貴賓室は豪華です
何気にエザール兄、巻き込まれてます。
王様、説明することが多すぎて、何から話すか戸惑ってます。
王宮には、貴賓室がある。他国からの公式な訪問者に宿泊していただく部屋だ。大抵は外交関係のお客様で、国賓待遇の王族や大貴族、その随従員の皆様がほとんど。
格式は最高級、国の威信が掛かっているから、一切妥協はないそうだ。当然、普段は閉められている。
国内の高位貴族の皆様は使用しないのかって。
公爵邸、侯爵邸は、全て王城の周囲に固まってるんだ。だだっ広い敷地だから行き来に馬車を使う距離になるけど、隣接してるんだよ。わざわざ貴賓室に泊まらなくても、隣の自宅に帰るだけだ。
伯爵家は身分的に使用できない。ちゃんと貴族街に邸宅持ってるから、王宮に泊まる必要ないしさ。
なのに何で子爵風情のランドール家が通されるのか、意味不明だよ。
兄貴の侯爵邸で少しは耐性付いたけど、あまりに豪華すぎる室内に気後れしてる。くつろぐなんて不可能だ。
なのに、王家の皆様は当然という顔で下座に控えていらっしゃる。上座に座らされる中位貴族、これは立派な精神的拷問じゃありませんかね。
頼りの兄貴は、近衛騎士の皆様と一緒に、陛下の後ろで立っている。こっち側に来て欲しいけど、陛下の家臣として正しい立ち位置だから、俺が文句をつけるわけにはいかない。
俺もそっちが良かったよ。
「まずはお礼申し上げる。ミリア・ランドール子爵令嬢の御尽力で、近衛騎士全員が正式に天津箱舟の乗員登録に成功した。これは、登録方法が失伝してより五千年ぶりの快挙である。また、ミリア・ランドール子爵令嬢の天津箱舟の船長就任、改めてお祝い申し上げる」
国王陛下のお言葉に、一斉に頭を下げる王家と近衛騎士の皆様。
一人だけ背を伸ばしたままの兄貴が、口を半開きにしたまま固まった。多分、俺も同じ顔してると思う。
「これから説明するのは、国家機密。我ら天津箱舟の乗組員の末裔のみに許された情報だ。この場所を選んだのは、格の問題もあるが、機密保持に適しているからだ。外部には一切漏れぬ。ゆえに、無礼講といたす。この場での発言に制限は掛けぬ。不敬罪など気にしないでもらいたい。むしろ、船長を前にして不敬を問われるのは我々の方だからな」
天津箱舟、本当に実在してたのか。それで、ミリアが、船長就任って、どうなっているのか、一言も聞き逃せるか。
「まず、天津箱舟に乗っていたのは、神々ではない。この大地に住むすべての人間の御先祖様だ。星の海をわたり、この大地にたどり着いた。長の航海で疲れていたご先祖様は、安住の地を探していたのだ」
王様が、解らないところが有ったらすぐ手を挙げて欲しいと言って、そもそもの説明を始めました。十二歳の私に合わせてなるべく解り易く話すからと、前置き付きです。隣のニーナ母さんが緊張して私の手を握っています。
しっかり噛み砕いてね。前世で、週〇子供ニュースていうテレビ番組があったなぁ。大人にも大人気な時事解説、面白くてためになったっけ。
「この地は理想的な土地だったが、問題があって、すぐには住めなかった。ここに根を下ろすか、もっと良い条件を求めて旅を続けるか、どちらにするか争いが起きて、そのどさくさで乗員登録の方法が失伝してしまった。これがざっと五千年前のことだ」
ほうほう、どんな問題があったのかな。
「この惑星はとても巨大だが、比重が軽くてな、重力が銀河標準値に収まっている。大きい割に自転速度が速く、一日の長さがほぼ二十五時間。一年が三百五十日。銀河標準歴の一年の長さがそのまま適応できる一致率など、奇跡に近い。ただ、大気の酸素濃度が低すぎて、呼吸不可能、住めるようになるまでテラフォーミングが必要だった」
うわ、一気に専門的になりましたね。天文学の単語が山盛りだね。日本語そのままだから理解できるけど。
「つまり、テラフォーミングが成功したんですね。あ、銀河標準年って、一日二十四時間で一年三百六十五日ですか」
国王陛下の返事が無い。あれ、皆さん、固まってる。
「ミリア、お前」
横から呼ばれて、父さんを見た。
「今の陛下の話、理解できたのか」
「あ、うん。日本語がだいぶ混じってたから。日本語って、神代古語のことだよ。私、前世が日本人だったみたい。知らないはずの知識が有るの。日本と言う国があった地球って言う惑星は、一日二十四時間で一年三百六十五日だったの」
いつまでも黙っていられないだろうし、もういいや。ピアノ演奏とか日本語の入力フォームとか、誤魔化し切るのは無理だわ。
近衛騎士の小父さん全員分の登録に付き合って疲れたから、投げやりになってるわけじゃないよ。ホントだよ。
あー、天津箱舟の説明、何話必要かなぁ。先は長いけど、かいつまみ過ぎると意味不明になっちゃうし。ミリアちやんとオスカー君に突っ込みまくってもらって、話を進めるしかないかも。
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