王家からの使者
短いですが、キリが良いので。今日はここまで。
王家からの使者は、王城に務める文官だった。
「王宮への伺候要請でございます。至急とのことで、わたくしに御同道いただければ幸いに存じます」
ちょっとホッとした。
まず、書面ではなく、口頭の伝言であること。これは非公式だから、格式張らなくて良いということだ。
次に伺候要請。平たく言えば『王様の所に顔を出してくれたら嬉しいから、来てね』になる。これが出頭命令だと『つべこべ言わずさっさと来い』だから、かなり覚悟がいる事態だ。
幸い、バルトコル伯爵との面談に相応しい衣服を着用しているから、このまま王宮へ直行しても無礼にはならないはずだ。
「了解したが、使者殿、要請は私一人宛か。同行者の許可は有るのだろうか」
この場には伯爵と侯爵が居る。何故子爵の俺が呼ばれているのか不明だが、第三者が居た方が後々問題があった時証人になってもらえるだろう。
「申し訳ございません。わたくしでは判断付きかねます。王宮までいらしていただければ確認できますが、御同行されますか」
結局、兄貴に付き添いを頼んだ。
バルトコル伯爵とキャサリン義姉さんはテムニー侯爵邸に置いてきた。伯爵家という柵が消えるんだ、侯爵夫人と三人、親子水入らずで話してもらおう。伯爵家は、意思疎通が不足し過ぎなんだよ。
使者の乗って来た馬車の後を、デイネルス侯爵家の馬車でついていく。元々王城に一番近い貴族街の一等地だ。さほど時間をかけずに王宮へ到着した。
兄貴は、第一宰相マクミラン侯爵閣下の補佐官を拝命してた。自他共に認める宰相閣下の懐刀で、現在は第三宰相の地位にある。第一、第二宰相は高齢で、退任まで秒読み段階だそうだ。
そんな兄貴が堂々と歩いていたら、誰も咎めたりしない。むしろ俺の方が兄貴のおまけになってる。
案内されたのは、近衛騎士の休憩室だった。中に入るのは初めてだ。
いや、これ、サロンでしょ。公爵家と侯爵家の子弟の皆様が利用するに相応しい豪華さだけど。
ニーナ、なんでここに居るんだ。
「あなた、オスカー、ミリアが、ミリアが大変な事に」
俺の妻のニーナが、真っ青な顔で駆け寄ってきた。
「落ち着いて、ニーナ、ミリアはどこに居るんだ。一緒に卒業試験受けに行ったんだよね。なんで王宮に来たの。まさかニーナが事件に巻き込まれたのか」
ひょっとして誘拐か。助けを求めてここに来た? いやだけど、どうして近衛騎士に。王族が関係してるのか。
パニック起こしそうな自分を意識しながら、ニーナを宥める。これでも国軍中将、非常事態で取り乱す訳にはいかないんだ。
「あの、あのね、ミリアが卒業試験で満点取ったの。最終問題まで全部。それで神官様に連れられて王宮へ来て、礼拝堂で神様にご報告することになって。そこで、そこでミリアが聖女様って言われたのよ。後は何が何だか。御神託が下されるし、そこの変な机のようなものが急に出て来るしっ」
ニーナが指差した先には、『変な机のようなもの』が鎮座していた。並んで三つ。黒くて直線と抉るようなカーブが特徴的で。
「それ、楽器なのよ。ミリアが演奏したの。礼拝堂で歌った不思議な歌よ。それを近衛騎士の皆様に教えることになったの。国王陛下のご依頼で。もう、何が何だか、自分で言っていても訳が分からないわ」
ああ、訳が分からないことが分かったよ。とにかく、国王陛下と近衛騎士が関わっているんだな。
「落ち着いて、ほら、大きく息を吸って、吐いて。ミリアが今、どこにいるか分かるかい」
「ご心配は無用ですよ。こちらにいらっしゃいます」
返事は、サロンの入り口からした。ニーナを抱えながら振り向くと、近衛騎士に囲まれたミリアが、先頭の人物の背後からちょこんと顔を出した。
良かった。元気そうだ。
それにしても、ミリアのことを『いらっしゃいます』だって。何故貴方がミリアに敬語なんですか。
俺は敬礼しながら、先頭に立つ王太子殿下を睨みつけた。
ニーナさん、テンパってます。ミリアちゃんの無事が確認できて一安心。オスカー君は説明求めて臨戦態勢です。
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