調整で、五年で二日の閏日が有ります。一月二十五日なので、大晦日にあたる十四月二十五日と翌年の一月一日の間に、暦に含まれない祝祭日が二日間、五年ごとに巡って来るんです。
この祝祭日が天津箱舟のメンテナンス報告の期日だと教えてもらいました。
国全体で大騒ぎする五年に一度の年越しの祭りの元が、王家による秘儀だっていうのは常識だけど、天津箱舟関連なら確かに非公開にするしかないですよね。納得です。
天津箱舟は、月でした。毎夜、空に浮かんでいた月です。
有りましたねー、SFのテンプレ。ここで踏襲するのかよと、心の中で突っ込んでしまいました。
表面はごつごつした岩場だけどクレーターは無し。衝突しそうな小惑星や隕石は、重力操作で処理するから安全だとか。
地下にある箱舟の本体は、未来の地下都市でした。以上。
いやね、超未来の交通機関とか、食糧生産プラントとか、高層ビル群の居住区とか有りましたけどね。
どこまで行っても人間は人間でしかない訳で。大抵がSF映画で見た事が有ったり、アニメの設定そのままだったり。
これは過去の地球人の妄想力が凄かったと言うべきなんでしょうね。
とりあえず、お目当ての医療関係施設をバッチリ視察しました。コンピューターとやり取りして、必要な施設を地上に再現するよう命令済み。場所はデイネルス侯爵邸の無駄に広い敷地内です。これでリアーチェ伯母様の不妊治療は目途が立ちました。
スマホもどきも調達できて、ホクホクです。基地局は天津箱舟だから、どこにいても通話可能。月が空に昇ってなくたって、問題なし。星系規模の通信ネットワークに比べたら全然負担にならないそうです。
近衛騎士と高位貴族、王家、それに例外的に天津箱舟の知識を保持している面々。全員に配ったら、大泣きするほど感激されてちょっと引いたのは内緒です。
明日は聖女のお披露目会。外国から賓客が続々到着しているけど、お披露目までは面会謝絶でのんびりしてます。
近衛騎士の小父さんたち、明日の護衛、よろしくね。
いやー、書いた書いた。ここで書いとかないと入れる場所が無いと思って、SF設定てんこ盛りです。
テンプレの元ネタ、いくつ分かりましたか(笑) 楽しんでいただけたら幸いです。
お星さまとブックマーク、ありがとうございます。猛暑を通り越して酷暑が続きますが、皆様、こまめに水分補給して乗り切って下さいね。
追記。ミリアちゃん、ステルス光彩と言っていますが、正確には光学迷彩です。感想でご指摘いただきました。
えーと、えーと、ミリアちゃんの一人称ですから、ミリアちゃんが間違って覚えているとどこからも訂正が入りません。
なので、これはミリアちゃんの知識不足の表現なのです。なんとなーくでも意味が伝わってれば無問題!
ほっほっほっ、お冨のこじつけと辻褄合わせは健在です(;^_^A




