戦争準備 パレード予定
読んでいただきありがとうございます。近衛騎士の薀蓄までたどり着きませんでした(笑)
家への連絡と説明は、兄貴が引き受けてくれた。
王命による代替わりは、当主の不始末の責任を取らせて隠居させるという意味がある。さすがに外聞が悪いので、表向きは父さんから隠居願いが出されたことにするそうだ。
「ついでに届けてやるから、キャサリン義姉さんとニーナさんへの手紙を書け。あとミリアちゃんへも書けよ。しばらく帰れないんだから、顔を忘れられて小父さん誰なんて言われたくないだろ」
「不吉なこと言うな。ちゃんと父さんって呼んでくれるよ。ミリアはものすごく可愛いんだぞ」
「言ってろ親ばか。あと、父さんじゃなくてお父様か父上って呼ばせろよ。今から癖にしておかないと、子爵令嬢として侮られるぞ」
あー、父上なんて俺の柄じゃ無いんだけどなぁ。そう思っていたら、テイラムに肩をポンと叩かれた。
「色々、慣れようねー。貴族にはハッタリも必要だよ」
分かってはいるけどさ。
「とりあえず、明日、王都を出立してデイネルス侯爵領へ向かってくれ。大々的にパレードして市民にアピールしてもらうからな」
「パレードって、なんでまた」
「騎士団は任地から直接向かうから、王都に寄らないだろ。国が軍事行動を起こすっていう告知を王都でもしておきたい。ついでに、お前の立候補の顛末を大々的に発表して、ターゲットの貴族家の尻を蹴飛ばすため。お飾りじゃないぞ。本物の軍馬で、近衛兵三十人を引き連れてもらう」
近衛兵三十人って、どういうことさ。建前上は、領地軍の指揮官だぞ。近衛兵で部隊作れるの?
「あのなぁ、いくら独立指揮官の集団だからって、ある程度は組織化されてるんだよ。じゃなきゃ、旧市街の警備だってできないだろうが」
貴族には、寄り親、寄り子という言葉がある。下位の貴族家が、地縁血縁をたどって、上位貴族家の庇護下に入る制度だ。無頼の徒の親分子分に近いとも言える。
寄り子は、揉め事の仲裁や縁談就職の斡旋、仕事の人脈などで寄り親を頼る。寄り親は庇護する代わり、寄り子を自分の手足として都合よく使う。
戦乱の時代、地方貴族の領地軍は王都の城壁の外側で待機して、指揮官だけが王宮に伺候した。王命一つですぐさま出陣するためだ。
戦乱が治まると領地軍は自領へ帰還したが、指揮官の多くは王の傍に留まった。
出世の糸口が欲しい、王宮に伺候できるというステータスを失いたくない、田舎暮らしより王都の暮らしが良い、今更戻っても故郷に居場所が無いなど、理由は様々だ。
紆余曲折を経て、彼らは近衛兵として社会に組み込まれた。それぞれの寄り親の屋敷に居候し、寄り親の担当する地区の警備を任された。
衣食住全てを面倒見てもらう恩返しであり、決して雇用関係ではない。あくまでも主君は王家だ。建前と伝統は、本当に大事なのだ。
「寄り親は、どれだけ近衛兵を居候させられるかがステータスになる。いざってとき、近衛兵が担当地区の住民を避難誘導するのは寄り親の屋敷だ。結構、合理的な仕組みだったんだよ」
時代は流れ、新市街が拡大して王都警備隊が発足した。それでも旧市街では、近衛兵の制度がそのまま残ってる。
「うちの近衛兵の半分をパレードに出す。寄り親が寄り子に依頼するんだ。どこからも文句を言われる筋合いは無い。そのままデイネルス侯爵家まで連れてってくれ。そこから先は、我が侯爵家の領軍の仕事だ。テイラムとゼルム卿、キリー卿、それにカロテタリア騎士団のホーネット中佐が同行する手筈だ」
「ホーネット中佐、無事だったのか」
少しホッとした。最後に見た時、血まみれで馬の下敷きだったもんな。
「そりゃそうさ。週に一度は荷車の横転事故に呼ばれるんだよ。城門兵の手際の良さと言ったら、ほれぼれするよー」
テイラムが自分の事のように自慢した。
「血まみれだったのは、盛大に擦り傷作った馬のせい。さすが軍仕様の馬具だよね。横倒しだけなら、怪我しないようにちゃんとガード付いててさぁ。馬の下から引きずり出したら、本人は打撲と捻挫だけ。スタミナ使い果たしてただけで命に別状なし。すぐにでも戦場に戻るって騒いでたけど、捻挫が悪化したら足手まといになるだけだって、軍医に怒鳴られてた。甘く見るんじゃないってね」
ケラケラ笑うテイラムに、兄貴が咳払いした。
「輸送任務なら速度もそれなりだ。騎士団に合流するころには、中佐の怪我も癒えているだろう。カロテタリア騎士団への案内役を要請した。なに、断られたら、誰かさんに命令してもらうだけさ」
誰かさんって、誰。
国王執務室にいらっしゃった方々の顔が浮かんだのは、考え過ぎだと思いたい。
ミリアちゃん、名前出ました。可愛い娘にオスカー君メロメロです。
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