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着任挨拶 

 今日、会社から連絡ありました。同僚にコロナ陽性が出たとか。自宅まで抗原検査キットを届てくれました。結果はなし。とりあえず一安心です。


 誤字報告、ありがとうございました。

「本日着任いたしました。オスカー・ランドール中将であります。半年間、よろしくお願いいたします」

リタシンテ騎士団の団長執務室には、団長閣下と側近の大隊長の皆様がそろっていた。

 騎士団長の徽章(きしょう)を胸に着けた壮年の武人が、俺の挨拶に鷹揚に頷い(うなづ)てくれた。肩のミリオタ神の護符は、俺と同じ中将。

 大隊長の皆様の護符は中佐と大佐、お一人准将がいらっしゃる。


 はい、すみません。俺みたいな中途半端が階級上で。半年でいなくなるから許してほしい。本当に、よろしくお願いします。

 とりあえず廊下で待っているテイラムと一緒に現場で挨拶して、明日からの職務の準備だ。





 新任の中将閣下が退室した後、騎士団幹部たちの間に微妙な空気が流れた。

「何と言うか、腰の低い英雄殿ですな」

 最初に声を出した年かさの准将に、一同は同意の頷きを返した。


 オスカー・ランドール中将、救国の英雄と呼ばれる男。

 子爵家当主という中位貴族でありながら、若くして数々の軍功を打ち立て、高位貴族以上のスピードで出世街道を驀進中。

 バルトコル伯爵の娘婿でデイネルス女侯爵の義弟、王家の覚えも目出度いとくれば、どれほど怜悧な傑物が来るかと身構えていたのだが。

「カロテタリアの惨劇がありますからな。軽視無きよう、心いたしましょう」

「左様、左様。油断禁物ですぞ」

 どれほど平凡な男に見えても、そんなはずは無いのだから。



 カロテタリア騎士団の惨劇。それは五年前に遡る。


 長の戦乱の始まり、隣国トマーニケ帝国との戦闘が一応の終息を見た時。

 兵站を一手に引き受けていたランドール少佐は任地を離れた。その直後。各地から届く補給物資が大渋滞を起こした。


 まず、馬車や荷車を停める場所が足りない。適切な誘導が無いから、荷卸し場所が分からない。適当に仮置きして帰還しようにも、来た道は大渋滞で通れない。 

 無秩序に下ろされた積荷が障害物になり事態は悪化、その内、立ち往生していた荷車が帰りの飼い葉や食糧を食い潰し、せっかく運んで来た物資に手を付けだした。


 さすがに放置できなくなった首脳陣が解決に乗り出した時には手遅れ。

 人海戦術で何とか渋滞を解消したものの、バラバラに仮置きされた物資の中身を誰も把握していなかった。荷解きしたら腐った生鮮食品が出てくるわ、必要な薬品を探して医療品の箱を開けたら、中身は包帯しか入っていないわ。

 結果的に、カロテタリア騎士団は大量の物資の山の隣で、すきっ腹を抱えることになった。


「なぜ、ランドール少佐一人が居なくなっただけでこうなる。少佐の部下はどうした!」


 騎士団長の怒鳴り声に応えたのは、先日まで少佐の下で働いていた下士官だった。

 少佐の部下は副官一人と、国王陛下より遣わされた近衛騎士二人きり。負傷兵が一時的に手伝っていただけで、固定の人員はいなかった。

「本官は指示に従っていただけですので、全体像は分かりかねます。同僚も負傷が戦闘に耐えられる状態になり次第、原隊に復帰して行きましたので、入れ替わりが激しく、全員は把握しておりません」


 それでは騎士団の元々の兵站は何をしていたと調べれば。

「平時であれば、注文した物資を業者が配達してきます。そのまま受け取り各所へ配分いたします」

「此度の戦闘中は、集積場所および中継所へ整理整頓して運び込むまでがランドール少佐率いる兵站統括部隊の任務、騎士団内へ分配するのが我々の任務と、役割分担しておりました」

「戦時の補給部隊の受け入れ態勢をとれとおっしゃるなら、増員が不可欠。どれだけの労力が必要かは、この騒ぎでお判りいただけたかと愚考いたします」


 次々とやって来る輸送隊を前に、騎士団長は黙り込むしかなかった。


 (はか)らずも証明されたランドール少佐の有用性は、セマトシー騎士団とサリテムル騎士団でも把握されていた。王都警備隊からの配置転換要請書、つまりは引き抜き願いが三騎士団そろって王宮へ提出されることになる。

 少佐の取り合いが起きかねないと危惧した国軍首脳部は、国軍総司令部付きとして少佐を取り上げた。その上で、半年ずつ出向させて各騎士団の兵站部の立て直しを任せた。

 その結果を見た他の騎士団も、ランドール准将(論功行賞により昇進した後だった)の派遣を要請し、順番をめぐって争うほどだった。



 半年間長期出張をこなし、ひと月長期休暇を取る。このサイクルで騎士団を渡り歩いたオスカー・ランドール准将だが、やむを得ず出張を延長する事態が二度あった。天災と、戦後のデルスパニア王国が国力を落としていると勘違いしたネズミの争乱だ。

 トマーニケ帝国以外の他国にたきつけられた、国内の不満分子の反乱騒ぎが一度。長雨による洪水と山崩れで大規模な難民が発生、避難テント設営に奔走したのが一度。

 どういう訳だか、どちらも騎士団の出張(でば)る戦闘が起きて、どさくさ紛れに昇進していたのは謎である。

 ちなみに本人は、自分が救国の英雄呼ばわりされていることには全く気付いていない。





「おーい、ランドール中将閣下、王都から召喚状が来てるよ」

「えっ。まだこっちに来たばっかりだぞ。何か起きたのか」

 テイラムが顔の横でビラビラさせている、やけに上等な封筒に手を伸ばす。


 宛名はオスカー・ランドール子爵。軍じゃなくて貴族関係か。俺、苦手なんだよな。兄貴に丸投げできないかな。

 差出人はっと。




    ……国王陛下ぁ!?


 




 いつの間にやら中将に出世したオスカー君。本人無自覚に何やらかしたんでしょうか(笑)


 お星さまとブックマーク、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公が各地の兵站部門に引っ張りだこというか争奪戦になったこと、こういう無自覚型のチート野郎を下手に1ヵ所に置いておくとしらぬ間にこいつがいないとなにもできない組織にまで堕落しかねないから…
[良い点] 更新お疲れ様です。 [一言] 「輜重輸卒が兵隊ならば蝶々蜻蛉も鳥のうち」 なんてことを日本陸軍では言っていたとか。 だから負けた。
[一言] ちょっとまて、5年前引継ぎしないで引っ込んだんか? つーか引継ぎ要員来なかったん?
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