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事実と真実

 長々と書いてきましたが、ややこしい伯爵家の事情は今回で終わりです。

 我ながら、三世代にわたるあれこれは複雑すぎたと反省しております。読んでいただけて、本当にありがとうございました。

 キャサリン義姉さんが落ち着くのを待って、テムニー侯爵第二夫人が話を続けた。


「あまり、良い話ではないのですけどね。キャサリン、貴女は、子供のころ命を狙われた事を覚えていますか。物心がつくかつかないかでしたわね」

 おっとりとした口調と話の内容が、ものすごく不釣り合いなんですが。


「誰が犯人だったのか、わたくしは教えて頂けませんでした。おそらく、伯爵家の身内だったんでしょうね。バルトコル女伯爵が夫の第三夫人に嫉妬して娘を殺しかけた、という噂が流れて、それでお(しま)いでしたわ。伯爵家が本気で火消しに動いた噂話を、わざわざ蒸し返す愚か者は居ませんもの」

 良くわからないという顔をしている子供たちに、侯爵夫人が笑いかけた。


「追及を恐れた真犯人が噂を流して誤魔化したのか。伯爵家がわざと噂をたてて火消しして、それ以上の詮索を封じたのか。どちらにしても、噂は真実ではありませんでしたわ」

 まだ難しいかしらと笑う侯爵夫人は、確かに高位貴族だった。おっとりしてる分ギャップが凄くて、リアーチェ義姉様よりおっかないかも知れない。


「叔母様とお腹の子を一番に気にかけていらしたのは、父よりも母だったのですよ」

 え、そうなんですか。なんか意外だ。


「母は病弱で寝込むことが多く、女伯爵の立場もあって、ほとんど領地の館で軟禁生活でしたわ。叔母様は母の若いころによく似ていらしたとか。母にとって叔母様はもう一人の自分だったのです。叔母様が健康で自由で幸せならば、母も幸せ。恋愛結婚をして新天地で人生をやり直したかったのは母自身でした。できることなら生まれたキャサリンを叔母様にお返ししたかったのですけれど、立場上、伯爵家の後継者を手放せなかったのです」

 侯爵夫人が、ホウと息をついた。


「わたくしは成人して人並みの健康を手にしていたのに、気付いていませんでした。産まれた時からいつ死ぬかと言われ続けて、目の前には病弱な母が居て。自分もそうだと思い込んでいたのですわ。笑い話ですわね。侯爵家に嫁いでから、運動不足を指摘されましたの。散歩から初めたら食欲不振が改善して、体を動かすのが楽しくて。気づけば男子を授かっていました。妹たちを嫁がせることになって、キャサリン、貴女をどこに嫁がせれば貴女の幸せになるか、母はわたくしにまで相談してきましたのよ」


「本当に? わたくしには信じられませんわ。父も奥様も、わたくしに無関心でいらしたのに」

 キャサリン義姉さんの疑問は尤もだと、俺も思う。(うち)と絶縁してたくらいだし。


「実際のところ、どうだったのかは離れていたわたくしには分かりませんわ。ただ、貴女の命が狙われた事件は、両親ともショックだったのに間違いありません。表立って貴女を可愛がれば、また貴女が狙われたでしょうね。貴女の母は平民出身、その上伯爵家を追放された身。貴女の後ろ盾は老い先短い先代伯爵だけ。そのまま伯爵家に残しては、不幸になる未来しか見えませんでしたわ。だからでしょうね。貴女が伯爵家に未練を残さないようにしたのは」

 言ってることは分かるけど、それでネグレクトするって、極端すぎませんかね。いくら何でもやりすぎだろ。


「貴女が嫁ぐ時、母が言っていました。教育だけはしっかり身に着けさせたから、一生の財産になるはず。何か援助をすれば伯爵家との(しがらみ)が続くことになるから、すっぱり縁切りするつもりだと。中位貴族のランドール子爵家なら、貴女を幸せにしてくれるはずと」


 言葉が途切れて、静寂が訪れた。

 どこまでが本当の事か、正直、解らない。事実は一つでも真実は人の数だけ有るって言うけれど。


「一つだけ、よろしいかしら」

 リアーチェ義姉様が口を開いた。

「十年前、キャサリンお義姉様が未亡人になられたとき、デイネルス侯爵家にバルトコル伯爵家からお話がありましたの。もし、キャサリンお義姉様が伯爵家に戻りたいと意思表示されたなら、すぐに知らせて欲しいと。大至急受け入れ態勢を整えるから、それまで我が家で預かって欲しいと頼まれましたわ」


「その話なら、わたくしにもありましてよ。キャサリンが戻ることになったら、その前にテムニー侯爵家へ手続きの前倒しをお願いすることになると言われましたの。後継者として息子が伯爵家へ戻ってからでないと、またキャサリンの命を狙う不届き者が出てくると心配していましたわ」


 そうだったのか。

 俺の中で、疑問がすべて氷解したのを感じた。




「キャサリンお義姉様、女伯爵としてバルトコル伯爵家へお戻りになりたいですか」

「いいえ。わたくしはランドール子爵家に残ります」

 キャサリン義姉さんが、リアーチェ義姉様にきっぱりと答えた。


 そうだよな。今更だよな。




 兄貴、なんで死んじゃったんだよ。キャサリン義姉さんを幸せにするのは兄貴の役目だったろ。

 どこまでできるか分からないけど、キャサリン義姉さんとマークは俺が守るから。ニーナだって、守ってくれるから。父さんと母さんもいるから。



 だから、見守っててくれ。



 







 第一話で決まっていたこと。キャサリン義姉さんは伯爵家の四女。上に三人の姉がいる。ネグレクトされていたので、実家に嫌悪感を持っている。


 こじつけと辻褄合わせをしていたら、話が長くなること、長くなること。

 そっかぁ、キャサリン義姉さんのお父さんは婿養子だったのか。お母さんは先代の庶子で第三夫人だったのね。へぇ、長女はリアーチェ義姉様のお隣さんなんだ。


 会話率が高いのは、説明のためとご理解ください。次兄エザール・デイネルス侯爵が空気なのは、そこまで台詞の割り振りできなかったお冨の力量不足でございます(笑)


 キャサリン義姉さんの御両親が口封じのため殺されたという展開は、ブラックすぎるので却下しました。バルトコル伯爵夫妻がご都合主義的に善良なのは、お冨仕様です。

 悪意あふれる話より、優しさあふれる話が書きたいんだもん。



お星さまとブックマーク、ありがとうございます。励みになります。



 

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― 新着の感想 ―
[一言] 前回分で理解できたと今回分で確認できました。 難しいっ!と騒いで申し訳ありませんでした。 弟君が物凄く有能過ぎてお偉方が放してくれないのはあくまで副産物であって、長兄の急死に伴い実家を継ぐ…
[一言] 主人公がキャサリン義姉さんに次の子供を産ませるしか無いのかね?
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