ミリアちゃん 説明する
ニーナさん、訳が分からないだろうと、ちょっと説明を入れてみました。説明しだすとキリが無いので、あっさりと。
「分かりました。忠誠は受け取ります。ただし! 私の自由は保障していただきます! 良いように利用しようなんて、考えないで下さいね」
陛下に堂々と宣言する我が娘、ミリア・ランドール十二歳。
とても子供には見えない態度だけど、前世の記憶持ちなら納得だ。俺よりよっぽどしっかりしてるし、任せて大丈夫だろう。
そう思っていたら、隣に座った妻が口を開いた。
「陛下。疑問がございます。質問、お許しいただけますでしょうか」
陛下は感極まったのか、目をうるうるさせて固まっていらしたが、我が妻ニーナ・ランドールの言葉で動きを取り戻された。
「我ら、船長閣下に忠誠を認めていただいた。今この時より、正式に船長閣下の部下である。各々、天津箱舟の正式船員として精進せよ」
「「「御意」」」
あ、忠誠に拘っていたの、そういう意味があったんですか。
「ランドール子爵夫人、遠慮なく聞いていただきたい。こうして説明できるのはこの場限り、納得がいくまで説明いたそう」
「ではまず、テラフォーミングとは何ですか。ジュウリョクとか、ジテンなんとかとか、サンソノウドとか、シュミレ、シューレイショ? それにトウサイテイ? 分からない言葉ばかりで、理解しきれません」
「お母さん、それ、全部理解しようと思ったら、三年くらい学校へ通って勉強してもらわなきゃいけないくらい大変だと思うよ。良かったらたとえ話にするけど、そんなもんだと納得してほしいな」
ミリアの言葉に、陛下がそれは良いと賛同された。近衛騎士の皆様も、興味津々だ。
「あのね、テラフォーミングのテラって、地球のことなの。日本語だと地球だけど、外国の言葉だと、アースだったりテラだったりするの。元々住んでいたテラに近づけて、人が生きていけるように世界を造り替えることをテラフォーミングって言うの」
皆様方が、うんうんと頷いていらっしゃる。
「水浸しの沼地には住めないでしょ。高い山や断崖絶壁に畑は作れないでしょ。山を削って平地を作って、余った土で沼地を埋め立てたら、広い畑ができると思わない? そんな風に世界を造り替えるの」
それはまた、規模のでかい話だ。
「自転速度とか、酸素濃度とか、重力とか。みんな、生きていくのに必要な条件と思って。詳細知りたいなら学校三年コースだけど、聞きたい?」
ニーナがブンブンと顔を横に振った。
「シミュレーションは、そうね、簡単に言うと大人向けのママゴトになるかな。真似っこ遊びだけど、本物の台所で本物そっくりの包丁使って、火のついてない竈に鍋を乗せて、本物の調味料並べるの。そこまで本格的に真似を繰り返したら、いつでも本物の料理を作れるようになるでしょ」
ミリアのたとえに、幾人かが噴出した。女の子らしいと言えばらしいけど、近衛騎士にそのたとえはどうなんだ。
王太子殿下が、笑顔のまま話し出された。
「子爵夫人、ミリア嬢の説明は正しいのですが、たとえがちょっと。そうですね、近衛騎士が繰り返していたのは搭載艇の操縦です。搭載艇は、天にある天津箱舟と地上を結ぶ艀です。空を飛ぶ小さな船ですよ」
「え、天津箱舟、地上に在るんじゃないの」
ミリアがびっくりしている。俺も驚いた。
「はい、天空にあります。無人のまま五千年間テラフォーミングに専念していますよ。その設備を利用できなかったのは痛手でしたが、逆に悪用されなかったのは幸いでした。伝承では、一日で地上を焼き尽くせるそうですから。そんな物が目の前に転がっていたら、奪い合いの戦争が続いて、人類滅亡になりかねません」
いや、天津箱舟をそんな物って。
「我ら天津箱舟の乗組員、星の海を渡って乗客を運び、人類の生存圏を広げるのが使命。人類存続の大義こそ、王家の存在意義です。天津箱舟は手段であり目的ではありません。目的と手段の履き違えは厳に戒められております。手段を失わないために、我らは五千年の時を経て操船技能を伝えてきました」
王太子殿下の言葉は重かった。五千年の重みだ。
この重みを、ミリアは背負わなきゃいけないのか。まだ十二歳なのに。
「分かったわ。それじゃ、まずは天津箱舟について色々確認しなきゃ。何が出来るか楽しみ。これから忙しくなるわよ」
ミリアは満面の笑みだった。おまえ、そんなに前向きな娘だったっけ。
さて、SFのテンプレ、どの程度入れていこうかな。あんまりチートすぎるとつまんないし、制約が多すぎると窮屈だし。設定小出しにして、都合よく使いまわしますか。
貴賓室から出たら、今度は表の世界。こっちの方が大変な事になる予定。
お星さまとブックマーク、ありがとうございます。頑張ります。




