辻馬車に乗って
王都観光、してみたい。貴族の高級馬車の乗り心地は現代乗用車並みだけど、乗合馬車はどれくらいでしょう。昭和の軽トラやジープくらいかな。
昭和五十六年豪雪、略してゴウロク豪雪の時、除雪が追い付かなくて雪道がガタガタの悪路になりました。街を走る車の半分がジープ。
当時は四輪駆動の乗用車があんまり有りませんでしたから、ジープくらいしか使い物にならんかった(笑)
あまりの悪路に、低い天井に頭をぶつけましたよ。
誤字報告、ありがとうございます。゛と゜老眼だと判別しにくくて間違えていてもわからないという罠。
王都内の乗合馬車は、東西南北の城門前広場が起点になっていた。
王都警備隊にいた時の職場の目の前だったからな。毎日見てたら、それなりに詳しくなる。あの馬車が出発したら交代だなんて、時計代わりにしてたもんだ。
今でも起点に変わりはないんだが、新幹線王都駅への往復が付け加えられている。用のない者は、駅から戻ってきた馬車に乗れば良いから影響なしだそうだ。
「元々は王都駅と城門前を、往復するだけの便が、あったんだけどね。いやあ、すごい人気で、乗車待ちの行列ができる騒ぎになって、今の形に落ち着いたんだよ。何度見ても飽きないから、ついでがあれば、みんな駅まで、足を延ばすんだ。さすがに西門や北門からは、出てないけどね」
馬車の揺れに合わせて話してくれた小母さんは、自分のことのように自慢した。王都駅、すっかり観光名所になってるようだ。
「見物だけじゃなくて、一度でいいから、乗ってみたいもんだけどね。わざわざ出かける、用事がないからねぇ」
話好きな小母さんは、地方から出てきた俺たち向けに、王都のお勧めの店とか治安の良い宿屋とかの話をしてくれた。ニーナは楽しそうに聞いてるし、平民街の追加情報をあれこれ催促して楽しそうだ。
これ、貴族街に家があるんですって今さら言えないよな。
平民街を巡る乗合馬車だけど、貴族街に乗り入れるルートが一つだけある。城門から続く大通りを真っすぐ進んで、王城前が終点だ。
王城の正門は大きく開かれていて、入ってすぐの広大な前庭が公園として開放されているんだ。平日でも大勢の人で賑わっている。
王城の周りは、公爵家と侯爵家が並んでいる。高い塀が延々と続く道しかないから、まず、歩行者は見かけない。たまに貴族仕様の高級馬車が通るだけだ。
御用商人が御用伺いに出向くときは、自前の馬車を使う。馬車を持ってないような零細商人はそもそも御用商人になれないしな。
伯爵邸は、お屋敷街を取り巻く高級住宅街に並んでいる。ここでも幅を利かせるのは家紋付きの高級馬車だけど、平民の馬車もそこそこ見かける。
さすがに乗合馬車は走ってないから、貴族街の入り口で御者付き貸し馬車をレンタルするのが普通だ。
俺? もちろん貸し馬車に乗るよ。だって今、休暇中だし。
「お客さん、本当にここで降りて良いんですかい」
貸し馬車の御者が、戸惑った声で念押ししてきた。
「ここはこんな塀ばかりが続いていて、歩くと大変ですぜ。巡回してる、あー、近衛騎士の制服着た警備兵なんかにしょっ引かれたら、絶対面倒なことになりますって。悪いこと言わないから、帰りも乗ってった方が良いですぜ。旦那が乗らないってぇならどうせ空荷になっちまうし、帰りのお代は半額にしときまさぁ」
商売上手だけど、それだけじゃないんだろう。本当に心配してくれてるのが分かる。
「ありがとう、ここで間違ってないよ。ほら、これで一杯ひっかけてくれ」
「うおぅ、へへ、毎度あり」
たっぷり酒代をはずんで、気持ち良く帰ってもらった。
ニーナと二人、旅行カバンを引っ張って道を少し戻ると、壁をくりぬいたような勝手門が見えてきた。
さすがに徒歩で正門に回るのは憚られたし、勝手門ならすぐ使用人に来てもらえるから……。
「それで、どうしてお前がここに居るんだ、オスカー」
呼び鈴押したらすぐに勝手門が開いたけど、目の前に兄貴が仁王立ちしてた。
「お前たちを乗せた貸し馬車が正門前を通り過ぎたと、門番から報告があってな。まさかと思ったら案の定だ。すこしは公爵の自覚を持て」
さすが侯爵邸の門番、優秀ですね。
いや、悪気はなかったんだよ。それに俺、今、休暇中だから。
そんなに怒んないでくれよ兄貴。
ようやくデイネルス侯爵邸に到着。可愛い子供たちは次回に持ち越しとなりました。
オスカー君、休暇中で済まそうったって、そうは問屋が卸さないようで。
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