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彼は男爵家の後継者に成りたいだけだった  伯爵? 公爵? 無理無理無理!   続編も始まったよ  作者: お冨
第二章 舞台裏には 

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近衛騎士とは

 前から書く書く言っていた、近衛騎士の薀蓄です。会話率がものすごく高いのは御愛嬌ということで(;^_^A

「近衛兵は伯爵家、近衛騎士は侯爵家と公爵家の余剰人員の受け皿。ただし、近衛騎士は王族の警護を務めるから、採用基準が途轍もなく高い。少なくとも騎士団の隊長クラスより腕が立つし、一時的にだけど、負傷した護衛対象の代理を務められるだけの頭も要る。これが表向きだね」

 にっこり笑って、近衛騎士のキリー・オートル侯爵家三男様が言ってきた。手にしたマグカップを渡してくれる。

「はい、どうぞ、隊長」

「あ、ありがとうございます」


 俺はなりたての少佐、近衛騎士よりずっと下の階級だ。貴族としての序列も、中位貴族の子爵家当主と高位貴族の子弟のお二人では、微妙にこちらが下になる。もちろん、お二人が公爵家と侯爵家の当主だったら、比べ物にならない。

 なのにお二人が俺の下に居るのは、俺がこの輸送隊の隊長だからだ。


 通常は階級の高い者が責任者になるのだが、ごくまれに逆転現象が起きる。気まずいわ、やり難いわ、遠慮や忖度でややこしいわ、勘弁してほしいと言いたい。

 それでも軍では階級より役職優先のルールが徹底してるから、文官よりマシらしい。


 カロテタリア騎士団のホーネット中佐も階級が上だろうって?

 中佐はいいんだよ。輸送隊の隊員じゃなくて、原隊復帰のために同行しているだけだから。互いに命令権はないし、部下でも上司でもないのは気が楽で良い。


 ちなみに近衛騎士は役職じゃなくて階級になる。そもそも国王陛下の私兵扱いだから、国軍の組織には属していない。

 戦乱の時代には、王族の警護に専念して戦場に出なかったけれど、敵の襲撃を完膚なきまでに叩き潰した勢いで敵軍に大損害を与えて、勝利を決定づけたこともある。軍事の教科書に載ってるくらい有名な話だ。


「それで、舞台裏の話になるけどね。近衛騎士は全員が王位継承権を持っている。つまり、天津箱舟に受け入れてもらえるということだ。いつの日にか、テラフォーミングが完成する時が来る。それは明日かも知れないし、千年、一万年、もっとかかるかも知れない。その時になって、誰も天津箱舟を動かせませんじゃ困るんだ。我らは天津箱舟の乗組員。もう一度(そら)に浮かべて星の海を航海する。そのための技能を継承する。それが近衛騎士の最大の任務だ」


 キリー卿の顔が、怖いくらい真剣だった。


「たとえ王家が滅びても代わりの王が立つ。今の高位貴族なら、誰もが王になる正当な血統を持っている。しかし、天津箱舟を起動し操縦する技能が途絶えてしまったら、それで終わりだ。二度と宙を飛べなくなるし、人類滅亡の危機を回避する手段を無くすことになる。我らが王族を警護しているんじゃない。近衛騎士を護る隔離場所として、王族の身辺を利用しているんだ」


 俺は何も言えなかった。

 意味の分からない呪文がところどころ混じるけど、ここまで言うんだ、天津箱舟は実在するんだろう。王が絶対の忠誠を捧げられているわけじゃないのは、国王執務室でこの目で見ている。


 兄貴、本当に、高位貴族と中位貴族の常識の差はとんでもなかったよ。



「はいはい、落ち着いてー。そんな深刻な顔しなくても、世の中は表の話で回っていくからね。舞台裏があるってことだけ承知してればいいから。他言してもいいけど、だーれも信じないし、いつの間にか行方不明になりたくないでしょー。 ほら、笑って笑って」


 何気に一番怖いことを言うのがテイラムだな。それより、お前、平民だろ。影武者してただけでここまで知ってたのか。


「だから、貴族院は高位貴族の血統の管理が仕事なんだって。それに、(うち)は元貴族の平民だよ。ずーっとたどっていくと、天津箱舟の事務長になるから。血が薄くなりすぎて箱舟に拒否されて高位貴族から降りたんだよ。ざっと二千年くらい前かな。舞台裏については、口伝で伝わってるんだけど半信半疑って言うか、影武者の話が来た時に初めて確信したね」


 二千年って、何だろう。そんなに血統管理して、なんだか家畜の交配じみていないか。


「貴族院に限らず、王城で文官している平民は、ほとんど元高位貴族の血筋だよ。高等教育の必要性を理解してるから自然とそうなったんだけどさぁ。普通の平民は、成れるかどうか分からないのに文官目指して勉強しようとは思わないし。ほら、農民の子は畑仕事するし、商家の子は計算と簿記を覚えるし、それと同じだよ」


 ああ、それは納得だな。家業に必要だから習得する技術か。


 コンコンコンと、板を打ち鳴らす音がした。食事の用意ができた合図だ。

「さ、難しい話はここまで。腹が減っては戦はできぬだよ。しっかり食べて明日に備えようね」

 にっこり笑ったテイラムに手を引かれて、立ち上がった。


「知恵熱出さないでねー。考えすぎると眠れなくなるよー」



   誰のせいだ、誰の。


 






 宇宙船のコクピットのシミュレーターで、訓練している中世の騎士。想像したら、とんでもない絵面になりました。うわぁ。

 近衛騎士が、秘密結社じみて来た。


 階級と職務の逆転現象の気まずさ。これは、年上の部下を持った若手の管理職を想像していただけると分かりやすいかと。

 定年退職した元部長が嘱託社員の身分で部下になったとか、先輩が留年して同級生になったとか、現実にあるそうです。


 お星さまとブックマーク、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] >宇宙船のコクピットのシミュレーターで、訓練している中世の騎士。想像したら、とんでもない絵面になりました。うわぁ。 ポール・アンダースンの天翔ける十字軍を思い出しました ワープ宇宙船を持っ…
[良い点] 更新お疲れ様です。 [一言] 我が母校(高校)では学力が足りない連中は運動部に加入していました。 運動部にいれば最低限度の点数は貰えたから。 そして三年になれば部活動内では神様ですから夏休…
[一言] っ【バトルテック】
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