ミリアちゃん 王都の休日
仕事の都合で、今日から連休開始です。週末更新がずれ込んでお待たせしました。
ローマの休日、名作映画ですよね。モノクロ時代の作品なのに、今でもコマーシャルでパロディの元ネタになるんだから凄いです。
私はミリア・ランドール。ランドール子爵家の長女、十二歳です。ちなみに転生者、宇宙開発黎明期の地球は日本の住人でした。
どうやら、この世界は遠い未来らしいです。神話に出て来る天津箱舟、どう考えても恒星間移民用宇宙船です。
神様の国の名前がアマノガワギンガだったり、武神の名前がミリオタ様だったり、軍服の肩に縫い付けられたミリオタ神の護符が漢字で大尉とか中将とか刺繍されていたりします。中世ヨーロッパ風の文化なのに、微妙に日本のオタク文化が混じってます。
なんじゃそりゃ。
生まれて初めての馬車の長旅は、王都へだった。二歳の時にニーナ母さんの実家からランドール家まで移動してるんだけど、物心つく前だから覚えていない。
王都まではお祖父ちゃんとお祖母ちゃん、ニーナ母さんとキャサリンお母様、マーク兄様と弟のカークが一緒。エザール伯父様が差し向けてくれたデイネルス侯爵家の馬車だったから、サスペンション完備で乗り心地は前世の乗用車並みだった。
部分的に中世らしからぬ技術が存在するのは、日本文化の影響なんだろうな。
そのまま侯爵家で怒涛の話し合いが行われ、バルトコル伯爵家からの申し出を断ることに決定。エザール伯父様がマーク兄様に念押ししてたけど、兄様は「僕に高位貴族は無理です」って理由で断っていた。
私も同感。色々暴露して下さったテムニー侯爵夫人だって、その方が良いと同意してらした。
侯爵夫人はキャサリンお母様の姉にあたる方だから(本当は従姉妹だって判ったけど)、マーク兄様にとって血のつながった伯母様。この方の後押しがあれば、後ろ盾として充分じゃないかな。
後の事は大人に任せて、私たち子供組は王都観光を楽しむことになった。せっかく王都まで出て来たんだし、このまま帰るなんてもったいないよね。そう思っていたのに。
「そう言えば、ミリアちゃんは今年十二歳でしたわね。もう、卒業試験は受けたのかしら」
リアーチェ伯母様の一言で、遊ぶのは後回しになってしまいました。あーあ。
我が国の教育事情は、前世日本とは全然違う。
まず、義務教育が無い。初等教育のための学校なんて存在しない。貴族は家庭教師に個別指導を受けるのが一般的だし、平民は親から手ほどきを受けるか、江戸時代の寺子屋レベルの私塾に通う程度。
勉強するもしないも個人の自由だけど、十二歳になったら、卒業試験だけは受けなきゃいけない。
前世日本では、入学試験を受けて合格すると学校へ通うことができた。デルスパニア王国では逆。卒業試験で不合格になると、強制的に教育機関に通わされるんだよね。
子供だって立派な労働力なのに、稼ぐことができなくなる。それどころか教育機関は有料で、強制だから借金してでも授業料を払わなきゃいけない。親が払えなかったら、本人へ国が貸し付ける借金になる。それが卒業試験に合格するまで続いてしまう。
だったら、小遣い程度しか稼げない幼いころに、合格できるだけの学力を付けさせてしまった方がずっとお得なわけで。
そんなこんなで、我が国の識字率は驚異の99パーセント超え。百パーセントじゃないのは、視覚障害者がいるから。中世ヨーロッパ風の社会でこの数字は、奇跡を通り越して異常だよね。前世の日本と遜色ないレベルだよ。
お祖父ちゃんとお祖母ちゃんは、いつまでも領地を留守にできないからと、一足先に帰って行った。
父さんとキャサリンお母様は、バルトコル伯爵家相手に貴族のお仕事。
マーク兄様とカークは、リアーチェ伯母様と一緒に王都観光。伯母様の護衛が同行するから、安全なんだって。
私の付き添いはニーナ母さん。卒業試験会場がある教会へお出かけです。
そう、教会。色々な神様の像が祭ってあって、誰でもお参りできる場所。国の行政機関の出張所を兼ねていて、半民半官の公民館と言えば良いのかな。
責任者は神官様って呼ばれているけど、やってることは市役所の窓口の小父さん。ちゃんと国からお給料が出る公務員です。宗教関係のお仕事は礼拝堂(笑)の掃除とお賽銭という名の寄進の管理くらい。
これじゃあね、宗教勢力と王権の対立なんて起きっこないよね。そもそも王様は天津箱舟に乗っていた神様の子孫だから、神官様がお仕えする主になるし。
ついでに言っておくと、修道院は民間組織。修道女や修道士は世俗と縁を断って、ひたすら神に仕える存在、ということになっている。
内実はまあ、訳ありのお方の避難場所。借金で首が回らなくても世俗と縁を切れば生きていけるし、他にもね、あとはお察しということで。
馬車で侯爵家の邸宅が立ち並ぶ一等地から離れると、普通の高級住宅街に出た。高級住宅街が普通に見えるのは、比較対象が対象だから仕方がないよね。ここに並んでいるのは伯爵家の邸宅なんだって。
ランドール子爵領の教会はこじんまりしてるけど、王都の教会は大きいだろうと思ってた。ところがどっこい、大きさはそれほど変わらず、違うのは数だった。前世の交番かコンビニみたいな感覚で、街角に溶け込んでいる。
その街角の教会で、卒業試験を受けた。
教会の奥にある試験会場は専用スペースの個室で、受験者本人しか入れない。不正防止が徹底しているんだそうな。
内容は読み書き四則演算と一般常識。終わったら部屋を出て即採点なんだけど、満点を取るとレベルアップした試験を受け直していく。平民の場合は、第一段階で満点を取れなきゃ不合格。貴族は第三段階まで満点を取らないと不合格になる。
どこまで満点を取り続けられたかが箔になるそうで、家の名誉に直結するんだって。頑張らなきゃ。
部屋の中には椅子と机だけ。問題用紙と答案用紙、備え付けの筆記用具しかなくて、なんだか大学受験会場の雰囲気。何度も部屋を出入りするのが良い気分転換になったんだけど、最終問題まで解いちゃったのはちょっと頑張り過ぎたかも。
まあ、前世知識のある元大人としては、ケアレスミスさえ避ければ当然の結果ですよね。オホホホホ。
笑っていられたのは、神官様が大興奮で迫って来るまでだった。
「素晴らしい。まさに神童でいらっしゃる。是非とも王城の教会長様にお会い下さいませ。只今、迎えの馬車がこちらへ向かっております」
えと、私は王都観光に早く行きたいんですけど。王城、行かなきゃダメ?
ここでミリアちやんのエピソードを挟んでおくことにしました。伯爵編の続きはその後で。
というか、バルトコル伯爵のエピソードは伯爵編の前振りだったんですけど、長くなり過ぎたので独立させます(笑)
お星さまとブックマーク、ありがとうございます。なんとかタイトル詐欺にならないよう、エンディングにたどり着くまで頑張ります。




