フラグは折れた
東京に雪予報ということは、冬型の気圧配置が崩れたということ。北陸は雪から解放されてます。
春が待ち遠しいけれど、花粉の季節が近づいているかと思うと、ちょっぴり憂鬱です。
ミリオタ様の神託、死亡フラグの扱いがすごいことになっています。
「あー、それ、ミリオタ様の死亡フラグだよねぇ」
がっくりと肩を落とした俺に、テイラムがにこにこと追い打ちをかけてくる。
「それで。家に手紙出してなかったの。後方支援なんだから、出そうと思えば何時でも出せたでしょうに」
「悪かったな、余裕なくて。毎日いっぱいいっぱいだったんだよ」
ミリオタ様の神託の中に、死亡フラグというものがある。
今度子供が生まれるんだとか、帰還したら告白するぞとか、あの娘と結婚するんだとか。希望に満ち溢れた未来を口にすると、意識を持っていかれて一瞬の隙ができるのだと言う。
戦闘中の隙は命に係わるので死亡フラグは厳禁。本人に知らせてもいけない。知らなければ、現実逃避して幸せな夢に浸ることもない。
戦闘中かどうか、戦場のどこに配置されているかは軍事機密になるので、家族から問い合わせても教えてもらえない。ただし、戦地から手紙が来れば、その手紙に対して一度だけ返信できる。
届いた手紙の返信になら、安心して嬉しいお報せを書いて良い。手紙を書く余裕がある、つまり戦闘中ではないということだからだ。
もし戦闘になっていたら、終了するまで返信は留め置かれて、本人まで届かない。
じゃあ何で俺に手紙が届いたかだって。
軍事郵便じゃないからだよ。デイネルス侯爵家から届いた追加の補給物資の納品目録にくっついてきたメモだったんだよ。息子の誕生日も名前も書いてないから、分からないんだよ。俺は父親なのに。
「手紙が書けないほど大変だったんですねって、怒られるのと心配されるの、どっちが良い」
だから追い打ち掛けないでくれよ、テイラム。
慌てて手紙を書いたけど、返事が来る前に停戦協定がまとまったと告知された。
これから正式な終戦の協議が始まるので、援軍に来ていたセマトシー騎士団とサリテムル騎士団は撤収することになった。
戦闘員と補助団員、負傷兵に遺体まで、諸々合わせて一万人ずつが二方向へ大移動するんだ。帰路の物資の用意でてんやわんやになって、家から返信が来たかどうかの確認も出来なかった。
それが一段落したら、今度は俺に帰還命令が来た。
期日が決まっているもんだから大慌てで王都に向かって、その間に返信が宛先不明になってしまったことを知ったのはずいぶん後、家に帰ってからだった。
王宮、謁見の間。
今日は国軍首脳部から正式に戦勝報告がなされ、続いて論功行賞が行われることになっている。
左右にずらりと並んだ王国の重鎮の方々。玉座正面には、軍人の一団が威儀を正している。その一番末席に、俺もおまけで列席している。
まさか貴族の教養として学んだ謁見の間の作法を実践する日が来るとは、人生何が起きるか分からないもんだ。
式典は粛々と進んで、論功行賞に移った。まずは騎士団首脳部、次に立派な戦功を立てた実戦指揮官が名を呼ばれ、昇進や報奨金を与えるというお言葉を受け取っていく。
「王都警備隊東城門中隊、オスカー・ランドール少佐、前へ」
「はっ」
ここから先は、形式に則って動くだけだ。業績を読み上げられ、褒章を言い渡されて、「有り難き幸せ」と答えればミッション終了。俺で最後だし、簡単に終わるはず。
「オスカー・ランドール少佐は、此度の戦において、いち早く物資を提供した。この功績により、中佐に昇進するものとする」
「謹んでお受けいたします。有り難き幸せ」
まあ、褒められるのも任務の内なんだろうな。ただのお飾り隊長だけどな。
「次に、オスカー・ランドール中佐は兵站を統率し、一度として前線の物資の不足をまねかなかった。また、カロテタリア騎士団、セマトシー騎士団、サリテムル騎士団の負傷兵に後方支援の任を与え、もって、三騎士団の人員の交流を図り、騎士団の連携に寄与した。この功績により、大佐に昇進するものとする」
え、いやあの、人手不足だったから、目の前に居る人員を引っ張って来ただけなんですが。
「さらに、オスカー・ランドール大佐は、カスム渓谷の戦いにおいて敵軍の動きを看破し、奇襲を未然に防いだ。この功績により、准将に昇進するものとする」
あー、あれ。敵の動きがスムーズじゃなかったというか、違和感があったというか。城門で毎日物流見てたから、なんとなーく解るようなあやふやな感覚だったんだけど。
俺は物資の新しい集積場所の打ち合わせでちらっと言っただけで、奇襲を看破したのは騎士団のエリートの皆様ですが。
「昇進に合わせ、王都警備隊の任を解く。改めて国軍総司令部付きとする。より一層の忠勤に励むように」
「つ、謹んで、お受けいたします」
三階級特進の上に、国軍の中枢入りですか。どう考えてもやっかみコースですね。
助けて、テイラム!
今回、王様のごり押しが見え隠れ。オスカー君の明日はどっちだ。
てんやわんや、若い人はピンと来ない表現かも。
昭和の漫才師の大御所、獅子てんや、瀬戸わんやさんは秀逸でした。ネットで検索すれば見られるなんて、すごい時代になったものです。




