聖女 爆誕
ちょっと異変が。感想を頂けないのに、ブックマークとお星さまをたくさんいただきました。
あれあれあれ?
やっぱり、王太子殿下が登場すると受けるんでしょうか。
テーブルの上の四角い光の枠の中で、リッタイエイゾウという名前の小人たちが走り回っている。その周りを近衛騎士が囲んで、声援を送っている。こんな不可思議な現象をすんなり受け入れる肝の据わり具合は、さすが近衛騎士、エリート集団だよな。
ミリアの説明によると、さっかーぼーるという専用の球を手を使わずに運んで、相手のゴールに多く入れた方が勝ちだそうだ。
「細かいルールは色々あるけど、破ったら相手チームが有利になるからね。大の大人が熱狂するのは分かるでしょ。時間制限有り、非殺傷、しっかり勝ち負けが目に見える。ボール一個あれば子供の遊びになるから、手軽に広められるわよ。専用競技場を作ったり選手を育成したりするには巨額の資金が必要だから、大国が有利だけど、小国でも個人レベルで才能ある選手が出たりするわ」
スポーツで国の序列を決めるのは、戦争よりずっと平和で経済的だとミリアが笑う。
「別にサッカーでなくても、スポーツにはいろんな種類があるわよ。距離を決めて誰が一番速く走れるかだって、立派なスポーツだし、決められた姿勢で、どれだけ重い物を持ち上げられるかを競っても良いし」
子供の遊びだって大真面目にやれば、戦争の代替が可能と力説するミリア。
確かにそうだけど、実現させるのは無理なんじゃないか。他国が聞いたら、鼻で笑われるのがオチだと思うが。
「ま、雑談はこれくらいにしておきましょうか。天津箱舟さん、船長権限の説明書と、船員の就業規則が欲しいわ。船内図、船員の役職の組織図、あと現状報告書も付けてね」
『データ表示用タブレットを用意しますか。プリントアウトしますか』
またまた御神託が下された。さすがにもう、驚きはない。
「両方、お願い。あ、それと、貴方の名前を教えて。貴方はAIなのかしら。乗員登録以外も担当してるんでしょう」
テーブルの上の光が消えた。球を追って走り回っていた小人たちの姿も掻き消えた。代わりにどっさり紙の束らしきものが現れた。
白い紙、紙だよなあれ。見るからにすべすべでツヤツヤしてるんだが。横に置いてある巻物は、色ムラ一つない深い黒だった。
『私は天津箱舟の統合制御システムです。製造番号4335818523A-E5498=257615。先代船長からは、コンピューターと呼び掛けられていました』
「わかったわ。じゃあ、私もそう呼ぶわね」
ミリアの手が、紙の束の一番上の一枚をめくる。全員の目がそこに集中した。
天津箱舟の主神、コンピューター様よりミリアに下された資料は、全て神代古語で書かれていた。その内、船員就業規則と役職組織図は現代語に翻訳したものが人数分追加された。
ミリアの船長権限は天津箱舟最高位とかで、コンピューター神様に遠慮なく要求して許されるんだそうだ。
黒い巻物は、広げると一枚の薄い板になった。ミリアが指であちこち触ると、表面に神代古語が浮かびあがって、上下左右に文字が流れていく。
驚きの現象のはずだが、テーブルの上で走り回る小人を見た後では、そんなものも有るんだな程度にしか思えない。
「陛下、組織図に従って、近衛騎士の小父さんたちに役職、割り振って下さいね。船長権限で正式承認します。それと、これ全部目を通さなきゃだから、持って帰って良いですか。タブレットより紙の方が読み易いし」
机の上の書類の山。ミリアは城の文官じゃない。まだ十二歳の娘だぞ。そんな事しなくて良いと声を上げようとしたんだが。
「お待ちください、船長閣下。これらは国の最高機密。万が一にも漏洩があってはなりません。この部屋から持ち出すことはお控えください」
陛下のダメ出しに、ミリアがうーんと考え込んだ。
「そうよね。機密よね。日本語だから解読不能だけど、神代古語の資料が存在するってだけで国際問題になりかねないわね。でも、読まない訳にはいかないし」
書類が駄目なら黒い巻物はもっと駄目だろう。急遽、貴賓室をミリア専用の執務室に転用することが決まった。
そのまま王宮で宿泊してはどうかと申し出があったが、兄貴がストップを掛けてくれた。
「子爵令嬢を王宮に引き留める理由、どう説明するおつもりですか。まさか、天津箱舟を公表はできないでしょう。ミリアは十二歳です。王族の手が付いたなどとあらぬ噂が立ったら、ミリアの将来に傷がつきます」
ニーナがミリアをぎゅっと抱きしめた。そうだよな、母親としては許容できるはずないよな。
「我がデイネルス侯爵家でお預かりします。ミリアが王宮に伺候する理由、作っていただけますね」
さすが兄貴、第三宰相の地位は伊達じゃない。堂々としたもんだ。
それから色々話し合われたが、どうやってもミリアの立場が決まらない。子供じゃ王宮で働けないし、王子殿下方の側室候補なら年齢制限はないが、身分が足りない。愛妾なんて以ての外。
結局、既存の地位は全滅で、新しく作ることになった。
「そう言えば、神官長が言っていたな。聖なる乙女、聖女様と」
「それ、使えますね。天津神の御神託を授かる女性、誰もが納得の設定ですよ」
「聖女様の護衛なら、さしずめ聖騎士ですか。丁度良い、近衛騎士から転職しましょう」
「あ、お前、抜け駆けはずるいぞ」
これが、わが国初の聖女認定の内幕なんだけど。
ミリア、父さん、頑張ってミリアを守るからな。頼むから暴走しないでくれよ。
聖女、爆誕しました(笑) 宗教勢力とは全く無関係なところがお冨仕様でございます。やっとこ表にシフトするとっかかりが出来ました。
ミリアちやんにとってスポーツの話はただの雑談ですが、受け取る方はかなり真剣でした。そのギャップに気付いていない十二歳です。
お星さまとブックマーク、ありがとうございます。感想もいただけると嬉しいな。




