別居か同居か、それが問題だ
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「はぁ、疲れた。兄さん、もう一杯いく?」
「ああ、もらおうか」
ここは王都の下町の飲み屋。仕事帰りの一杯にちょうど良い、王都警備隊御用達の一軒だ。侯爵様がご利用になるような店じゃないが、兄貴だしな。というか、愚痴の聞き役に兄貴しか思いつかなかった。
「まさか、母さんたちが、なぁ」
「女は弱し、されど母は強しって言うけどな」
もめにもめたツオーネ男爵家での家族会議を思い返すと、溜息しか出ない。
リアーチェ義姉様の提案通り、俺は名義を貸すだけ、ツオーネ男爵家で生活するつもりだったんだ。だけど、それまで空気だった母さんがランドール家に戻りなさいって言いだした。
「マークちゃんのことはどうするの。キャサリンさんは夫を必要としていないかも知れないけど、マークちゃんには父親が必要です」
甥っ子のマークはまだ四歳。父親が亡くなったことは何となく理解できてるみたいだし、母親が叔父と再婚したこともその内理解できるだろう。なのに叔父が家に寄り付かず第二夫人の実家に入り浸っていたら、自分が捨てられたって思うだろうし、疎外感だって感じてしまう。大事な跡取りが心の傷を抱えて育つなんて許容できない。
要約するとこうなる話を、くどくどくどくど説教されてみろ。白旗あげて、実家に戻るって言うしかないじゃないか。
そしたら今度は、俺をツオーネ家から取り上げるつもりかと義母が大反発。まだ二歳の孫娘を見捨てるつもりなのと泣き出した。
「オスカーさんがランドール家に戻ってしまったら、ニーナと別居なんてことになったら、ニーナは妾扱いされてしまうのよ。妾なんて印象が付いてしまったら、一生ついて回ることになるのよ。ちゃんと結婚していましたって言っても、ただの言訳にしかとってもらえないのよ」
それは困る。俺はニーナを愛してるんだ。正直、キャサリン義姉さんよりニーナが大事!
でもでもだってと、中年女性二人の口喧嘩というか、俺の取り合いというか、下手に男が口を挟むと大惨事になりそうな修羅場というか……。
で、結局、解決案を出してくれたのはリアーチェ義姉様だった。
「オスカー様には、ランドール家に戻って、オスカー・ランドールと名乗っていただきます。第一夫人がキャサリン・ランドール様。マーク・ランドール様は、オスカー・ランドール様と養子縁組し、御長男に。将来、ランドール家を継いでいただきます」
うん、俺の名前が変わるだけね。
「第二夫人がニーナ・ランドール様。正式にランドール家へ輿入れしていただいて、同居していただきます。御息女は、ランドール家の子爵令嬢となります。なお、契約結婚の条件として、御実家のツオーネ男爵家の継承権は、ニーナ様のお血筋の男子に限らせていただきます」
ごめん、ニーナ、ツオーネの名前を捨てさせちゃって。
「ニーナ様に男子が誕生せず、キャサリン義姉様に御次男が誕生したとしても、御次男がツオーネ男爵家を継ぐことはございません。ご安心くださいませ。一代下がりますが、ニーナ様のお孫様に生まれる男子に継承権が移ります」
は? いや、俺はキャサリン義姉さんとは本当の夫婦になるつもりないんだけど。マークが成人するまでの仮面夫婦ってやつでしょ。きちんと離縁して、ツオーネ家に戻らないと。
「仮にの話でございますわ。あらゆる可能性を想定して対策しておかなければ、どこで足元を掬われるかわかりませんもの」
高位貴族の常識ですか、そうですか。
「結局、キャサリン義姉さんとニーナが同居することになっちゃったけど、大丈夫かな。母さんとも仲良くしてもらえれば良いけど。ただでさえ、嫁姑って、同居すると何かと揉めるって聞いてるんだけど」
「ま、成るようにしか成らないさ。いざとなったら別居しても良いんだし。何かあったら、リアーチェに責任とって解決してもらえばいいさ」
うん、そもそもキャサリン義姉さんの再婚を言い出したのはリアーチェ義姉様だったしな。
「狙った通りお前をランドールにもどせて、リアーチェ、ご満悦だから。お前も、もうちょっと警戒心持った方が良いぞ」
え?
「名前貸すだけってハードル下げといて、承諾させた後は契約結婚とかさ、条件釣りあげてったろ。あれ、初めからニーナさんをランドール家に入れるつもりだったんだよ。そこまでしないと、三男のオスカーより次男の俺をって言ってくる奴を抑えられないからさ」
ケロッと言わないでくれよ、兄貴。いつからそんなに腹黒になったんだよ。高位貴族に染まったの?
俺は絶対に高位貴族なんて成らない。
高位貴族、怖いよ。
これにて男爵から子爵にランクアップ終了。まだまだ波乱は続きます。
いきなり家族会議から始めたもので、登場人物多すぎ(笑) 口調の書き分けとキャラの名前を考えるのが大変です(笑)
お星さまとブックマーク、嬉しいです。これからもよろしくお願いします。