秘匿義務
王様と王子様、アイコンタクトでミリアちゃんを囲い込もうとしています。
王太子殿下、いったい幾つなんだろう。
誤字報告頂きました。オスカー君が子爵オスカーランドールと言っているのは、臣、オスカー・ランドールではないかとご指摘いただきました。
これはお冨オリジナル設定でして、国王陛下に公式に名乗る場合、爵位、フルネームの順になります。「自薦か他薦か立候補」の話で、エザール兄さんが侯爵エザール・デイネルスと名乗っています。
ご了承下さいませ。
いやあ、それっぽく形式ばってるだけで、別に根拠は無いんですけどね。もう書いちゃったので、これで統一していきます。ご報告、ありがとうございました。
「オスカー・ランドール子爵、国王として命ずる。この部屋を出た瞬間から、知り得た天津箱舟の情報の一切を秘匿せよ。たとえ相手が天津箱舟を知る高位貴族であっても口にしてはならぬ。もし耳にした者がいたならば、故意、偶然に関わらず、処分することになる。余としても無辜の民を悪戯に殺したくはない」
陛下の厳しいお言葉に、俺は直立して頭を下げた。
「はっ、子爵オスカー・ランドール、王命、承りました」
とっさに軍人の礼になってしまったけど、この場合はしょうがないだろ。そもそも陛下と対面で座ったまま王命を受けるなんて、有り得ないんだから。
「ゼルム・カース、キリー・オートル。二名は、ランドール子爵に近衛騎士が天津箱舟の乗員の子孫であること、話していたな」
名指しされた近衛騎士が、姿勢を正した。公爵家次男と侯爵家三男、俺とは身分違いだけど、一緒にトマーニケ戦役で補給任務に就いていたお二人だ。僭越ながら、仕事仲間だと思わせていただいていた。
そうだった。キリー卿がめちゃめちゃ真剣な顔で天津箱舟の乗組員だって話してた。マグカップでお茶を持ってきてくれたんだっけ。
「王家と高位貴族が天津神の子孫である事、神話として流布している以上、咎めはせぬ。だが、一歩間違えればオスカー・ランドールの命は無かった。以降、気を付けよ。天津箱舟の真実を知って良いのは、天津神の子孫のみ。この掟は今後も変わらん。全員、心せよ」
「「「御意」」」
近衛騎士の皆様が、そろって頭を下げた。
「ランドール子爵夫妻とデイネルス侯爵は、船長閣下のご家族として特例を認める。ただし、三名のみ。他の家族は秘匿対象となる。これは家族の命を守るためと心得よ」
「えー、マーク兄様にもカークにも話しちゃダメなの。キャサリンお母様にも? 家族で秘密って、やだなぁ」
ミリアがむくれた。そりゃもう、子供っぽくむくれた。
転生者は記憶があるだけって、本当なんだな。ミリアはミリアで間違いなく俺の娘だ。安心した。
「まあ、ミリア、わがまま言ってはダメよ。それにね、世の中には知らない方が幸せな事があるの。自分でどうしようもない事を知ったら、気苦労が増えるだけだわ」
「そっか。良い女には秘密も必要よね。私、良い女に成る」
ミリアの宣言に、空気が緩んだ。
「愛らしいお嬢さんだ。良い女に成ったら、私と結婚していただけますか」
王太子殿下が笑いながらおっしゃった。
キラキラしい笑顔、気さくな話しぶり、王家と高位貴族の血を煮詰めた美形っぷり。どこをどう取っても、本物の王子様だ。
「え、嫌です」
一言で叩き落すミリア。
「おやおや、手厳しい。理由をお伺いしても。貴方に相応しくなるよう、努力いたしますが」
余裕たっぷりに聞き返す王太子殿下。
「努力してもどうしようもないと思いますけど。私は高位貴族とか王族とかに成りたくありません。苦労するだけですもの。出来れば平民になって、自由恋愛で結婚して、暖かい家庭を作りたいです」
ピキンと、空気が固まった。
平民、自由恋愛、暖かい家庭。この場の大人にとって、最も縁遠い言葉だろう。
そもそも近衛騎士は、生涯独身だ。ただの慣習かそれとも禁じられているのか、俺は結婚した近衛騎士を見た事がない。
「は、ははは、振られたな、我が息子よ。さ、さあ、今日はここまでにしよう。皆の者、ご苦労であった。解散といたす。各々、家に帰り、今日の事を伝えよ。五千年ぶりに正規乗員に登録されたとな。役職については、追って決定する。デイネルス侯爵、その方は第一、第二宰相と共に、聖女の設定について詰めてくれ。出来る限り早く正式発表して船長閣下に執務室を利用していただかなくてはならぬからな」
陛下、何か焦ってませんか。ミリアは十二歳です。まだまだ嫁には出しませんからね。
次回、デイネルス侯爵家に帰ります。天津箱舟のあれこれについては秘匿事項なので、卒業試験で満点取って、王宮へ招待された事と、聖女認定された事しか話せません。
近衛騎士から話を聞いた高位貴族の当主の皆様によるミリア争奪戦、開始のゴングが鳴るのはすぐでしょう(笑)
お星さまとブックマーク、ありがとうございます。感想、参考にさせていただいてます。小型宇宙艇を駆る近衛騎士、改め竜騎士なんて、ロマンですね。




