俺の娘は転生者
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今日は暑かった。梅雨入り前に真夏日なんて、今年も猛暑になりそうな。
いきなりの娘のカミングアウトに、空気が凍った。
「私、前世が日本人だったみたい。知らないはずの知識が有るの」
前世か。まさかミリアが前世持ちだとは気づかなかった。
「そうだったのか。驚いた。まさかお前がなぁ。本当に居たんだな」
「えっ、私以外にも居るの」
ミリアが目を丸くした。どうやら知らないらしい。
「ああ。そうか、貴族学園で習うから、ミリアはまだ知らないか」
王立中央高等学園、通称貴族学園は、貴族が十五歳から三年間通うことを義務付けられている場所だ。
平民は十二歳で受ける卒業試験で全問満点を取ると、特待生として通う権利を与えられるが、義務ではない。
そこで習う教養の中に、前世の記憶持ちも含まれている。
「とても珍しいし、記憶があるだけで、才能とか体で身に着ける技能とかは引き継がれないから、本物かどうか判別が難しいんだ。大多数は自称で、証明しきれない。そもそも覚えてる記憶が平凡な平民の日常じゃあ、有っても無くてもあんまり影響力は無いしな。大体が昔の時代遅れの知識だから、有難がるのは歴史学者くらいだよ」
「そうなんだ。大騒ぎすることじゃないんだね。ちょっと安心した」
「いやいやいや、ミリア嬢の記憶は神代古語の時代のものでございましょう。唯一無二ではありませぬか」
再起動した陛下が、大声で叫ばれた。
「そも、銀河標準歴が何故一日二十四時間、一年三百六十五日なのか、誰も知りませんでした。チキュウという惑星も、ニホンという国も、神代古語がニホンゴだと言うことも! 誠、船長に相応しいお方。絶対の忠誠を誓う栄誉、どうか我らにお与えください」
「ええー。私、一般人だったし、天津箱舟の乗員登録は皆さん済んでるじゃないですか。船長はもっとふさわしい人に成ってもらいたいです」
ミリアと陛下の押し問答に、後ろの近衛騎士の方々が口々に嘆願しだした。
「相応しいのは、貴女様でございます」
「なにとぞ、なにとぞ」
「我らをお見捨てにならないでください」
パーン
カオスな空間で、妻のニーナが行動に出た。両手を打ち鳴らして、大きな音を出したんだ。
「皆様、落ち着いてくださいませ。ミリアは十二歳ですのよ。体格の良い騎士が寄ってたかって何ですか。威圧するんじゃありません」
うわっ、ニーナが本気になった。不敬に……はならないか。初めに陛下が宣言なさってた。
「陛下、説明が途中でございますわね。さっさと終わらせて下さいませ。ミリアにこれ以上負担を押し付けないでくださいまし」
「う、うむ、申し訳ない」
陛下がタジタジだ。ニーナ、母は強しを地で行くからな。
五千年前、天津箱舟の乗員登録の方法が失伝してしまった。その時点で天津箱舟はテラフォーミングの作業中。新たな作業を命令する乗員が居なくなり、今でもテラフォーミングだけを続けている。
乗員の血縁者は、乗員候補として、シミュレーターを利用できる。天津箱舟の搭載艇の操縦を、五千年間、研鑽してきた。搭載艇なら今すぐ操縦できるし、他の様々な宇宙船の操縦にだって応用が利く。
「五千年は長い。血が薄くなりすぎて、いくつもの血統が途絶えてしまった。血統の保持のために作った登録制度が王家と貴族制だ。そして貴族制度を維持するために封建社会を構築した。あくまで血統の保持が目的、デルスパニア王国内だけで充分機能する。人類の多様性を守るためにも、複数国家の成立を容認した。それが二千年前のこと。その後の歴史は、知られている通りだ」
天津箱舟の末裔は、高位貴族となった。船長の子孫が王家、役職船員が公爵家、一般船員が侯爵家。
その真の目的は乗員候補である近衛騎士を輩出すること。貴重な近衛騎士を守るために、王族の身辺を利用した。
「二千年間、うまく機能してきたのだ。だが、血が濃くなり過ぎた。王家の血を入れたバルトコル伯爵家はわずか三代で途絶える。デイネルス女侯爵は妊娠しても出産に至れず流産を繰り返した。十四有る公爵家のうち、当主の実子が居るのは三家しかない。もう、限界だった」
そこに現れたのがミリア・ランドール。
「天津箱舟の船長閣下。貴女は我らの救世主。どうか、どうか我らの忠誠をお受け取り下さい」
国王陛下の血のにじむような言葉に、嘘は無かった。
さて、天津箱舟の過去は説明しました。ここから話が盛大に斜め上へ転がります。
転生者って公認されてるけど、霊能者とか占い師のようなうさん臭さがあるみたい。詐称する者が後を絶たないので、本物の方は信用問題で迷惑しています。
お星さまとブックマーク、ありがとうございます。




