戦争準備 打ち合わせはランチと共に
今日は晴天でした。北陸では、一冬に一日有るかどうかレベル。空って青かったんですね(笑)
「我が家自慢のパスタですのよ。お味はいかが」
ニコニコと女主人を務める義姉様。うん、この笑顔が曲者だって、俺にも分かる。
俺だって学習するんだ。
食堂に入って来た義姉様の後ろから、ぞろぞろとワゴンを押したメイドさんたちがついて来た。一人に一台のワゴンで給仕されたのは、ありふれた家庭料理。パスタとスープ、簡単なミニサラダだ。
ありふれていなかったのは、俺でも知ってる超高級品の食器の数々。
これって、実用品じゃなくて、食器棚の飾りとして展示してあるやつだよね。一枚で俺の二月分の給料が吹き飛ぶよね。カトラリーだって、めっちゃ高級感出してるよね。
手の一振りでメイドさんたちを下がらせて、義姉様は同じテーブルについた。もちろん、兄貴の隣だ。
「さて、では、ここからは楽屋裏ですわ。好きに話してよろしいけれど、一切他言無用ですわよ」
楽屋裏って、普通に使う言葉なんですね。高位貴族の符丁なんだ。
「これからよろしく。私はオートル侯爵家の三男でキリー・オートル。リアーチェとは父方の従従兄で母方の又従兄。血の濃さで言えば、伯父になるな。もう一親等血が薄かったら、リアーチェの婚約者に成れたのに残念だよ」
はあ。又従兄弟とか普通はほとんど他人なんだろうに。
「僕はゼルム・カース。カース公爵家の次男だよ。血の濃さはキリーと似たり寄ったり。そこらへんは殿下が詳しいから。貴族院の重要な仕事が、血の濃さの管理だからね」
「いやもう、勘弁してくださいって。もう殿下じゃないんだからさぁ」
「良いじゃないか。舞台裏なんだし。殿下の方が慣れてるし」
テイラム、からかわれるほど仲が良いんだな。それにしても、何で近衛騎士のお二人がわざわざいらしたんだ。ひょっとして俺の監視か。
「話は食べながらで良いでしょう。せっかくのスープが冷めますよ」
兄貴の一言で、なんだか味のしない昼食が始まった。
「今度の輸送任務に、私たちも同行するよ。あくまでも表向きは、立候補して任務に就いたオスカー・ランドール子爵のために、勅命を下した陛下が付けた貴族との折衝役だ。テイラム君とは無関係を通す。ただ、子爵と行動を共にしているテイラム君と距離が近いだけで」
さすがにお上品な食べ方で、さらりとおっしゃった。
「で、時々うっかり、テイラム君のことを殿下と言いかけたり、出会ったときに一瞬背筋を伸ばしたり、思わせぶりなしぐさをすることになっている。少しばかり違和感を持たせる程度に」
「そうそう。一般兵は全然気づかないさじ加減でね。あとは、貴族たちが勝手に深読みして、協力的になってくれるのを期待するだけ。わざわざ近衛騎士が非公式に護衛する対象だってね。そうだな、王族のどなたかの隠し子とでも匂わせられれば大成功だ」
止めて欲しい。ただでさえ少ない食欲が壊滅するから。
「ああ、気にしなくていいよ。この任務、私にとっては楽しみなんだ。実を言うと、殿下が亡くなられてから初めての任務なんだ。護衛対象のいない護衛の存在意義って、正直、虚しくてな」
「オスカー、同情しなくていいぞ。お二人は近衛騎士の精鋭だ。陛下の最も信頼する私兵だよ。黒旗が走ってくる無人の通路ができたって報告があると、国王執務室の控えの間に緊急招集されるメンバーなんだから」
「そうでしてよ。マイダーリンの言う通りですわ。刺客が成りすましている可能性があるのに、陛下の御前までノーチェックで通されるのが黒旗。お二人は最後の砦になるだけの力量と信頼をお持ちですの」
そうなんだ。ひょっとして、陛下の前で直立不動してた時、お二人も緊張されていたのかな。
断れない任務に、胃が痛くなりそうなオスカー君です。次話で近衛騎士についての薀蓄を書きたいな。
輸送任務、まだメンバーが増える予定。
お星さまとブックマーク、ありがとうございます。




