そして戦争
雪です。明日に向けて、積もりそうです。雷は鳴っていないからほどほどで済みそうです。
昨夜は北京オリンピックの開会式。聖火台のアイデアが、目から鱗でした。トーチをそのまま台座に差し込むなんて、ナイスアイデア。
デイネルス侯爵領地軍の兵士たちが護衛する輸送隊は、無事、カロテタリア騎士団の宿営地に到着した。
騎士団との折衝は、ホーネット中佐と近衛騎士のお二人がさらっとこなした。
実務に関しては、頼りになるテイラムがいる。騎士団の兵站担当の兵たちと共同で、幌馬車に積まれてきた物資を流れるように仕分けして荷下ろししていた。
「伊達に門兵やってないからねー。荷車関係ならバッチリ、バッチリ」
相変わらず軽いな、テイラム。仕事はできるのに。
空になった幌馬車は、さっさと返さないと負担になる。馬の飼葉や人員の食糧だって持ち込みなんだ。使い切る前に帰還しなけりゃ、難民になってしまう。
近辺の町や村で補給するのは最終手段。限りある物資はできるだけ温存しないと、いつ誰が必要とするか分からないからな。
そう思っていたのに。
「ランドール子爵家からの支援、感謝する。このまま留まり、後続の補給隊の受け入れと統率をお願いしたい。幌馬車は、負傷兵の後送に使わせていただければ有り難い」
わざわざ出向いてきたカロテタリア騎士団の副団長の申し出は、既定路線だったらしい。ホーネット中佐がそのまま担当するとかで、早速、テイラムと打ち合わせを始めた。
いや、形式的にはランドール子爵家ですけど、中身は百パーセントデイネルス侯爵家なんですが。それに負傷兵の後送前提なんですか。本格的な戦闘が避けられないってことですね。
同じ国軍と言っても、王都警備隊と違って、騎士団は本物の戦闘集団だ。非常事態を想定してひたすら訓練を重ねる存在。それが本気で準備しているんだと、これから戦争だと、嫌でも実感できた。
それからは目まぐるしかった。
次々と到着する軍事物資、規模も規格も違う馬車の群れ。城門警備のスキルで交通整理して、爵位をかさに優遇措置をごり押ししてくる連中は近衛騎士のお二人にお任せして。
刻々と変化する前線で必要な物資の情報を怒鳴りあって、足りない物資を融通し、兵糧の消費期限の組み合わせのパズルに頭を悩ませ。
後送するほど重症ではないが戦闘に参加できない負傷兵を、臨時の部下に迎えて人員を確保して。
前線が移動するたび、物資の集積場所を変更しあるいは中継地点を新設して。
援軍のセマトシー騎士団と追加で派遣されて来たサリテムル騎士団、元のカロテタリア騎士団合わせて三万人の兵站をぶん回して右往左往している内に、二年が過ぎていた。
二年以上も戦争が続いたのは、我が国が損害を最低限に抑えて防衛に徹したため。逆侵攻して泥沼の消耗戦になるのを嫌ったからだ。
敵国トマーニケ帝国が侵攻を諦めなかったのは、皇帝の後継者争いが絡んでいたから。どの陣営が戦功を稼げるかで競っていたそうだ。直接対決で内戦していればいいものを、はた迷惑この上ない。
おかげで連携の取れない敵を各個撃破できたようなものだから、悪いばかりではなかったらしいが。
停戦のきっかけは、トマーニケ帝国皇帝の崩御。さすがに対外戦争どころではなくなって、帝都で睨み合いが続いているそうだ。そのまま内戦に突入するか、政争で勝負が決まるかは微妙らしい。
これで終戦になってほしいが、新帝が即位するまでは様子見だろうな。
戦闘は無くても、騎士団三つ分の兵站の仕事は続く。待機しているだけで、兵糧は減っていくんだ。
それでもピリピリした空気が薄れて、少しは気楽な毎日の中で、家から手紙が届いた。
『あなた、お疲れ様です。一日も早いお帰りをお待ちしています。戦が終わるまではとお知らせしていませんでしたが、もう、安心してお伝え出来ます。
息子が生まれました。もうすぐ二歳の誕生日です。お父様にご挨拶できるよう、練習していますから、楽しみにして下さいませ』
何ですと!?
戦争の論功行賞は帰還してからになります。
知らない間にランドール家次男が誕生していました。オスカー君、ちょっと混乱しています(笑)
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