初めての王宮訪問 訪問?
新しいエピソードです。オスカー君は職業軍人。
王都は、城塞都市に良くあるドーナツ型をしている。中央に王城があって、その周囲が旧市街、通称貴族街だ。
昔は旧市街だけが王都で、古い城壁に囲まれていた。その外側に王都を養う広大な農地が広がっていたんだが、戦乱の時代になって、農地ごとぐるりと囲んで築かれたのが今の城壁だ。時代が下るとどんどん王都の人口が増えて、いつの間にやら農地は市街地に様変わりした。
古い城壁はほとんど取り壊されて名残しかないが、行政区分や地価の相場、軍の管轄などなど、目に見えない境界が歴然と存在している。
王族を警護するのは、近衛騎士。王城と貴族街を警備するのは、近衛兵。どちらも基本、貴族でないと成れない。
外側の新市街、通称平民街と城門を含む城壁を警備するのが、我ら王都警備隊だ。東西南北、四つの門ごとに支部があって、それぞれ一中隊、五十人が配属されている。詰め所は城壁のすぐ内側だ。玄関越しに城壁の東門前の広場が一目で確認できる。
俺は東門中隊の中隊長で、まあ、門番の親玉というわけだ。
「中隊長、緊急事態です。早馬が近づいています。東街道より接近中。旗は黒!」
警備兵が俺の執務室に飛び込んで来た。
「すぐ行く」
現場責任者として、状況把握は必須だ。石造りの階段を駆け上がって、城壁の上に出た。
見通しの良い街道の向こうから土煙を立てて、大柄でがっしりした馬が近付いて来る。軍仕様の馬具と埃まみれの軍服、間違いなく軍使だ。
軍使の旗の色が青なら、定期連絡。黄色は個別の事案。黒は緊急事態を表す。
王都内は乗馬禁止で、軍使だって門前広場で下馬して歩くか馬車に乗り換えなきゃならないが、黒旗は例外だ。国王陛下の御前まで騎乗が許されている。黒の旗を示されたら、誰もが道を譲らなきゃならない。子供でも知っている常識だ。
「一時通行止め、黒旗の進路を確保しろ」
足元で大声がした。軍規通りの指示を出したのは、俺の副官のテイラムだ。指示に従って、部下たちが機敏に動き出す。
さすが、プロの門兵。馬車や荷車の交通整理はお手の物だし、街道から続く王都の大通りの中央部分を、馬車一台通れる広さで人払いしていく。当番の伝令兵が飛び出して行ったから、すぐに王都警備隊本部にも話がいって、王城までの無人の道ができるだろう。
俺、要らなくね?
街道を爆走してくる軍馬は、見るからに疲弊していた。馬具にくくりつけられた黒い布と、剣を掲げる獅子の意匠の旗。東の国境を護るカロテタリア騎士団の軍旗だ。
「あんまり見たくない旗だな。戦況が悪化したとしか思えん」
「まあ、戦勝報告でないことだけは間違いないねぇ」
城壁から降りて、テイラムと軽口をたたきながら到着を待った。
戦争が始まるまでは見たこともなかった黒旗だが、今じゃ、ふた月に一度はこの東門をくぐっている。手続き無しで全力疾走していく後姿を見届けるのが、俺たちの仕事だ。
「あっ、やべっ」
馬足が鈍ったと思ったら、よろめいた。うわっ、倒れるっ。
あとちょっとで門を潜るってところで、崩れるように馬の巨体が横倒しになった。どんっと地響きがして、口から泡を吹いているのがやけに目に付いた。
門の外は管轄外だが、緊急事態だ。周囲から上がる悲鳴の中、事故現場に駆けつけて息をのんだ。落馬した騎士の太ももから下が、馬の下敷きになっている。血まみれでどう見ても無事じゃない。
「おい、大丈夫か」
大丈夫じゃないよなと、どうでも良いことを考えながら声をかけた。幸い、意識は有るようだ。
「ここの責任者は」
「本官だ。東城門警備中隊、中隊長、オスカー・ランドール大尉。貴官は」
「黒旗軍使の権限で、貴官に任務を委譲する。本官の懐にある書状を可及的速やかに国王陛下に届けよ。黒旗を携帯せよ」
一息に言い切ると、荒い息をして目をつぶった。
「すまんが、頼む。私は、カロテタリア騎士、団の、ホーネット、中佐だ。急いで、くれ」
息も絶え絶えの相手から正式に任務を任されたら、受けるしかないじゃないか。
「分かった。すぐに行く」
しっかり封をされた書状を馬具から外した黒旗で巻いて、俺は伝令用の馬に跨った。
読んでいただき、ありがとうございました。
しがない王都警備隊の中隊長が、国王陛下の御前で軍事機密にかかわる羽目になるシチュエーションって何だろうと、逆算して作ったエピソードです。
王都警備隊は警察のイメージ。交通整理や交通事故の後始末なんかも任務に入っています。馬の下敷きになった中佐も、荷車の横転事故に慣れた兵士たちが無事に救助しました。ご安心ください(笑)
お星さまとブックマーク、嬉しいです。よろしくお願いします。